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第36話「彷徨える亡霊」③
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なかなかギルバート様の魂がこの地に縛られている原因も掴めないご主人様。そんな時、またあのハットー様が声を掛けてきたのです。
「亡霊と成り果てたギルバートの調査について、手掛かりが掴めずお困りのようですな、レード殿」
「これはハットー司祭様。その件についてはご心配無く。間も無く解決する見込みですので」
にべもなく即答するご主人様。まぁ当然の反応でしょう。
「前のネラ・アンジュー卿とご息女の悪魔祓いの事をお考えかな。あれは私も反対したのだが、ネラ卿がどうしてもと言い、致し方無く……な。いやはやまさかあの様な結果になるとは、この私も予想つかなんだ」
「左様ですか」
明らかに納得していないご主人様。納得出来る道理もありませんが。
「まぁまぁレード殿、今回もそなたの為になる話を聞かせようと思ってな。私も司祭という立場柄、色々な話を聞くのだが、もちろんギルバートの出自についてもな」
「……!」
解決する見込みと口では言いつつ、実は未だ手掛かりも掴めてないご主人様。どうやらその辺もハットー様には見透かされているようです。
「興味がおありかな?もちろん話してやろう。その為に声をおかけしたのだからな」
薄ら笑いを浮かべ、どこまでも悪人面したハットー様。
「ギルバート……前の名前をギルバート・オブライエンと言うその騎士はアイルランド貴族の三男でな。一族の信仰心の証として聖職に就く為、父からの贈り物である剣一本のみを携えテンプル騎士団に入会したのだ。そして金で装飾されたその華美な剣を、会則に合うよう黒く塗り潰してまで大層大事に持っておったそうだ」
「そうですか。貴重なお話ありがとうございます。私は急用を思い出したのでこれにて失礼します」
「うむ。見つかると良いな、ギルバートの剣」
一礼して下がろとするご主人様の背後から聞こえるその声は、何もかもお見通しと言う感じで、余裕に満ちたものでした。
「全く気に入らん。一体何が望みなんだ、あの薄ら笑い司祭は」
「まぁまぁご主人様、ハットー様の考えを暴くのは後にして、今はテコアの街に向かいましょう」
「……そうだな。アイルランドの貴族様をいつまでも亡霊にしとくわけにはいかないからな」
想像以上に高貴な出であったギルバート様。にも関わらず最期まで気遣ってくれたその心掛けを、ご主人様は今も忘れてはいないようです。
「亡霊と成り果てたギルバートの調査について、手掛かりが掴めずお困りのようですな、レード殿」
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にべもなく即答するご主人様。まぁ当然の反応でしょう。
「前のネラ・アンジュー卿とご息女の悪魔祓いの事をお考えかな。あれは私も反対したのだが、ネラ卿がどうしてもと言い、致し方無く……な。いやはやまさかあの様な結果になるとは、この私も予想つかなんだ」
「左様ですか」
明らかに納得していないご主人様。納得出来る道理もありませんが。
「まぁまぁレード殿、今回もそなたの為になる話を聞かせようと思ってな。私も司祭という立場柄、色々な話を聞くのだが、もちろんギルバートの出自についてもな」
「……!」
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「興味がおありかな?もちろん話してやろう。その為に声をおかけしたのだからな」
薄ら笑いを浮かべ、どこまでも悪人面したハットー様。
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「そうですか。貴重なお話ありがとうございます。私は急用を思い出したのでこれにて失礼します」
「うむ。見つかると良いな、ギルバートの剣」
一礼して下がろとするご主人様の背後から聞こえるその声は、何もかもお見通しと言う感じで、余裕に満ちたものでした。
「全く気に入らん。一体何が望みなんだ、あの薄ら笑い司祭は」
「まぁまぁご主人様、ハットー様の考えを暴くのは後にして、今はテコアの街に向かいましょう」
「……そうだな。アイルランドの貴族様をいつまでも亡霊にしとくわけにはいかないからな」
想像以上に高貴な出であったギルバート様。にも関わらず最期まで気遣ってくれたその心掛けを、ご主人様は今も忘れてはいないようです。
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