汚れちまった悲しみに、きょうも血潮が降り注ぐ

#30 救助

　サイレンの音が耳をつんざくまでに大きくなり、やがて狭い路地をパトカーが埋め尽くした。
　制服警官や私服刑事たちに取り囲まれた時、芙由子は下着姿のまま、ごみ屋敷のような部屋の中で、比奈の身体を抱いてうずくまっていた。
　それからのことはあまり覚えていない。
　比奈と引き離され、肩からコートをかけられて救急車に乗せられた。
　アパートの周囲には黄色のテープが張り巡らされ、その向こうに野次馬たちが白い息を吐いて群がっていた。
　その中に巧の姿を見かけたように思ったが、それは芙由子の気のせいかもしれなかった。
　救急車は2台あり、もう一台にはシーツをかけられた担架が運び込まれていった。
　担架の上の人の形をした隆起は、あの男のものに違いなかった。
　その様子を見るともなく眺めながら、ぼんやりと芙由子は思った。
　本当に、あれは、私がやったのだろうか…。
　救急車のドアが閉まる瞬間、アパートの前に佇む比奈の姿が見えた。
　婦人警官がその後ろに立ち、少女の肩に手を置いている。
　じっと見つめていると、また涙があふれてきた。
　比奈の口が動いた気がした。
　だが、何と言ったのか、芙由子にはわからなかった。