12 / 108
#11 逃避行③
しおりを挟む
圧力鍋の中のザリガニは完全にフライと化していた。
でも食べられないことはない。
捨てるのはもったいなさすぎる。
フナは諦めるにしても、せめてこれくらいは・・・。
なんせきょうは朝から何も食べていないのだ。
ひとつつまんでポリポリ齧りながら「食べる?」と訊くと、即座に「いらない」という返事が返ってきた。
少女は寝室にいる。
さっきちらっと覗いてみたら、佐平の死体の傍らにひざまずいていた。
「おなか空いてないの」
「そっか」
どうやったのかは知らないが、彼女はあの化け物や戦闘員たちをバラバラ死体に変えてしまったのである。
あの惨状を目の当たりにして、食欲が湧くほうがおかしいといえた。
「あった」
寝室から姿を現すと、少女がカードみたいなものを掲げてみせた。
「何それ?」
「当座の逃走資金。博士のカード、もらっていく」
なあんだ、最後の別れを惜しんでいたのではなかったのか。
明はいささか鼻白む思いだった。
この女の子、案外しっかり者なのかも。
「いいでしょ? あなた、実の息子なんだから」
「まあね」
確かに極貧の俺の貯金では、たとえ逃げてもその日の食費にも困ってしまう。
せめて父さんにはそのくらいの役には立ってもらわないと・・・。
必要最小限(と思われる)ものをリュックに詰め込み、住み慣れたぼろ家を後にした。
空き地には佐平が運転してきたと思しき軽自動車が止まっている。
幸い、明は普通免許を所持していた。
大学を辞める前、まだ佐平と一緒に暮らしていた頃に取ったのだ。
「途中でショッピングモールに寄ってくれない?」
助手席に座り、シートベルトを締めると少女が言った。
「着替えが欲しいの。できればその後、ビジネスホテルにでも泊まってシャワーを浴びたいな」
明は横目で少女を見た。
シートベルトに絞り出された豊かな胸を覆うブラウスはあちこちに血の染みができ、斑になっている。
極端に短いスカートからむちっと突き出た二本の太腿も、砂ぼこりと血痕で汚れていた。
それにしても、その境い目からのぞくあの白い部分は、ああ、いかん、また・・・。
煩悩で頭がくらくらし始めた明に、
「どこ見てんの?」
ひどく冷たい声で、少女が言った。
「早く車出してよ。このヘンタイ」
でも食べられないことはない。
捨てるのはもったいなさすぎる。
フナは諦めるにしても、せめてこれくらいは・・・。
なんせきょうは朝から何も食べていないのだ。
ひとつつまんでポリポリ齧りながら「食べる?」と訊くと、即座に「いらない」という返事が返ってきた。
少女は寝室にいる。
さっきちらっと覗いてみたら、佐平の死体の傍らにひざまずいていた。
「おなか空いてないの」
「そっか」
どうやったのかは知らないが、彼女はあの化け物や戦闘員たちをバラバラ死体に変えてしまったのである。
あの惨状を目の当たりにして、食欲が湧くほうがおかしいといえた。
「あった」
寝室から姿を現すと、少女がカードみたいなものを掲げてみせた。
「何それ?」
「当座の逃走資金。博士のカード、もらっていく」
なあんだ、最後の別れを惜しんでいたのではなかったのか。
明はいささか鼻白む思いだった。
この女の子、案外しっかり者なのかも。
「いいでしょ? あなた、実の息子なんだから」
「まあね」
確かに極貧の俺の貯金では、たとえ逃げてもその日の食費にも困ってしまう。
せめて父さんにはそのくらいの役には立ってもらわないと・・・。
必要最小限(と思われる)ものをリュックに詰め込み、住み慣れたぼろ家を後にした。
空き地には佐平が運転してきたと思しき軽自動車が止まっている。
幸い、明は普通免許を所持していた。
大学を辞める前、まだ佐平と一緒に暮らしていた頃に取ったのだ。
「途中でショッピングモールに寄ってくれない?」
助手席に座り、シートベルトを締めると少女が言った。
「着替えが欲しいの。できればその後、ビジネスホテルにでも泊まってシャワーを浴びたいな」
明は横目で少女を見た。
シートベルトに絞り出された豊かな胸を覆うブラウスはあちこちに血の染みができ、斑になっている。
極端に短いスカートからむちっと突き出た二本の太腿も、砂ぼこりと血痕で汚れていた。
それにしても、その境い目からのぞくあの白い部分は、ああ、いかん、また・・・。
煩悩で頭がくらくらし始めた明に、
「どこ見てんの?」
ひどく冷たい声で、少女が言った。
「早く車出してよ。このヘンタイ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜
蜂峰 文助
ホラー
※注意!
この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!!
『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎
https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398
上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。
――以下、今作あらすじ――
『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』
ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。
条件達成の為、動き始める怜達だったが……
ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。
彼らの目的は――美永姫美の処分。
そして……遂に、『王』が動き出す――
次の敵は『十丿霊王』の一体だ。
恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる!
果たして……美永姫美の運命は?
『霊王討伐編』――開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる