上 下
6 / 19

6.山賊の襲撃

しおりを挟む
 二人は"愛し合ってから日が浅そうな男女たちの肥料"を求めて村を出た。
 ふとハオルドはこんなにも人と会話をしたのはいつぶりだろうと考え、少し嬉しくなった。

 不老を打ち明けたのも、いびきを治すために薬草を探しているということも、初めて他人に話した。
 リリーナにならなんでも話せるような気がした。

「なぁ、ハオルド。そんなに生きてたら何人も愛してきて…その…見送ったのか?」

 つい緩みかけたハオルドの表情は再び硬くなった。

「……妻がいた。許嫁いいなずけで相手はどう思っていたか分からんがな。…俺なりに愛していた。一緒になってすぐ事故で亡くした。彼女はまだ若かった。それからはずっと一人だ」

「そうか…。その頃不老は?」

「……。その頃からだ。いびきもな」

 妻を亡くしたハオルドは、その頃からよく眠るようになっていた。
 その深い眠りに連動するかのように日に日にいびきは大きくなっていったという。
 つい喋りすぎたと、焦って話題を変える。

「リリーナも俺と同じ天涯孤独なのか?」

「そうだな…。疫病えきびょうで家族全員苦しんでいなくなった。村の人達を、大切な人を失う悲しみから救いたい」

「大切な人を失う悲しみ…か。仲間想いなんだな」

「ハオルドこそ、村に食糧を配っていただろう。私の村にまで…。それに村を襲った私を…」

「利害が一致しただけだ。…っ!止まれ」

 突如ハオルドがリリーナの腕を掴み、歩くのを止めた。
 獣の咆哮ほうこうがけたたましく響く。
 狼を引き連れた山賊たちが二人を囲み笑みを浮かべている。

「あいにく金目のものは持ち合わせていない。失せろ」

「金など要らん。その女を渡せば大人しく退いてやろう」

「私に何の用だ!」

 一人の山賊がリリーナの顔に向かって松明たいまつを近付ける。

「やはりな。おい大男、その女を抱く予定はあるか?」

「何を言っている?」

「なんだ知らんのか。その女の青い目は男を知らん証拠だ。その肉体を食えばどんな疫病にもかからないらしくてな。青い目のうちにそいつの血肉が欲しい」

「おい、こいつらの言っていることは本当なのか?」

 リリーナは顔を赤くし、小さく頷いた。
 山賊たちが剣を取り、戦闘態勢に入る。
 弓を引きリリーナに狙いを定めている者もいる。
 とっさにハオルドはその大きな体で守るようにリリーナを包み込み、大声で叫んだ。

「俺と戦え!俺を殺せたならば女は好きにしろ!」

 不敵な笑みを浮かべる山賊たちは狼に号令を出し、一斉に弓を射った。

「ハオルド!!!!」

 隙をつき身を潜められそうな木陰に向かって、リリーナを全力で投げた。
 ハオルドの背中には複数の矢が刺さり、足には狼の鋭利な牙が食い込んでいる。
 抜ける限りの矢を抜き、狼達を殴り飛ばした。

「死にたいやつだけ、かかってこい!」

 ハオルドは近くの木を根元から引っこ抜き叫んだ。
 山賊たちはハオルドの激怒した表情と、大木を抱える剛腕さに一瞬怯み、動きが止まった。

「何をしている!相手は一人だ!切り刻め!」

 山賊の一人が声を上げ、それに釣られるようにハオルドに向かって攻撃を仕掛ける。
 ハオルドは大声を上げ、山賊めがけて大木を振り回し次々と遠くの方へ飛ばしていった。

 それを見た残りの狼と山賊たちは悲鳴をあげながら逃走していった。
 ハオルドは急いでリリーナが隠れている木陰に走り身の安全を確認した。

「おい!無事か?どこか痛いところはないか?」

 血だらけのハオルドを見てリリーナの血の気が引く。

「ハオルド!私の心配より…!あぁ、どうしたら…!」

「俺のことなら心配ない、3日もあれば大丈夫だ」

「こんな傷が深くてそんな訳…!不老なだけで、不死ではないんだろう?!」

「あぁ、でも大丈夫だ。それより怪我はなさそうだな。良かった、本当に良かった」

 新鮮な愛の肥料も結局見つけることは出来ず、負傷までしてしまったハオルドはリリーナと共に山奥の家に帰ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

龍神のつがい~京都嵐山 現世の恋奇譚~

河野美姫
キャラ文芸
天涯孤独の凜花は、職場でのいじめに悩みながらも耐え抜いていた。 しかし、ある日、大切にしていた両親との写真をボロボロにされてしまい、なにもかもが嫌になって逃げ出すように京都の嵐山に行く。 そこで聖と名乗る男性に出会う。彼は、すべての龍を統べる龍神で、凜花のことを「俺のつがいだ」と告げる。 凜花は聖が住む天界に行くことになり、龍にとって唯一無二の存在とされる〝つがい〟になることを求められるが――? 「誰かに必要とされたい……」 天涯孤独の少女 倉本凜花(20)     × 龍王院聖(年齢不詳) すべての龍を統べる者 「ようやく会えた、俺の唯一無二のつがい」 「俺と永遠の契りを交わそう」 あなたが私を求めてくれるのは、 亡くなった恋人の魂の生まれ変わりだから――? *アルファポリス* 2022/12/28~2023/1/28 ※こちらの作品はノベマ!(完結済)・エブリスタでも公開中です。

女性魔術師に拾われ育った私は婚約者に捨てられましたが、今はやりたいように薬草の研究を進められています!

四季
恋愛
女性魔術師に拾われ育った私は婚約者に捨てられましたが、今はやりたいように薬草の研究を進められています!

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

【完結】気弱だと思ったあなたは全く違ったのね。あなたに会って生活が一変したの。

まりぃべる
ファンタジー
この国スパーランスには、闇物が出る。 それは闇から、稀に煙のように現れるとされ、見つけた生き物を飲み込むと消滅するとされる。 だから皆、家の中では火を絶やさない。 私、ミラーフィス。 薬草師をしながら山で生活をしている。 しかし、ある男の子と出会って生活が一変する。 その男の子は実は…。 ☆間違って、完結ボタン押していたみたいです…。 15話で完結しますので、読んでいただけると嬉しいです。 ☆この作品の中での世界観です。現実と違うもの、言葉などありますので、そこのところご理解いただいて読んでもらえると嬉しいです。

どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
鍵を手に入れる…………それは獲得候補者の使命である。 これは、自身の未来と世界の未来を知り、信じる道を進んでいく男の物語。 そして、これはあらゆる時の中で行われた、付喪人と呼ばれる“付喪神の能力を操り戦う者”達の戦いの記録の1つである……。 ★女神によって異世界?へ送られた主人公。 着いた先は異世界要素と現実世界要素の入り交じり、ついでに付喪神もいる世界であった!! この物語は彼が憑依することになった明山平死郎(あきやまへいしろう)がお贈りする。 個性豊かなバイト仲間や市民と共に送る、異世界?付喪人ライフ。 そして、さらに個性のある魔王軍との闘い。 今、付喪人のシリーズの第1弾が幕を開ける!!! なろうノベプラ

処理中です...