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第5章 約束の地へ
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「うーん」
光が困惑している。
いつも沈着冷静な彼女には、ひどく珍しいことだった。
「い、いやすぎ」
あずみが僕にしがみつく。
やわらかな特大プリンが、ぐいぐいと腕に押しつけられた。
でも、正直僕も、上の空だった。
それほど眼下に広がる光景は、衝撃的だったのだ。
僕らは動物園の正面ゲートを背にして、行く手を見下ろしていた。
道は500メートルほど先で、左右から来た道路とぶつかり、ちょうどすり鉢の底の部分が交差点になっている。
角にマクドナルドとガソリンスタンドが建つ、少し大きめの交差点である。
左右を横切る道は、この双子山を両側から迂回する幹線道路から伸びたわき道だ。
ケロヨンのマップによると、幹線道路は両方とも乗り捨てられた車が山積し、通行不能とのことだった。
だから僕らは危険を承知でまっすぐ動物園を突っ切る道を選んだのだが、その交差点のあたりが今や大変なことになっているのだった。
黒光りする翅。
とげだらけの脚。
風もないのに揺れる長い触角。
それが押し合いへし合いして、交差点を埋め尽くしている。
ゴキブリである。
しかも、家庭用サイズではなく、人間ほどもある特大サイズのゴキブリなのだ。
それが、何十匹、いや、何百匹と、行く手を占拠しているのだった。
「あたし、ゴキ、だめなんだよね」
憂鬱そうに光が言った。
「あずみもです。小さいの1匹出ただけでも、心臓が止まっちゃいます」
あずみが僕の腕をぎゅっとつかむ。
「んなこと言ったって、あそこ抜けなきゃ研究センターに行けないじゃん」
珍しく、一平がまともな意見を吐いた。
その通りである。
幹線道路に逃れても、そこはおそらく通れないのだ。
「あ、なんか飛んできた」
と、ふいにあずみが頭上を見上げてつぶやいた。
黒い影が、日光をさえぎった。
「一平!」
光が叫ぶ。
「アイサー!」
一平がすばやくレールガンを構え、撃った。
どさりと落下した黒いものが、ゆらりと立ち上がる。
「ひゃ」
あずみが息を呑んだ。
それは、人間だった。
いや、元人間、というべきか。
背中にゴキブリに翅を背負い、額から2本の触角を伸ばしている。
顏は典型的なゾンビ面。
白濁した眼がその何よりの証拠だった。
「リサイクル…」
光が呆然とした表情で言った。
「リサイクル線虫が、ゴキブリのDNAを…?」
「じゃ、あそこにうじゃうじゃいるのは、みんなゴキブリ人間だっていうのかよ?」
一平が泣きそうな声を出す。
と、そいつが動いた。
地面に腹這いになると、ものすごい勢いでザザッと走り出したのだ。
「うげっ」
いきなり飛びつかれて、一平がひっくり返る。
あずみも光も金縛りに遭ったように動かない。
「アキラ君、頼んだわ」
光が叫んだ。
「一平を助けてあげて!」
光が困惑している。
いつも沈着冷静な彼女には、ひどく珍しいことだった。
「い、いやすぎ」
あずみが僕にしがみつく。
やわらかな特大プリンが、ぐいぐいと腕に押しつけられた。
でも、正直僕も、上の空だった。
それほど眼下に広がる光景は、衝撃的だったのだ。
僕らは動物園の正面ゲートを背にして、行く手を見下ろしていた。
道は500メートルほど先で、左右から来た道路とぶつかり、ちょうどすり鉢の底の部分が交差点になっている。
角にマクドナルドとガソリンスタンドが建つ、少し大きめの交差点である。
左右を横切る道は、この双子山を両側から迂回する幹線道路から伸びたわき道だ。
ケロヨンのマップによると、幹線道路は両方とも乗り捨てられた車が山積し、通行不能とのことだった。
だから僕らは危険を承知でまっすぐ動物園を突っ切る道を選んだのだが、その交差点のあたりが今や大変なことになっているのだった。
黒光りする翅。
とげだらけの脚。
風もないのに揺れる長い触角。
それが押し合いへし合いして、交差点を埋め尽くしている。
ゴキブリである。
しかも、家庭用サイズではなく、人間ほどもある特大サイズのゴキブリなのだ。
それが、何十匹、いや、何百匹と、行く手を占拠しているのだった。
「あたし、ゴキ、だめなんだよね」
憂鬱そうに光が言った。
「あずみもです。小さいの1匹出ただけでも、心臓が止まっちゃいます」
あずみが僕の腕をぎゅっとつかむ。
「んなこと言ったって、あそこ抜けなきゃ研究センターに行けないじゃん」
珍しく、一平がまともな意見を吐いた。
その通りである。
幹線道路に逃れても、そこはおそらく通れないのだ。
「あ、なんか飛んできた」
と、ふいにあずみが頭上を見上げてつぶやいた。
黒い影が、日光をさえぎった。
「一平!」
光が叫ぶ。
「アイサー!」
一平がすばやくレールガンを構え、撃った。
どさりと落下した黒いものが、ゆらりと立ち上がる。
「ひゃ」
あずみが息を呑んだ。
それは、人間だった。
いや、元人間、というべきか。
背中にゴキブリに翅を背負い、額から2本の触角を伸ばしている。
顏は典型的なゾンビ面。
白濁した眼がその何よりの証拠だった。
「リサイクル…」
光が呆然とした表情で言った。
「リサイクル線虫が、ゴキブリのDNAを…?」
「じゃ、あそこにうじゃうじゃいるのは、みんなゴキブリ人間だっていうのかよ?」
一平が泣きそうな声を出す。
と、そいつが動いた。
地面に腹這いになると、ものすごい勢いでザザッと走り出したのだ。
「うげっ」
いきなり飛びつかれて、一平がひっくり返る。
あずみも光も金縛りに遭ったように動かない。
「アキラ君、頼んだわ」
光が叫んだ。
「一平を助けてあげて!」
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