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報告書6「職場挨拶、転職先は社員2人の弱小企業だった件について」
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あれから俺は直ぐに退院できた。あれだけの傷を受けたのに、こんなにも早く回復できたのは医者が言うには、機動鎧甲を装着していたと言うのもあるが、何よりも病院に運び込まれたのが早かったからというのもあったらしい。つまりはシャチョーこと、チトセのお陰と言うことか。礼を言う気にはさらさらならないが。
「あ~あ……」
にしても憧れだった大企業BH社に裏切られ、左腕を失い、社会的には殉職者になり、そして借金まで背負わされてる事を考えながら、窓の外に流れる隔離地域周辺地帯、通称エキチカの寂れた街並みを眺めていると、全くため息が止まらない。
「とうちゃーく!」
そんな事を病院まで迎えに来たチトセの車、自衛軍払い下げの高機動車の助手席で考えていると、隣の運転席からは俺に借金を背負わせた張本人のテンション高い声が聞こえてきた。それにしても、こんな車両を普段使いにしているとは、やはりエキチカはよっぽど危険なんだな。
「ほらさっさと降りて荷物運んで」
車から降りた途端、荷台から引っ張り出した食糧やらなんに使うのか分からないガラクタの詰まった箱を幾つも持たされる。生身には中々応える重量だ。
「いきなり人使いが荒いな。それで、本社はどこにあるんだ?」
「どこって、目の前にあるじゃない。ここが我がMM社の本社よ」
そう言われて何度見渡しても、そこにはどう見ても薄汚い雑居ビルしかなかった。
「まさか、エキチカに建つこのオンボロビルが本社なのか!?弱小零細企業じゃないか」
「失礼ね。新興企業よ、シ・ン・コ・ウ!もたもたしないでさっさと運ぶ!一階が格納庫、二階が事務所、そして三階が住居スペースよ」
ケツをゲシゲシ蹴られながら仕方なく荷物を運ぶが、地上50階地下3階構造で、屋上にはトランスポーター発着場まで備えたBH社本社とはいくらなんでも違いすぎる。俺は騙されてとんでもない所に来てしまったようだ……
「たっだいまー!」
荷物を一階の格納庫と称するガレージまで運び、大声ではしゃぐチトセに続いて二階の事務所に入る。室内は壁に大型の液晶ホワイトボードが掛かり、事務机には端末が置かれたりなど事務所っぽくはなっているが、電磁記録装置やらその配線やら本やら栄養ドリンクやらなんやらがあちこちに散らばっており、雑然としている。何というかこの女の性格が現れているようだ。
「ふぁ~あ、おっ、チトセ戻ったか」
声の方を見るとツナギの作業服に頭にはゴーグルを着けた、これまた可愛らしい短髪の女性がソファーから起き出してきたところだった。それにしてもツナギの上側を肌けて腰に巻きつけ、薄着一枚の上半身を恥ずかしげも無く晒すその姿、目のやり場に困る。
「イクノ!こいつが我が社念願のアタッカーよ!」
「おぉ、はじめましてイクノじゃ。チトセから話には聞いていたが、大した奴を捕まえてきたものじゃのう」
「はっ、はじめまして。サドシマです」
見たところ歳はチトセと大して変わらないが、まるで年寄りのような話し方をする人だ。もしかしてドワーフみたいに歳を取っても見た目が変わらないとかなのだろうか。
「ちょっと、サドシマはもう死んだ事になってるんだから、その名前とはもうお別れするのよ。今日からあんたは……そうね……イワミよ!いっぱい稼げそうな、いい名前でしょ?」
俺の名前が、一瞬の思い付きにより決まってしまった。しかもあまりカッコよくない名前に。
「イクノは装備品の開発整備を担当しているわ。このコとはおなちゅうだったんだけど、飛び級で工科大学に入学した天才なのよ!あんたのその義手を作ったのも、新しいIDを持ってきたのもイクノなんだから感謝しときなさい」
「本当ですか?すごい技術ですね」
「うむ、それは腕によりをかけて作ったからの。リソーサーから回収された、機械部品と生体部品を結合させる技術を応用してるんじゃが、自前の腕と全く同じ一体感じゃろ。しかもアクチュエータもただの人工筋肉では無く、出力可変式筋繊維を使用しておる。これも流す電気量によって強度が変わる新素材がリソーサーから回収された事により可能になったのじゃが、お陰で日常の細かな動作から戦闘時の大出力まで、あらゆる用途をこの一つの義手によって行うことができるのじゃ!」
「へ、へぇ~……そうなんですか」
「さらにさらに」
「はいそこまで~本当にイクノは機械の事となると、止まらなくなるんだから」
本当にすごいマシンガントークだ。話の内容は全然頭に入ってこなかったが、どうやらこの義手は凄いものらしい。
「さてと、あんたの部屋は3階の真ん中よ。布団は部屋にあるのを勝手に使っていいわ。ちなみに奥が私、手前がイクノの部屋なんだけど勝手に入ったりしたら殺すから」
せっかく拾った命だ、無駄にはしたくないからここは言うことを聞いておいた方が賢明だろう。
「それと今日の夜はあんたの歓迎会をしてやるから、7時に事務所に来る事!そしたら明日からいよいよ業務開始よ!それじゃ解散!」
怒涛のように始まった転職先での俺の新生活。それにしても今思えば、BH社にいた頃は歓迎会どころか、仕事で用がある時以外に職場の人間と喋った事すらなかったな。
「あ~あ……」
にしても憧れだった大企業BH社に裏切られ、左腕を失い、社会的には殉職者になり、そして借金まで背負わされてる事を考えながら、窓の外に流れる隔離地域周辺地帯、通称エキチカの寂れた街並みを眺めていると、全くため息が止まらない。
「とうちゃーく!」
そんな事を病院まで迎えに来たチトセの車、自衛軍払い下げの高機動車の助手席で考えていると、隣の運転席からは俺に借金を背負わせた張本人のテンション高い声が聞こえてきた。それにしても、こんな車両を普段使いにしているとは、やはりエキチカはよっぽど危険なんだな。
「ほらさっさと降りて荷物運んで」
車から降りた途端、荷台から引っ張り出した食糧やらなんに使うのか分からないガラクタの詰まった箱を幾つも持たされる。生身には中々応える重量だ。
「いきなり人使いが荒いな。それで、本社はどこにあるんだ?」
「どこって、目の前にあるじゃない。ここが我がMM社の本社よ」
そう言われて何度見渡しても、そこにはどう見ても薄汚い雑居ビルしかなかった。
「まさか、エキチカに建つこのオンボロビルが本社なのか!?弱小零細企業じゃないか」
「失礼ね。新興企業よ、シ・ン・コ・ウ!もたもたしないでさっさと運ぶ!一階が格納庫、二階が事務所、そして三階が住居スペースよ」
ケツをゲシゲシ蹴られながら仕方なく荷物を運ぶが、地上50階地下3階構造で、屋上にはトランスポーター発着場まで備えたBH社本社とはいくらなんでも違いすぎる。俺は騙されてとんでもない所に来てしまったようだ……
「たっだいまー!」
荷物を一階の格納庫と称するガレージまで運び、大声ではしゃぐチトセに続いて二階の事務所に入る。室内は壁に大型の液晶ホワイトボードが掛かり、事務机には端末が置かれたりなど事務所っぽくはなっているが、電磁記録装置やらその配線やら本やら栄養ドリンクやらなんやらがあちこちに散らばっており、雑然としている。何というかこの女の性格が現れているようだ。
「ふぁ~あ、おっ、チトセ戻ったか」
声の方を見るとツナギの作業服に頭にはゴーグルを着けた、これまた可愛らしい短髪の女性がソファーから起き出してきたところだった。それにしてもツナギの上側を肌けて腰に巻きつけ、薄着一枚の上半身を恥ずかしげも無く晒すその姿、目のやり場に困る。
「イクノ!こいつが我が社念願のアタッカーよ!」
「おぉ、はじめましてイクノじゃ。チトセから話には聞いていたが、大した奴を捕まえてきたものじゃのう」
「はっ、はじめまして。サドシマです」
見たところ歳はチトセと大して変わらないが、まるで年寄りのような話し方をする人だ。もしかしてドワーフみたいに歳を取っても見た目が変わらないとかなのだろうか。
「ちょっと、サドシマはもう死んだ事になってるんだから、その名前とはもうお別れするのよ。今日からあんたは……そうね……イワミよ!いっぱい稼げそうな、いい名前でしょ?」
俺の名前が、一瞬の思い付きにより決まってしまった。しかもあまりカッコよくない名前に。
「イクノは装備品の開発整備を担当しているわ。このコとはおなちゅうだったんだけど、飛び級で工科大学に入学した天才なのよ!あんたのその義手を作ったのも、新しいIDを持ってきたのもイクノなんだから感謝しときなさい」
「本当ですか?すごい技術ですね」
「うむ、それは腕によりをかけて作ったからの。リソーサーから回収された、機械部品と生体部品を結合させる技術を応用してるんじゃが、自前の腕と全く同じ一体感じゃろ。しかもアクチュエータもただの人工筋肉では無く、出力可変式筋繊維を使用しておる。これも流す電気量によって強度が変わる新素材がリソーサーから回収された事により可能になったのじゃが、お陰で日常の細かな動作から戦闘時の大出力まで、あらゆる用途をこの一つの義手によって行うことができるのじゃ!」
「へ、へぇ~……そうなんですか」
「さらにさらに」
「はいそこまで~本当にイクノは機械の事となると、止まらなくなるんだから」
本当にすごいマシンガントークだ。話の内容は全然頭に入ってこなかったが、どうやらこの義手は凄いものらしい。
「さてと、あんたの部屋は3階の真ん中よ。布団は部屋にあるのを勝手に使っていいわ。ちなみに奥が私、手前がイクノの部屋なんだけど勝手に入ったりしたら殺すから」
せっかく拾った命だ、無駄にはしたくないからここは言うことを聞いておいた方が賢明だろう。
「それと今日の夜はあんたの歓迎会をしてやるから、7時に事務所に来る事!そしたら明日からいよいよ業務開始よ!それじゃ解散!」
怒涛のように始まった転職先での俺の新生活。それにしても今思えば、BH社にいた頃は歓迎会どころか、仕事で用がある時以外に職場の人間と喋った事すらなかったな。
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