上 下
62 / 168
第二章 冒険者活動

第六十一話 妖精さんの主は……

しおりを挟む
僕達の周囲には腰を抜かした集団がいる。
サクラが発した威圧が原因だが、僕達は悪くない。


そのように考えながら周囲を見渡していると、ようやく組織だった騎士が駆けつけて来た。

僕達だけが立っていて、周囲の人は座っている。騎士はこの現状を何とか受け止めて、騎士見習いに話し掛け、事情を聞いているようだ。


……

……

……


それなりの時間をかけて騎士見習いから話を聞き出し、騎士達でも話し合いが行われた。

そして周囲の人がようやく立ち上がり始めた頃に、騎士の組織内でリーダーらしき人物が近づいてきた。


「こんにちはラウール様、サクラ様。私もあなた様方とプッチモ王子の訓練では一緒に演習場で鍛えていただきました。私はデグターです。今は勤務中ですので名字は名乗りませんが貴族です。」


「ああそう、私はサクラ。演習場に……いたような気もするわね。それでこの始末は誰がどうつけるの?」


ガイブンもデグターに話しかける。
「おい、早く私にあの生き物を寄越すように話すのだ。俺をお前は知っているだろ?」


デグターはその言葉に冷ややかな表情で聞いていた。


「この状況がどうやって出来たのかは聞いた。私は立場に関係なく法で判断する。今は爵位の高さも関係ない……」


そうデグターが話し出した。
はじめに当然だが貴族でも人のものを無条件で取り上げる権力はない。
そのためのソフィアは僕達のもの。

無理矢理取り上げる事は犯罪にあたる。
もちろん不敬罪が適応される場合でも、正式な手続きをとり罪に対する清算が行われる。

一番はじめにここに駆けつけた騎士に確認した限りでは、僕達は威圧が漏れた以外は非がないと説明された。


「ふんっ! そこの子供達が初めに、金ほしさにその妖精を売ると言ったんだ。一度は口約束でも売ると言った言葉を急に変えたんだ。そんな子供より私が所有した方が妖精の安全が図れるだろ。だから最後は寄越せともめたが、ただで譲れとは言っていないな。」

そうガイブンがニヤリとした。

「ああん!? 私達がいつ売ると言ったのよ! 言っていないわよ! 」

ガイブンはそれを聞いてまたニヤリとした。

「ほら見ろ。こんなに感情的になる子供だぞ。なーーお前ら、この子達は私に妖精を売ると言ったよな? それも安すぎる金額でな?」

ガイブンが自分の護衛にそう声をかけると「へい! その通りです!」と答えていた。


それを聞いた騎士達も考え込んでしまった。
売ると一度は言った口約束……
言っていないとも、言ったとも第三者が証明できないこの状況……


その微妙な雰囲気の中でデグターがいち早く話し始めた。
「誰かこの辺りにいる者で会話を聞いていた奴はいないのか?」
そう周囲に声をかけた。

……
……

すると一人の男が恐る恐るといった様子でデグターに歩み寄った。

「俺は聞いていたぜ! その子がお金に困ってるから妖精を格安でも良いから買って欲しいと言っていたぞ!」
そう言ってもいないことを話し出した。

この仕込みのため……にあの馬車から降りたやつか!

周囲の声もそれを聞いてザワザワし始めた。
「そんなことは言っていなかったよな?」
「ああ、あの子達は騎士爵に勲章持ちなんだろ?」
「おい、あいつはジュール商会の小間使だろ?」
「あそこに出ていくとジュール商会に目をつけられるな……」


うーん、ジュール商会はなかなか悪どいところもあるんだろう……


「ちょっとデグターさん! 私達は言ってもいないことを言ったと言われて、どうしたら良いのよ! 証明できないわよ! この子は私の家族だし、いくらお金を積んでも売るなんて言わないわよ。それにお金なんてどうにでもなるわよ!」


「はん!嘘をつくな! 爵位はあるかもしれないし、勲章があっても、金は欲しいんだろ?」

憎たらしい表情をしてガイブンが話す。
騎士も折角登場したのに、頑張ってよ!


「だから私がさっき言っていた金額で買い取るぞ。不満なら第三者を立てて法に照らし合わせて争うぞ? それでも良いぞ。だが、法務局の奴らにその妖精は預けるんだな。」

はーー? どっちにしても其所に手を回すんだろうな。この国の法を理解していない僕達……。まだこの世界に来て短く、知り合いが少ない僕達……。後回しにするほど面倒だろうな。


「この子と離れることは出来ないわ! それにこれ以上言い争っても公平にもならないわ。口約束で契約が成り立つわけがないでしょ?」

それでも余裕なガイブン。
「だから第三者に判断してもらおう。」

そう言ったガイブンに又近づく男がいた。その男はガイブンが降りてきた馬車から出てきた。そして何かの紙を手渡した。

……

「ほらっ。これがさっきの約束を文章にしたものだ。後は名前を書くだけになっているだろ? これが取引をしていた証拠だ。」


はーー? サインもない文章でもでっち上げか? それで通るのかこの世界は……
まさかね、何か言ってよデグターさん!


「んん……ですがまだ取引は完了していないのですよね? それだとサクラ様が売ると決めてはいないですよね?」


「はあーー! ここまで取引を進めておいて何を! おいそこの騎士! 私とこいつらの契約が中途半端に打ち切られたのだぞ! 違約金が発生するぞ! その違約金代わりにその妖精を受けとるんだ!」


……論点のすり替え、少しずつそれていく内容……詐欺師か!

事実だけを抜き出して行くと僕達のものである事は明白なのに……


武力以外で解決出来る方法はないのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

旦那様が不倫をしていますので

杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。 男女がベッドの上で乱れるような音。 耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。 私は咄嗟に両手を耳に当てた。 この世界の全ての音を拒否するように。 しかし音は一向に消えない。 私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。

処理中です...