上 下
10 / 35
第4部 暴虐のカオス

#9 サバト③

しおりを挟む
 学校の来客用駐車場に、洋画に出てくるような大きな外車が停まっていた。
 ふたりが近づくと、後部のドアが音もなく開いた。
「最初からそのつもりだったのね」
 立ち止まって、杏里はいった。
 自分でも声がきつくなっているのがわかる。
「私たちきょうはふたりとも早退するって、学校にはうちの者から連絡させておいたから、心配しなくて大丈夫」
 零がいって、先に後部座席に乗り込んだ。
 躊躇している場合ではなかった。
 由羅が危ないのだ、
 杏里は続いてシートに坐った。
 中は驚くほど広く、運転席との間にしきりがあった。
 こんな車に乗るのは初めてだった。
「あなたの目的は何なの?」
 車が動き出すと、杏里はたずねた。
 いつかのことを思い出す。
 この子、私がトラックに押しつぶされかけているとき、苦しむ私を見ながら、オナニーしていた。
 だから、対象がこの私であることは、なんとなくわかる。
 でもなぜ、そんなにまでして苦しむ私の姿が見たいのだろう?
「私はね、感じたいだけ」
 零がねばつくような視線を杏里の顔に当て、いった。
「あなたが苦しみ、血まみれになるのを見て、心ゆくまで官能に浸りたいの。そういう性(さが)だから」
「それであなたは救われるの?」
 杏里は訊いた。
 タナトスの力で、外来種をも解放できるのだろうか。
 もしそうなら、パトスである由羅も、無用な血を流さなくて済むだろう・・・。
「さあ、どうかしら。私の"業"は、人間と違って深いから」
 零が微笑んだ。
 どこか爬虫類めいた微笑だった。

 海の側に、その建物はあった。
 翠の蔦に壁一面を覆われた、古い病院である。
「パーティーにはまだ間があるから、まず体を清めて」
 車を降りるなり、零がいった。
「ライフラインはすべて復旧済みだから、シャワーもお風呂もOKよ。あ、トイレも済ませておいてね。観客の前できのうみたいな醜態を晒すのは、さすがのあなたも嫌でしょう?」
 杏里は屈辱で頬が熱くなるのを感じた。
 見られたのだ。
 きのう、狂った校医の鈴木翠に目玉をえぐられて、堪え切れず糞尿を垂れ流してしまったところを。
「私は何をされてもいい。でも、ひとつだけ約束して」
 先に行こうとした零の服の袖をつかんで、杏里はいった。
「今すぐ由羅を解放して。でないと、私、ここを動かない」
「そうね」
 零が気のなさそうな口調で答えた。
「嘘をいうつもりはないわ。だからそんなに意固地にならないで。あの子にも、あなたの晴れ姿、見せてあげたいしね」
 正面玄関を入ると、そこは広々としたロビーだった。
 が、古びた壁は染みだらけで、まるで幽霊屋敷のような雰囲気である。
 並んだソファもあちこちが破れ、中身が内臓のようにはみ出しているものばかりだ。
 正面にある古色蒼然とした大きなテレビはブラウン管が割れ、歪んだ杏里と零の姿を映し出している。

 蔦は建物の中まで進入してきていていた。
 その蔦の這う長い通廊を奥に進むと、広い空間に出た。
 かつては、患者や見舞い客用のレストランだったのだろう。
 入口にショーケースがまだ残っていた。
「由羅はここよ」
 零がいって、長袖の右手を伸ばし、中を指し示した。
 杏里は息を呑んだ。
 右手の壁際に、パイプ椅子が2列に並べてある。
 それが観客席だとすると、左手がステージだった。
 少し高くなった床の上に、奇怪なものがずらりと並んでいる、
 天井にはワイヤが張り巡らされ、フックやロープがぶら下がっていた。
 杏里は気味悪そうにそれらの"装置"を眺めた。
 中世ヨーロッパの城にある、等身大の甲冑のようなもの。
 電気椅子を思わせる、革張りの大きな椅子。
 床から突き立ったピラミッド状の四角錐。
 人間が入れそうなくらい巨大な牛の置物。
 そしてまだその先があるのか、突き当たりの壁に埋め込まれたドア。
 由羅は奥の壁際にいた。
 動画で見た通り、全裸で三角形の木の台の上に腰かけていた。
 後ろ手に縛られ、髪の毛を天井から伸びたロープに結わえつけられている。
 死んだように目を閉じていた。
「ゆら!」
 側によってみて、杏里はその残酷さに思わず小さく悲鳴をあげた。
 由羅が坐っているのは、先が鋭角に尖った台だった、
 その鋭い先端が、彼女の股間に食い込み、大事なところを傷つけているのだ。
「どうぞ」
 零が由羅の戒めを解いた。
 髪の毛をロープからはずすと、軽々と由羅の体を抱え上げた。
 杏里は目を見張った。
 すごい力だ、と思った。
 骨密度が常人の倍以上ある由羅の体重は、90キロを超えている。
 それを零は楽々と持ち上げてみせたのだ。
 華奢な体格からは想像つかないパワーだった。
「ゆら!」
 もう一度叫び、杏里は由羅を抱き取った。
 由羅の体は冷え切ってしまっていた。
 太腿を血の筋が伝っている。
「あっちにいってて!」
 零に向かって、鋭くいった。
「ふたりだけにして」
「はいはい」
 零がいった。
「かまわないわよ。どうせもう、ここからは出られないから」
 にっと笑うと、大股で立ち去っていった。
 零の姿が廊下に消えるのを見届けると、杏里は由羅を床に横たえ、服を脱ぎ始めた。
 ブラウスも、ブラジャーも取った。
 スカートを落とし、パンティーも脱ぎ捨てる。
「ゆら、今、治してあげるから」
 ゆっくりと腰をかがめた。
 床が氷のように冷たい。
 由羅の脚を開き、股の間に目をやった。
 膣がざっくりと切れて、血にまみれている。
 杏里は顔をそこに近づけた。
 唇を触れる。
 舌先を出し、血を拭い取った。
「・・・ううん・・・」
 由羅がうめいた。
 杏里は顔を上げると、体を入れ替え、由羅の脚の間に己の下半身を入れた。
 自分の性器が濡れ始めているのを確かめると、由良の股間にそれを押し当てた。
 腰を入れ、密着度を高めていく。
 由羅の右足を抱え、引いた。
 性器同士が触れ合う、粘つくような音がした。
 「あん」
 杏里は喘いだ。
 痺れるような快感が走る。
 空いている左手を伸ばし、由羅の乳を揉む。
 乳首が勃起するまで、揉みしだく。
 己の性器から、熱いものが溢れ出すのがわかった。
 タナトスのエロスのエネルギーが、傷ついたパトスを癒すために、今噴き出し始めたのだった。
 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハッピーガール

床間四郎
ホラー
少女の願いはただひとつ、みんなが幸せになってほしい。しかしこの世界はそこまで単純ではなくて……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

怖いお話。短編集

赤羽こうじ
ホラー
 今まで投稿した、ホラー系のお話をまとめてみました。  初めて投稿したホラー『遠き日のかくれんぼ』や、サイコ的な『初めての男』等、色々な『怖い』の短編集です。  その他、『動画投稿』『神社』(仮)等も順次投稿していきます。  全て一万字前後から二万字前後で完結する短編となります。 ※2023年11月末にて遠き日のかくれんぼは非公開とさせて頂き、同年12月より『あの日のかくれんぼ』としてリメイク作品として公開させて頂きます。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...