モーレツ熊

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 上宮 廻(かみみや めぐる)は、好きな人がいた。



 高校生の頃、クラス替えで初めて2年、3年と同じクラスになった。
学年の全員がきっと名前を知ってるくらい、人気者の彼を、
自分と同じ性別の男子を好きになるなんて、おかしいと思ってた。
少なからず、そういう人気もあったように思うけど、憧れ的な存在が
いつの間にか恋愛対象として、心を占めるようになっていた。
 つたないながらも、一端の性知識も持ってるのに、どうしても彼だけが特別に思えた。
 特に仲良く話すわけでもないし、席がとか、家が、とかそんな理由もないまま、
ただ同じクラスというだけで、すごく、うれしかったり楽しかったり、
そして、時には涙した。
 そんな2年間が終わりを告げるころには、進路も何もかもが別だとわかった。
 友達も少ない廻に、クラスの情報が入ってきたのは卒業も間近の登校日だった。
 積極的に、彼の進路を知ろうともしなかったのに、知ったとたん急にさみしいとか
なんで知らないままだったんだろうとか、自分勝手な思考があふれ出してきた。

 もっさりとした髪型にも容姿にも自信なんかあるわけない僕が、
と最初から諦めていたから、彼の進路や大学に行くならどの辺とか、
そんな一歩すら踏み込めないまま卒業するなんて、嫌だ。
 最後なら、と勇気を振り絞ってみることにした。


べただけど卒業するときに、この気持ちを言って終わらせようと思い
彼をごった返す校舎や部室を探してみたが、結局見つからなかった。

『・・・こんなもんだよな、漫画や小説みたく告白なんてできるわけないんだ』と。

 クラスのみんなは式の後に最後のお別れ会をやるとかで、引き上げていったけど、
 廻は、わすれられたのか、頭数にすら入っていなかったようだ。

 だって、お別れ会の情報は廻には来なかったから。

『は、っはは・・・、きっとこれが運命なんだろうな。
 彼とは縁がなかったんだ。
 もしかしたら、告白して気持ち悪いって言われて、拡散されたりしなかっただけマシなんだ。
 言った方は満足だけど、言われた方の気持ちなんて考えてなかった。
 ましてや、男同士なんだから。』

 ぼんやりと歩き、これで制服を着て通る最後の校門のところで、彼を見つけた。

門から出たところで、彼が引き上げたクラスの仲の良いグループと
写真を撮ったりしているのが見えた。
 同じ進路に行く3人が、最後だとはしゃぎながらボーズをとり、お互いのスマホで撮りあっていた。

彼、小越 隆之、彼の幼馴染で諏訪 博人、そして木村 聡が、僕に気づいた。
はしゃいでいたノリから、急に木村の嫌な笑いが絡みついた。
人気者で、容姿も長身イケメンな小越と、幼馴染で体育会系の諏訪、
華やかで可愛らしいという形容がぴったりな木村。

可愛い木村の顔は酷く嘲る様な笑いを貼りつかせていた。

「あれ~?、上宮くん、今帰り?
 君、この後の会には出ないんだっけ」

可愛くクスクスと笑って、こちらを見る。

声も出せずに、ただ、目を見開いた。
それも一瞬で、すぐにうつむいてしまったけど、足元に見える影は酷く肩を揺らしていた。

「あ、いけない、そういえば上宮君には内緒にしておくんだった。
 隆之がさ、迷惑っぽかったから、僕が伝えなかったんだよね。
 でも、かわいそうだし、来る?」

「おい!聡!
 何言ってんだ、それ。
 上宮のこと迷惑とは言ってないだろ!
 ただ、今日は上宮に追い掛け回されてるから、どうしていいかわからなくて
 困るって言っただけだろう」

 諏訪が、木村をたしなめる。
 たしなめ切れてはいなけど。

 下を向いたまま、-----あー、そういうことかと。
 納得がいった。
 今まで、同じクラスで見てるだけでよかったのに。
 僕の気持なんか、とっくにばれてたんだ。

「こういうのはさ、はっきり言ってやらなきゃダメなんだよ!
 隆之も博人もさ。
 こんなやつ、自業自得じゃん。
 キモイ奴が、隆之に何しようって言うんだよ?
 隆之は僕のなんだから、近づかないでよ!」

 木村は、可愛い顔をゆがめて、廻を罵倒した。
 諏訪は、廻をかばい気味に、間に立っては見たが、
 どうかばったらいいのか、言葉が出てこなかった。

「木村君、確かに僕は小越君が好きで、最後なら伝えて終わらななきゃって
 自分勝手な気持ちを押し付けようとしたんだ。
 それは、反省してる。
 小越君、ごめんね。
 追い掛け回しちゃって。」

 学校でもまず笑った顔など見せない廻が、ふわりと極上の笑顔を向けた。
 自分に自信がないだけで、気持ち悪いわけでも、不細工でもなかった。

 磨けば光る、というやつである。
 可愛いというより、綺麗という言葉が似あう顔立ちに、少し薄い体型だが
 身長も決して低くもない。

「!」

 小越と諏訪が一瞬息を飲んだのがわかった。

「なっ!
 なんだよ!それ!」

「うん、ごめんね。
 木村君とお付き合いされていたんだね。
 お幸せにね。」

 怒りと羞恥で顔を赤くして、木村が何かを言いかけた時
突然、桜を散らしてしまうくらい強い突風が吹き荒れ、
すぐ近くにいたはずの諏訪や木村、小越たちが見えなくなった。
 廻が『あ!』と思った時には、懐かしい感覚と声に包まれていた。



  ・・・・いま・・・か・・
    もう・・ちど・・・・えり・・・を!


 廻の意識がどこか遠くにある様な、体と意識が切り離されているような
不思議な感覚の中で揺蕩うように流されていくようだった。
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