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第四章 不思議な世界

第百五十四話 セラミヤが受けた依頼

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  ――結局判断が出来ずにラウールにまた話しに行った。

  弟子に囲まれていたラウールと、ラウールのパーティーメンバーは俺がそんな話をしても嫌な顔をせずに、弟子たちと別れ、俺とソクランスさんと話し合いをしてくれた。


「で、僕たちに何をさせたいの?」

  ラウールは何を思ってるの?

「そう身構えないでくれたらありがたいんじゃが……。そこまで難しい事は言わないんじゃ。――ただ安全に聖女がこの地で過ごし、この地を去ることが出来たら良いのじゃ。契約範囲は、隣の都市と中間地点、――町までの範囲じゃよ。その範囲の魔物や盗賊を間引いてほしいんじゃ」


「――町が何処だかはわからないけど、僕たちがその依頼の範囲にいるときに、聖女様?の護衛をしたらいいんじゃないの?」


「……それでは困るのじゃ。一番は聖女の安全じゃが、ジルアキラン教団の護衛がいるから、それは無視ができぬのじゃ。本当は任せたいのじゃが、タラトン王国でオークが出現したことは……そこのお前さんも知ってるじゃろ?」


  俺にか! 俺にそれを言うのか……。事情を知っている? だけど、初めて話をしたときの態度は、そんな俺の事情を知っている感じじゃあなかったけどな……


「……なんの事か……」と、そう言うのが精一杯だった。


「――できる限りの安全を求めたいのじゃ!」


  ……


「……僕はあなたから悪い感じを受けないけど、今回はセラミヤを鍛えたいと思ってるから、セラミヤに任せるよ。たぶん僕がこう言ったから、皆もそれに賛成するよ。――だからセラミヤはどうする?」


  ――ラウールたちからも俺に?
  ――俺が決めるのか?


  ……
  ……

  何だか俺はこんな場面で何かを決めたことはないぞ! だけど俺は光の勇者なんだよな。――これから先にも何かの決断に迫られるよね……。ん~、勇者……、勇者の選択……


「……困っている人は助けます……」


「……ファイナル◯ンサー?」


「「ふぁいなるあ◯さー?」」

  ソクランスさんと言葉が重なってしまった。でも、なんのことだ?


「ラウール、それはわからないと思うわよ。――あなたたち、覚悟は決めた? 私たちが活動する事で決まりなの? ――それくらいは言わないと!」


  サクラがラウールの言葉を通訳してくれた。うん、それならわかるよ!


「――」

「ふぁないああんさあだ! ――俺の覚悟は決まっているよ!」


  口が回っていないぞ酔っぱらいか……俺は……


「わかったよ、じゃあソクランスさんは黒猫に指名依頼を出してきて。流石にセラミヤにはまだ指名依頼は出せないだろうから。で、セラミヤは僕たちと臨時パーティーを組むよ。ちょっとランク差がありすぎるから、周りの冒険者に知られたらまずいかもしれないけど」



~~~~~



  俺とソクランスさんはラウールに言われた通り、冒険者ギルドの受付で手続きをした。勿論ラウールたちも一緒にいる。


  今回俺の初依頼になったのは、魔物や盗賊を倒した数や質の歩合になっている。討伐証明部位の提出はあるが、本当にこの辺りで倒したかは、俺たちを信用するから調べないと言ったソクランスさん。

  ――もっと疑った方が良いのでは、と言いそうだった。



  だが早速ラウールに誘われて、ラウールと俺、クロウとでタダンタ市の外に出た。
  サクラたちは冒険者ギルドで弟子や弟子予備軍に稽古をつけるそうだ。


「それでセラミヤ、君はどれくらいの強さなの? オークを倒せるようだけど、どれくらい戦ったことがあるの?」


  ――どれくらい……


「……広範囲魔法を使わない場合は、オークが五匹いてもいける。だけど、勇者と神託があってからそれくらいの強さになったから、オーク以上の魔物とは戦ったことはないね……。能力を得る前は、ゴブリンまでが限界だったかな? ま~弱かったよ」


  ――ん? 自分で言ってて、何で俺が勇者なんだ? ただ俺を勇者とする。強くする。それだけの神託だったしな? ――俺以外の人の方が適正はあったんじゃないか?


「そっか、それぐらいだと四天王までは遠いね。オーク五匹だと、単純に考えると冒険者ランクはB以上はあるんだろうけど、経験がね」


「でもラウールも同じもんだろ? 幼いときから戦っていたとしても、そこまで経験は変わらないだろ? むしろ俺なんかは貴族として騎士にも鍛えられたから、俺の方が経験を積んでいると思うんだけど?」


「ラウールと単純に比べられないよ! 我ともね!」


「クロウが何でそう言うかはわからないけど、ん~?」


「これでも僕たちはSランクだからね。ま~戦闘力はご想像にお任せしますよ!」


「――想像できない――」


「――ラウール! とりあえずちょうど良さそうな奴を発見! 我についてきて二人とも!」


  クロウの言葉で僕たちは、クロウを見失わないように走った。クロウはセラミヤの事も考えて手加減した速さで飛んでいる。


~~~~~


  俺はどうにかクロウを追った。ギリギリ離されなかったが、速いよ!

  それで到着した場所には、オーガがいた。それもただのオーガよりも強い、ハイオーガだ。


  こんな所では出会うような魔物ではないと思うのだが、クロウが探し当ててしまったようだが、果たして俺に倒せるのか?


  貴族の立場で揃えた、表面がミスリルで被われた片手剣、オーガの革防具。


  ――これで――


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