上 下
143 / 168
第四章 不思議な世界

第百四十一話 妖精の使い道

しおりを挟む
  僕たちはラーバンストから今の状況を聞いた。


  何でもアルグリアン王国でもサポイタンヒュージュン病らしき病が流行り出した。これはまあ普通に治療出来るのだが、それでも治らない人が出てきた。

  そんなときに余裕がある――――バイアント王国より余力があったアルグリアン王国が、妖精を素材にした薬品で治療できたと言う昔の論文を探し出した。


  その論文を読んだラーバンストは早速素材である妖精を探しに旅に出た。――その旅先がナイデラ交易国だった。

  ナイデラ交易国は貿易で何でも集まって来る国になっている。だから探し物が見つかると思って移動した。
  そして移動後にオークションに出品されている妖精のことを聞いて、競り落としたら何かのヒントになるのではないかと考えたそうだ。

  だが僕たちに会って、僕たちに依頼をしたらなんとかなる――――費用対効果でも僕たちに頼むみたい、――俺の気持ち的にも、とラーバンストが言った。

  僕たちに何とかしてもらった方が確実だと考えたらしい。


……
……


「サポイタンヒュージュン病的な病気は僕たちも気にしてたけど……アルグリアン王国でも流行ったの?」


「ああ、国で把握しているのはオークション市――西大陸から感染が拡大していると分析されている。……だろ?」


「何も言うことはないよ――――Sランク冒険者の一般人だし」


「――Sランクがつくほどの冒険者のな……。だからこそ頼みたい、この病気に対抗する手段を!」


  ――ラーバンストが頭を下げた。


「ん~、ラーバンスト……呼称は付けないで話をした方が良いと思うから、このまま話を続けさせてもらうけど、流石に妖精を犠牲にするのはなしで動くからね。いくら大勢の人を助けるためって言っても、妖精族でしょ? それを材料にするって……」


「流石に俺でも命を奪うなどであれば考えんよ。だけど、言い訳かもしれないが羽だよ、羽が薬の材料として書かれている文献を見たんだ」


「羽? 羽も奪っちゃうと回復が大変でしょ! 下手をすると二度と生えないだろうし!」


「――ああ……」


  僕たちは昼飯を食べながら話を続けた。


  ――結局はラーバンストが助けてほしいと懇願し、僕たちは妖精を材料にしないで何とかしよう! と言うことの繰り返しだったが。


……
……


  「さてーーー、午後の部を始めますか! ――ここからは暗くなるまで続くので、よいこは気をつけて帰ってね~。最後までいるなら――――危険を感じたら我が精鋭を紹介しよう! ――格安で!」と言う司会の人の話でオークションが再開した。


  僕とラーバンストはアルグリアン王国を助ける事では同意した。オーション市には弟子も多いから、何かはしてあげたい。


「――お~、これは八十万Eで落札です!」

……

「――おめでとう! あなたは幸運を百万Eで勝ったよ!」

……

「――ん、これがそんなに安く……」

……

「目玉商品を落札おめでとう!」

……

「魔法袋がそんな値段で……これはあなた! ――特級なマジックバッグですよ!」

……

「――あなたは何を作るのですか! ――竜の鱗であなたの守りも特級!」

……
……

「――さあ最後になりました……。勿論最後は目玉商品の一番目…………妖精だーーー!! ――この妖精を手にいれた方法は合法だぞ……。食べたいものを好きなだけ食べ、お金を全く持っていなかったんだ! ――だからこの妖精は、借金奴隷となる……。――今までこの情報は明かさなかったが、借金奴隷には非合法な事はされないからな! ――だがーーー、お前らは欲しいだろ!! ――さあ競るのだ! ――おそらくこの世で唯一――――妖精を奴隷にしていると言う称号を持て!!」


  ――アオルアオル――本当に唯一何て思ってないだろうに……
  よくはわからないけど、唯一と言うほどレアではないだろう。


……
……

「――くっ! ――二千万!」

  と、途轍もない金額まで、競っている金額が膨れ上がってきた。

「――二千四百!」
「――二千五百!」

……

「三千!」

……

「五千!」




「――七千万!」

「七千七百!」

……

  さあ、僕たちの出番だ……僕たちが今までは稼いだお金がある程度なくなるが……


「――七億E!」


  ふん、場が静まり返った。


……
……
……


「――それは本当に出せる金額ですか?」と司会の人が聞いてくる。


「勿論!」と僕は言うと、近くに来た係員に冒険者プレートを預け、預り金を見ることが出来る設定にしておいた。


……
……


  静かになっていた会場だが、何となく僕たちを待つ雰囲気となっていた。
  これ以上の金額を出せなくもないのだろうが、一気に上げすぎたか。


……
……


  確認していただろう時間が過ぎ、司会の人がステージに現れた。

「…………では七億Eから再開です。――じゃあ! 七億――」


  ――
  ――

  ――通ったな。


……
……

「――誰もいませんか? ――いなければ、はい! ――もうあなた、あなたが勝者ですよ! 番号なんて言わなくてもわかるでしょ! あなたが落札です!」


  お、決まったな!
  だけど……番号は言わない……僕たちの落札……
  ――落札した証拠って、人前で、今回ならオークションに参加した人の前で番号が宣言されること。
  これが競り落とした証になるんでなかったっけ?


……
……


「――ねえ宣言は?」

……
……

「僕たちの番号の宣言は?」

……
……

「ねえ!!」


……
……


  もう金額に驚いているようでもないのに宣言がない。

  このオークションの主催はどこだったかな?――僕たちが妖精を手に入れるのはまずいのか……それとも競り落とす人が決まっていたのか……


  僕たちが競り勝った合図がないまま、会場が静かなまま、時間だけが過ぎ去って行った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...