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18. 憎き男との対面
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この日は何度も何度もお互いを求め合うほど盛り上がり過ぎたこともあって、夜ご飯も食べずにそのまま二人して眠ってしまった。
顔見知りが亡くなってすぐに不謹慎なのかもしれないが、美奈を傷付ける外道の事などどうでもいい。
美奈の携帯が鳴って飛び起きた。
「ねぇ、……携帯鳴ってるよ」
眠そうな声で電話に出る美奈。
『武井美奈さんの携帯でお間違いないでしょうか?神室警察の宮野といいます━━━━━』
美奈は少し会話をし薄く返事をした後、電話を切って俯いていた。
「どうしたの?」
「お父さんが死んだって」
「え……どういうこと?」
「確認に警察まで来てくれって言われたけど、行った方がいいのかな」
彼も『死んで当然』のうちの一人ではある。
ただ松井が死んですぐの出来事だ。
美奈の父親が何か関係している可能性が高いと考えると、いずれ美奈の元に警察は来るだろうし、何より今まで美奈を傷付けておいて……
ぶん殴る前に勝手に死んだなんて許せない。
「いいから行こう。文句の一つでも言いに行こう」
急いでタクシーを拾って神室警察まで向かった。
検視の結果、縊死による死亡だった。
昼間に警察が一度自宅を訪問した際には生きていて、酔っていたのか二日酔いなのかヘラヘラした対応だったそう。
◆
「武井輝夫さんですね?神室警察の者です、松井勝さんが亡くなられた件につい--」
「人を殺した」
「……え?どこで、誰を?」
「へへっ、冗談よ……俺も近いうちに殺される」
頭が痛むのか目をぐっと強く瞑ってこめかみ辺りを押さえる仕草をした。
「……は?殺されるって誰に?」
「殺したい奴はいるよ。知りたいか?へへへっ……」
「……いや、誰に殺されるって?」
何度か瞬きをして一人の刑事の顔を見ながら言った。
「はぁ……だから誰のことって聞いてんの」
「大沢賢一だよ。元プロボクサーの。知らない?…………あぁ、悪い。……ちょっと気分悪いからまた時間置いて来てくれや」
そう言ってこめかみを手のひらでポンポンと叩きながら、扉を閉められたらしい。
「酔いが冷めるまで時間を置こう」と夜に差し掛かる頃に改めて事情聴取に向かった矢先、玄関の扉が少し開いている事を不審に思った警察が扉を開けると、美奈の父親はドアノブに紐をかけ首を吊った状態だったという。
「自宅の箪笥の引き出しから遺書のようなものも見つかってます。読まれますか?」
「……はい」
殴り書きのような文字で短くこう書いてあった。
『上手く愛せなくてすまん。苦労かけたな。死んで詫びる。幸せになれ』
「お父様のご遺体までご案内します」
私は美奈の肩を抱きながら憎き男の遺体と対面した。
まだ実感が湧かないのか美奈は黙ったままだった。
顔見知りが亡くなってすぐに不謹慎なのかもしれないが、美奈を傷付ける外道の事などどうでもいい。
美奈の携帯が鳴って飛び起きた。
「ねぇ、……携帯鳴ってるよ」
眠そうな声で電話に出る美奈。
『武井美奈さんの携帯でお間違いないでしょうか?神室警察の宮野といいます━━━━━』
美奈は少し会話をし薄く返事をした後、電話を切って俯いていた。
「どうしたの?」
「お父さんが死んだって」
「え……どういうこと?」
「確認に警察まで来てくれって言われたけど、行った方がいいのかな」
彼も『死んで当然』のうちの一人ではある。
ただ松井が死んですぐの出来事だ。
美奈の父親が何か関係している可能性が高いと考えると、いずれ美奈の元に警察は来るだろうし、何より今まで美奈を傷付けておいて……
ぶん殴る前に勝手に死んだなんて許せない。
「いいから行こう。文句の一つでも言いに行こう」
急いでタクシーを拾って神室警察まで向かった。
検視の結果、縊死による死亡だった。
昼間に警察が一度自宅を訪問した際には生きていて、酔っていたのか二日酔いなのかヘラヘラした対応だったそう。
◆
「武井輝夫さんですね?神室警察の者です、松井勝さんが亡くなられた件につい--」
「人を殺した」
「……え?どこで、誰を?」
「へへっ、冗談よ……俺も近いうちに殺される」
頭が痛むのか目をぐっと強く瞑ってこめかみ辺りを押さえる仕草をした。
「……は?殺されるって誰に?」
「殺したい奴はいるよ。知りたいか?へへへっ……」
「……いや、誰に殺されるって?」
何度か瞬きをして一人の刑事の顔を見ながら言った。
「はぁ……だから誰のことって聞いてんの」
「大沢賢一だよ。元プロボクサーの。知らない?…………あぁ、悪い。……ちょっと気分悪いからまた時間置いて来てくれや」
そう言ってこめかみを手のひらでポンポンと叩きながら、扉を閉められたらしい。
「酔いが冷めるまで時間を置こう」と夜に差し掛かる頃に改めて事情聴取に向かった矢先、玄関の扉が少し開いている事を不審に思った警察が扉を開けると、美奈の父親はドアノブに紐をかけ首を吊った状態だったという。
「自宅の箪笥の引き出しから遺書のようなものも見つかってます。読まれますか?」
「……はい」
殴り書きのような文字で短くこう書いてあった。
『上手く愛せなくてすまん。苦労かけたな。死んで詫びる。幸せになれ』
「お父様のご遺体までご案内します」
私は美奈の肩を抱きながら憎き男の遺体と対面した。
まだ実感が湧かないのか美奈は黙ったままだった。
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