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19. 傷の舐め合い

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 帰りの車内で渡瀬が

「以前はるさんが目覚めたきっかけを話された時に『復讐のゴールなんてなくて、復讐ごっこをしてお互いの傷を舐めあってただけなんじゃないか』って言ってたのは覚えてますか?」

「あー、言ったね」

「確かにそれも一理あると思いますし、実際にそういう意味合いも何割かあると思います。でも、真島さんの奥様を抱いたのはホストなのに、自分だと言ってはるさんを怒らせて目覚めさせた」

「でもまじで言ってそうだったよ?ほんとにそう思ってるって感じ。嘘ついてる感じなかったもん」

「はい、それも否定はしません。しかし……あの東堂さんがはるさんを目覚めさせるほど怒らせるようなことをするのは何か意味があるとしか。あの人にとって怒りの先にあったものははるさんの救済……寂しくて怒る感情を海底にでも沈めたくて、最終的にはこうしてはるさんをはるさんとして目覚めさせたかったので無いでしょうか?」

「じゃあ自分はどうするの?東堂さんの奥さんの事とか、東堂さん自身の辛いとか」

「それはそれで辛いから……消えたいんじゃないでしょうか」

「なにそれ。東堂さんが言ってたの?」

「……いえ、違いますけど、私ならそう思うかなと」

「私が苦しくて東堂さんが存在したのに、私が東堂さんを苦しくさせてちゃ訳わかんないよね」

「副人格は元々主人格の代わりに……みたいなところがあるのでそこは仕方ないのでは…」

 主人格も副人格もなにも、私は私だし、東堂さんは東堂さんなんだよ。

「……昨日のことなんですけど」

「ん?セックスしたこと?」

「え、えぇ、まぁ。あれは、誰に見えてたんですか?」

「東堂さん、かな?でも私東堂さんとしたことないし、きっと渡瀬なんだろうなぁと思いながら、でも東堂さんだしなぁ、東堂さんでしかないしなぁみたいな。行ったり来たりって感じかな」

「どうして私の姿なんですか?」

「渡瀬も変わったね。前はそんなに質問とかしてこなかったじゃん。淡々と仕事だけして、私のプライベートにも一切口出さなかったし」

「すみません」

「責めてるんじゃないって。こうして会話が出来て嬉しいよ」

 東堂さんと話してるみたいだからですか?って聞かれるかと思った。
 もし聞かれてたら『そうだよ』って思わず言ってしまいそうだったから、無視してくれて助かった。
 でもどうして渡瀬だったのかって考えたら、朝比奈教授が言ったようにやっぱりちょっとは好きだったのかなーってぼんやり思った。

「あと、次からは助手席じゃなくいつも通り後ろにお座りください。危ないので」

「あ、ほんとだね。助手席座ってるね」

「はい、お願いします」

 渡瀬が言ってることが当たってたとしてさ。
 私を起こすためにってやつとか、ほんとは東堂さんが消えたがってるんじゃないかとか。
 東堂さんを解放してあげたら、私の寂しいはもっと寂しくなって、結局また東堂さんみたいな人を作っちゃうんじゃないかな?
 そうならないとしたら私は一人で寂しいのを抱えるんだよね。
 みんなそうやって生きてんのか。
 すごいなぁ。

 私にはお金も地位も権力もあるけど、一人でこの寂しさを背負えるほど力持ちじゃないからさ。
 あ、真島さんに昔もっと痩せた方が良いとか言われたな。
 ジムでも行けって。
 余計なお世話だしやっぱあの人、男としてってか人として出来が悪いよな。
 出来が悪いから、完璧じゃないから好きなのかな。
 会いたいな。
 あれから何キロくらい痩せたんだろ、私。
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