ブレードステーション

カレサワ

文字の大きさ
上 下
61 / 71

報告書61「作戦会議、見返したい世界があるからについて」

しおりを挟む
 付近に転がっていたかつてゴミ箱であったものを横倒しにし、その上に地図を映した大型端末を置き、周囲を俺とチトセ、それに自衛軍の面々で囲んでの慌ただしい作戦会議となった。

「MM社の協力で、付近のビルに潜む遠距離タイプのリソーサーの位置が判明した。ここと、ここ、そしてここだ。ヒトハチの火砲と対戦車誘導弾"ライカホウ"を使えば、制圧に時間は掛かるまい」

「そんでもって私達が飛び出してこっち側にドレイクを誘導するから、その隙にあんた達はこっちから隔壁に向かうってわけ。何か質問は?」

 いつの間にか作戦会議を仕切るチトセだが、まぁ仕方ない。こん中で一番漢気あるのがこいつなんだからな。

「じゃあ俺、質問いいすか」

「はい、イワミくんどうぞ」

「ドレイクはデータに載っているとはいえ量も少なく、おまけに俺はやつと戦うのは今日が初めてなんだ。だから実際にやりあった自衛軍の方々に、やつの戦闘時の状況について教えてもらいたい」

「俺たちだってやりあった、なんて御大層な事はしてねぇぜ」

「あれはまさに虐殺だった……いきなり急降下してきてヒトハチの2号車を潰したと思いきや、それを弄ぶかのように放り投げやがったんだ」

「そんで援護に出たフタフタ3号車の連中を見るや、凄まじい熱気が流れたと思った次の瞬間、高く浮かび上がって空からの火炎放射で……あっという間に火の海だった……」

「そうだったのか……それは辛い事を聞いてしまってすまない」

 浮かび上がる直前に熱気が流れた、か……鳥は飛び立つ際に地面を蹴る反動を利用し、翼竜も上昇気流に乗るもんだが……これは何かタネがある気がするな。

「それじゃほら、隊長さん!最後に締めの一言お願いね!」

「うっ、む?よし、それでは開始は5分後だ!各員装備を点検しろ!ヒトハチとガンナー班は位置につけ!」

 チトセにいきなり締めを振られてちょっとビックリしていたが、そこは自衛軍の隊長ともなる人、なかなかキビキビと指示を飛ばすじゃないか。さてと、俺もこれから相変わらず建物を揺らしているあの怪物とやり合うんだ、準備をするか……装備と心とな。

 自衛軍の車輌備え付けの急速充電器のコードを機動鎧甲に繋ぎ、ヒトマルとキ影の刀身に異常が無いか入念に確かめる。これからこいつらに命を預けるんだ、念入りにチェックするのに越した事はあるまい。と、そこへチトセが隣にやってきた。

「……」

「……」

 チラチラとこちらを見る、何かもの言いたげな顔のくせに押し黙ってコードを機動鎧甲に繋いでやがる。なんとなく不気味な沈黙に耐え切れず、先に声を上げてしまったのは俺の方だった。

「……何だよ」

「べっつに~?ただ……」

「ただ……何だよ」

「なーんであんたが、あの自衛軍達と力を合わせて戦おう!って言い出さないでこんな完全な自殺作戦に真っ先に賛成したのか気になって、ね」

「なんでって……そりゃ……見返したいんだろ?」

「……え?」

「この国を、国防省を、社会を、この世の中すべてを、見返したいだろ。言わなかったが、その気持ち、寸分違わず俺も同じなんでね」

「……」

「まっ、とにかくこの任務を俺たちの手で成功させて、あのいけ好かない大佐の鼻を明かしてやろうぜ!」

「あったりまえじゃない!」

 2人して大笑いした後、すっかり気を良くした俺は、先程のちょっとした"思いつき"をチトセに話したところ、意外にも大乗り気。ダメで元々、いっちょやってみるかという話になった。

 それから間もなくして、作戦決行時間間際となった。既に配置についている機動戦闘車とガンナー班からやや離れた場所に位置取った俺たち2人だが、そこへ1人の自衛軍兵士が駆け寄ってきた。

「チトセさん!頼まれてたこれ!持ってきましたよ!」

 そう言って差し出してきたのは、自衛軍正式採用装備の携帯型対空誘導弾"カセン"だった。

「ありがとう!……ところで支払いはツケでお願いできるかしら」

「もちろんお金なんか取りませんよ!使ってやって下さい!」

「って自衛軍から装備品を巻き上げるなんていいのかチトセ。後で隊長さんに怒られないか?」

「巻き上げるなんて聞こえが悪いわね。あんたの思いつきに付き合うには丁度良いと思ってね、ちょっとお願いしたのよ」

「はい!そしたらMM社はもう戦友だから遠慮なく提供しろって、言い出したのは隊長なんですから!」

 なんとまあ、随分と自衛軍も柔らかくなったもんだな。

「あらロハとは気前がいいのね。そんじゃ遠慮なくいただいておくわ♪」

 タダと聞いた途端にこの笑顔だ。全く相変わらずだな。

「さっきのチトセさん、超カッコ良かったって、みんな言ってました!頑張ってください!」

 大きく手を振り自らの配置場所へと戻って行く自衛軍兵士。チトセめ、この短期間にもうファンを作ったのか。外面だけは良い女だからな。内面まで知ってる男は俺ぐらいだろうが。

 そしてついに時間となった。キ影を握り込む手にも自然と力が入る。

「ってぇー!」

 隊長さんの合図と共に、火を噴く機動戦闘車の火砲に自衛軍ガンナー班の重火器。その威力たるや凄まじく、向かいの駅ビルを外壁ごと吹き飛ばす勢いだ。これには潜んでいるリソーサーもひとたまりも無いだろう。と思ったのも束の間、あのドレイクが身体を屈めてこちらを覗き込んできやがった。カメラアイから走る不気味な赤い光が俺たちを捉える。完全に位置バレしたようだ。

「それじゃ、私達も行くとしますか」

「おうよ!」

 チトセの銃撃を合図に、俺達は駆け出した。作戦どおりドレイクはこちらに気を取られ、追いかけてきやがった。後はそうだな、運を天に、命を刀に、そして勝利を仲間に懸けるだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...