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1. 欧米の臥龍

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 天正7年(1579年)に、宣教師のアレッサンドロ・ヴァリニャーノが来日した際、黒人奴隷として連れてこられた弥助やすけ

 織田信長は弥助を大層気に入り、下人や奉公人のような立場ではなく、私宅と腰刀を与えられ武士と同じ立場に置いたという。

 天正10年6月2日(1582年)
 本能寺の変が起こった年。
 二条御所にじょうごしょで明智軍と交戦するも捕縛され、南蛮寺なんばんじに送られてから弥助は消息不明とされている。

 家臣達から弥助の処分を聞かれた光秀は「動物同然の奴隷で何も知らず、日本人でもない」との理由で処刑はしなかった。

 この判断が、彼を殺さずに逃がすための方便だったとしたら。
 もしも弥助が、その後子孫を残していたとしたら。

 そして、慶応3年11月15日(1836年)
 あの坂本龍馬が、ある思いから倒幕運動をやめ、近江屋において暗殺されていなかったとしたら。

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 明治5年(1872年)
 明治維新から数年が経ち、急速な近代化の波に飲み込まれていた日本。
 政府は、近代国家建設のために急速な富国強兵、近代的軍備の増強を急いでいた。

 その一方で新しい時代が到来し、武士たちはその存在意義を問われていた。

 日本の長く深い伝統の空気を打ち破る幕末の近代化が始まり、建国以来の剣を信じる者と、新たな洋式鉄砲と軍隊に希望をかける者の思いに、日本という国は分断されかけていたのだ。

 まさに今、日本は生まれ変わろうとしている。

 弥助の血を引き継ぐ『伊作 仁いさく じん』、土佐藩士であった『坂本 龍馬さかもと りょうま』は、やがて侍の魂を掛けて政府軍と対立することとなる。

 ◆

 天皇は急速な近代化を望み、武士は性急すぎると憤慨する。
 まさに古き時代と近代のせめぎ合いであった。

 日本政府は米国から優秀な師範役兼指揮官を雇い、農民をかき集め慣れない銃を持たせ兵隊訓練をさせていた。
 師範役兼指揮官を引き受けたのは、『欧米の臥龍』とも称されたグレン・マッカーサーであった。

 かのダグラス・マッカーサーの親戚とも噂され、彼も同じく戦略家としての才能と大胆な指導力を高く評価される人物だった。



「おい、そこのキミ!銃の構え方がオカシイ!シッカリ両手で支え、肩に当テル!撃つトキの反動を、出来るダケ抑えるのデス!」

 訓練所で、農民たちにげきを飛ばすマッカーサーの声が響いた。
 なかなか足並みの揃わない軍隊を見て、日本政府の者たちは不安げに話していた。

「こりゃあ、本当に大丈夫か?」

「数はあれど戦いの基本すら知らん農民たちだからな……見てみろ、基礎すらなってないじゃないか」

「わざわざ高い報酬を出して雇ったんだ。早く結果を出してもらわんと困るぞ」

「今のままじゃ全く使いものにならんな。基礎訓練が甘いんじゃないか?」

 その声が耳に入ったのか、マッカーサーは声のする方へと怒鳴った。

「Are you trying to tell me what to do?! Listen carefully. Winning is the most important thing in my life, after breathing!! Breathing first, winning next!!! Do you understand?!(私に指図する気か?!よく聞けよ。私の人生において勝つことは、息をすることの次に重要なことだ!!まず息をすること、次に勝つことだ!!!分かったか!)」

「な、なんだって?」

「いや、分からん。それにしても凄い剣幕だな……」

「……Just shut the fuck up and watch! You piece of shit!(黙って見てろ!このクソ野郎!)」
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