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報告書20「採用面接、受ける側もする側も辛い件について」
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軍事資源回収企業への就職活動はとてもじゃないが良い思い出とは言えないものだ。永遠に続くかと思われた複数回面接、少しのアラを探しやたら攻撃的な質問ばかりしてくる圧迫面接、どれもがほとんど代わり映えもしない無個性な会社なのに個性的な内容を求めてくる志望動機という名の紋切り型の挨拶。いやはや全く、世の中は目まぐるしく変わっても、何故こうも採用形式はいつまでたっても変わらないのか。
「新人採用か……」
そして我がMM社のシャチョーことチトセが新しい社員の採用をすると言い出して数日が経った。あれから新入社員募集の広告を専門のリクルートサイトやチトセ個人のチャッターに載せて拡散したとの事だが、一体どれだけの人が見た事やら。今の時代、スペキュレイターという常に危険と隣り合わせな冒険的で投機的な仕事、自分の力を遺憾無く発揮するためにもなるべく設備や保障の整った大企業に入りたいと思うのが普通だろう。まっ、そこが落とし穴で必ずしもそれらと充実度は比例しないってのは俺がBH社で散々味わった事だが、なんにしても零細企業である我らがMM社に入社しようなんて変わり者がいるとは思えないな。
そんな取り留めのない考えが、上野駅ダンジョンでの活動報告書作成の合間に思い浮かんでいた。あの時、結局はトータスから無事に指定資源を回収する事ができたが、その見返りに俺とチトセの機動鎧甲は大きく損傷してしまったため、イクノさんによる1週間の修理が必要になってしまったのだ。仕方ないのでその間溜まっていた書類仕事をしていたが、まぁ一言でいうと退屈で逆にやる気が出ない。常に命の危険に晒されるこの仕事で、退屈は贅沢とはいえお陰で仕事が一向に進まない。気分転換にトレーニングルームにでも行こうかな。なんて思っていた矢先、また扉の向こうからけたたましい足音が聞こえてきた。チトセは階段を静かに登るって事ができないのか全く。そしてバンっと勢いよく開かれる扉。
「ついにやるわよ!採用面接!」
「相変わらず騒がしいな。って?面接?ウチに申し込みする就活生がいたなんて驚きだな」
「あったり前でしょ!今や我が社は飛ぶ鳥を落とす勢いの急成長真っ只中、時勢に敏感な就活生が群れをなして来るのは当然よ!」
「ウチが急成長中なんて話初めて聞いたが……まぁいいや、それでいつやるんだ?」
「善は急げで明日、早速面接するわよ」
「えらい急だな。まぁ頑張ってきてくれ」
「何他人事みたいに言ってるのよ。あんたも面接官するのよ」
「えっ、俺も!?」
ちょっと前まで面接を受ける側だった俺が、今度は面接をする側だと?いやいやいや、いくらなんでも急展開すぎるだろう。
「イクノさんと2人でやればいいだろ。俺が面接官なんて……」
「イクノは装備品の修理で手が離せないんですって。なぁに、あんたは私の隣に座ってそれらしい顔でもしてればいいのよ。それじゃ明日、午後一で始めるから用意しておくよーに」
「あっ、おいちょっと!」
こちらが呼び止めるのも聞かずに、またけたたましい足音を響かせながら扉から飛び出して行くチトセ。何がそれらしい顔だ、適当過ぎるだろ!仕方ない、報告書をさっさと終わらして明日までに想定問答集でも作らなければ。
「あーあっ、なんでこんな事に……」
そして迎えた次の日、トナイのとある喫茶店。ここでウチへの就職を希望した奇特な就活生と待ち合わせをしているとのことだが、やばい、俺の方がなんだか緊張してきた。あれから必死に想定問答集を作り、着ていく服を考えてたりしていたら、すっかり夜が明けてしまったので、慌てて準備して今に至るわけだが、それもこれも着の身着のままここへきてスーツも持たない俺に、いきなり面接官になれなんて無茶を言い出したチトセのせいだ。結局このMM社のロゴが入った社用のジャンパーで来る羽目になってしまったが、これで大丈夫なのだろうか。
隣に座るチトセは相変わらずデニムのショートパンツにTシャツ、その上に同じジャンパーと言う出立だが、やたらクリームの乗ったコーヒーを飲んで口の周りに白ヒゲを作るその姿からは、側から見ると全くシャチョーには見えないぞ。
「ほ、ほんじつはよろしくお願いします!」
そこへ現れた、リクルートスーツに身を包んだ1人の女性……どうやらこの方が今日面接する就活生のようだ。第一印象、という名目でしげしげと見ると、年は20歳前後だろうか、その顔は緊張で強張っているが黒いショートヘアが似合うなかなか可愛いらしい容姿をしている。
「はじめまして、私がMM社のシャチョーをしているチトセよ。あなたがササヤさんかしら?」
「はい!私が御社への就職を志望しているササヤと申します!」
ビシィッ!と背筋を伸ばしてやたらハキハキと挨拶をするササヤさん。ウチなんかの弱小企業相手にここまで緊張するなんて、なんて健気な子なんだ。
「楽にしてちょうだい、早速面接を始めるので座ってね」
「えっ、えっとそれでは失礼します!」
席につくササヤさん。よし、ここからが本番だ。この日のために作った、この完璧想定問答集通りにいけば、何も恐れる事は……
「ササヤさん」
「はい!」
「おめでとう、採用決定よ!明日からよろしくね」
呆気に取られ、茫然としているササヤさん。俺も突然のチトセの言葉に、ガクッと頭をノートパソコンに突っ込ませる。こうして採用面接は、ものの5秒で終わりを告げたのだった。
「新人採用か……」
そして我がMM社のシャチョーことチトセが新しい社員の採用をすると言い出して数日が経った。あれから新入社員募集の広告を専門のリクルートサイトやチトセ個人のチャッターに載せて拡散したとの事だが、一体どれだけの人が見た事やら。今の時代、スペキュレイターという常に危険と隣り合わせな冒険的で投機的な仕事、自分の力を遺憾無く発揮するためにもなるべく設備や保障の整った大企業に入りたいと思うのが普通だろう。まっ、そこが落とし穴で必ずしもそれらと充実度は比例しないってのは俺がBH社で散々味わった事だが、なんにしても零細企業である我らがMM社に入社しようなんて変わり者がいるとは思えないな。
そんな取り留めのない考えが、上野駅ダンジョンでの活動報告書作成の合間に思い浮かんでいた。あの時、結局はトータスから無事に指定資源を回収する事ができたが、その見返りに俺とチトセの機動鎧甲は大きく損傷してしまったため、イクノさんによる1週間の修理が必要になってしまったのだ。仕方ないのでその間溜まっていた書類仕事をしていたが、まぁ一言でいうと退屈で逆にやる気が出ない。常に命の危険に晒されるこの仕事で、退屈は贅沢とはいえお陰で仕事が一向に進まない。気分転換にトレーニングルームにでも行こうかな。なんて思っていた矢先、また扉の向こうからけたたましい足音が聞こえてきた。チトセは階段を静かに登るって事ができないのか全く。そしてバンっと勢いよく開かれる扉。
「ついにやるわよ!採用面接!」
「相変わらず騒がしいな。って?面接?ウチに申し込みする就活生がいたなんて驚きだな」
「あったり前でしょ!今や我が社は飛ぶ鳥を落とす勢いの急成長真っ只中、時勢に敏感な就活生が群れをなして来るのは当然よ!」
「ウチが急成長中なんて話初めて聞いたが……まぁいいや、それでいつやるんだ?」
「善は急げで明日、早速面接するわよ」
「えらい急だな。まぁ頑張ってきてくれ」
「何他人事みたいに言ってるのよ。あんたも面接官するのよ」
「えっ、俺も!?」
ちょっと前まで面接を受ける側だった俺が、今度は面接をする側だと?いやいやいや、いくらなんでも急展開すぎるだろう。
「イクノさんと2人でやればいいだろ。俺が面接官なんて……」
「イクノは装備品の修理で手が離せないんですって。なぁに、あんたは私の隣に座ってそれらしい顔でもしてればいいのよ。それじゃ明日、午後一で始めるから用意しておくよーに」
「あっ、おいちょっと!」
こちらが呼び止めるのも聞かずに、またけたたましい足音を響かせながら扉から飛び出して行くチトセ。何がそれらしい顔だ、適当過ぎるだろ!仕方ない、報告書をさっさと終わらして明日までに想定問答集でも作らなければ。
「あーあっ、なんでこんな事に……」
そして迎えた次の日、トナイのとある喫茶店。ここでウチへの就職を希望した奇特な就活生と待ち合わせをしているとのことだが、やばい、俺の方がなんだか緊張してきた。あれから必死に想定問答集を作り、着ていく服を考えてたりしていたら、すっかり夜が明けてしまったので、慌てて準備して今に至るわけだが、それもこれも着の身着のままここへきてスーツも持たない俺に、いきなり面接官になれなんて無茶を言い出したチトセのせいだ。結局このMM社のロゴが入った社用のジャンパーで来る羽目になってしまったが、これで大丈夫なのだろうか。
隣に座るチトセは相変わらずデニムのショートパンツにTシャツ、その上に同じジャンパーと言う出立だが、やたらクリームの乗ったコーヒーを飲んで口の周りに白ヒゲを作るその姿からは、側から見ると全くシャチョーには見えないぞ。
「ほ、ほんじつはよろしくお願いします!」
そこへ現れた、リクルートスーツに身を包んだ1人の女性……どうやらこの方が今日面接する就活生のようだ。第一印象、という名目でしげしげと見ると、年は20歳前後だろうか、その顔は緊張で強張っているが黒いショートヘアが似合うなかなか可愛いらしい容姿をしている。
「はじめまして、私がMM社のシャチョーをしているチトセよ。あなたがササヤさんかしら?」
「はい!私が御社への就職を志望しているササヤと申します!」
ビシィッ!と背筋を伸ばしてやたらハキハキと挨拶をするササヤさん。ウチなんかの弱小企業相手にここまで緊張するなんて、なんて健気な子なんだ。
「楽にしてちょうだい、早速面接を始めるので座ってね」
「えっ、えっとそれでは失礼します!」
席につくササヤさん。よし、ここからが本番だ。この日のために作った、この完璧想定問答集通りにいけば、何も恐れる事は……
「ササヤさん」
「はい!」
「おめでとう、採用決定よ!明日からよろしくね」
呆気に取られ、茫然としているササヤさん。俺も突然のチトセの言葉に、ガクッと頭をノートパソコンに突っ込ませる。こうして採用面接は、ものの5秒で終わりを告げたのだった。
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