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#14 校長
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そもそも、校長室が最上階にあるというのはどうなのだろう?
金田猛の後を、十分距離を取って階段を上りながら、氷室基子は思う。
校長室というのは、普通、1階に位置するものではないのか。
職員室の隣とは言わないまでも、1階の廊下の突き当りとか、つまりは偉そうなポジションに。
それがこの曙高校では、4階の奥、美術室の隣である。
基子は某アニメの登場人物に似た校長の顔を思い浮かべた。
頭頂が見事に禿げ上がったその首から上は、大きな裸電球にそっくりだった。
小柄で眼鏡をかけていて大人しく、目立たない。
始業式でも終業式でも校長のスピーチは短く声も小さいので、いつも印象に残らない。
その校長が、私たちに何の用があるというのだろう?
4階に上がると、廊下の窓から街並みが一望のもとに見渡せた。
あちらこちらで火事が発生しているらしく、立ち上る黒煙の間から時折悪魔の舌のような紅蓮の炎が閃く。
視界の不明瞭なその風景の中を、何かとてつもなく巨大なものが動いているのが、煙のベール越しに垣間見えた。
時々チラ見えするそのシルエットは、なぜだか技術の時間に触れたことのある電気ドリルに似ていた。
まさかね。
さすがの基子も自分の目を疑わざるを得なかった。
そんな怪物、この世に存在していいはずがない。
校長室のドアは静まり返っていた。
「早く」
その前で立ちすくんでいる猛を基子は急かした。
「あ、ああ」
我に返ったように猛がうなずき、ドアをノックすると、
「どうぞ」
中から聞き慣れない声がした。
校長の声じゃない。
とっさに基子は思った。
誰かが校長と一緒にいるのだろうか。
猛が開けたドアの隙間から、大型の机の向こうに座る校長の電球頭が見えた。
デスクが大きすぎて、首から上だけがかろうじて出ている感じである。
が、他に人影はない。
居るとしたらデスクの下だが、そんなところに誰が隠れるだろう。
「氷室基子と金田猛です。何か御用でしょうか」
猛の脇をすり抜け、校長の前に立つと、基子は言った。
と、電球頭ががくりと仰向けになり、真上を向いた口がだらしなく開いた。
その口を内側から吸盤のついた10本の指が押し広げ、何やら緑色をした生き物が出てこようとしている。
ぴょこりと顔を出すと、固唾を呑んで見守る基子と猛に、”それ”は言った。
「ありがとう。こんな非常時に、よく来てくれた」
金田猛の後を、十分距離を取って階段を上りながら、氷室基子は思う。
校長室というのは、普通、1階に位置するものではないのか。
職員室の隣とは言わないまでも、1階の廊下の突き当りとか、つまりは偉そうなポジションに。
それがこの曙高校では、4階の奥、美術室の隣である。
基子は某アニメの登場人物に似た校長の顔を思い浮かべた。
頭頂が見事に禿げ上がったその首から上は、大きな裸電球にそっくりだった。
小柄で眼鏡をかけていて大人しく、目立たない。
始業式でも終業式でも校長のスピーチは短く声も小さいので、いつも印象に残らない。
その校長が、私たちに何の用があるというのだろう?
4階に上がると、廊下の窓から街並みが一望のもとに見渡せた。
あちらこちらで火事が発生しているらしく、立ち上る黒煙の間から時折悪魔の舌のような紅蓮の炎が閃く。
視界の不明瞭なその風景の中を、何かとてつもなく巨大なものが動いているのが、煙のベール越しに垣間見えた。
時々チラ見えするそのシルエットは、なぜだか技術の時間に触れたことのある電気ドリルに似ていた。
まさかね。
さすがの基子も自分の目を疑わざるを得なかった。
そんな怪物、この世に存在していいはずがない。
校長室のドアは静まり返っていた。
「早く」
その前で立ちすくんでいる猛を基子は急かした。
「あ、ああ」
我に返ったように猛がうなずき、ドアをノックすると、
「どうぞ」
中から聞き慣れない声がした。
校長の声じゃない。
とっさに基子は思った。
誰かが校長と一緒にいるのだろうか。
猛が開けたドアの隙間から、大型の机の向こうに座る校長の電球頭が見えた。
デスクが大きすぎて、首から上だけがかろうじて出ている感じである。
が、他に人影はない。
居るとしたらデスクの下だが、そんなところに誰が隠れるだろう。
「氷室基子と金田猛です。何か御用でしょうか」
猛の脇をすり抜け、校長の前に立つと、基子は言った。
と、電球頭ががくりと仰向けになり、真上を向いた口がだらしなく開いた。
その口を内側から吸盤のついた10本の指が押し広げ、何やら緑色をした生き物が出てこようとしている。
ぴょこりと顔を出すと、固唾を呑んで見守る基子と猛に、”それ”は言った。
「ありがとう。こんな非常時に、よく来てくれた」
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