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#219 暗黒の塔⑬

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「こりはなかなかいいでちゅね」

 ハズキルーペをかけ、仲間の名札をためつすがめつしながら、花がうなずいた。

「あたちも常日頃から、世界中の文字は小さすぎると思ってたところでちゅ」

 私は愕然とした。

 あんた、その歳で老眼なの?

 老眼の幼稚園児が、この世に存在するなんて!

「ちなみにそれは、尻で踏んでも壊れない。ゾウに踏まれても大丈夫だ。頑丈さには定評がある」

 交渉を一気にまとめようと、すかさずラルクが口を出す。

 でもラルク、『ゾウに踏まれても』のくだりは、別の商品のCMじゃなかったっけ?

「ふむ。それも好都合でちゅ。子供はとかく、人のモノを触ってはこわちまちゅからね」

 花がつぶやいて、周りのやんちゃ坊主たちをじろりとねめ回した。

「ともあれ、これで交渉成立と考えていいんだな」

 安堵のため息とともにラルクが念を押す。

「了解でちゅ。では、さっそく説明ちまちゅ」

 ハズキルーペを装備したまま、私たちのほうに向き直り、花が話し出した。

「まず、時空魔導士のスキルでちゅが、空間移動、時間移動、次元移動の3つでちゅ」

 空間移動、時間移動、次元移動?

 私は再び唖然となった。

 なんたるチート!

 これじゃ、時空魔導士って、まるきし万能じゃん!

 と思ったのだ。

「ですが、あたちはまだ幼児なので、時間移動はできないでちゅ」

 鼻の頭をこすりながら、花が補足する。

「でも、次元移動と空間移動はできるんでしょ? すごいなあ」

 素直に感心するソフィア。

 が、それが一平には気に入らないらしい。

「じゃ、やってみろよ。口だけなら、何とでもいえるだろ?」

 と、歳が一番近いせいか、幼児相手に妙に敵愾心を燃やしている。

「疑ってまちゅね。じゃ、見せまちゅよ。あとで吠え面かいても知りまちぇんからね」

 と、言い放った瞬間である。

 花の身体が、一瞬ぶれた気がした。

「は? なんだよそれ?」

 一平が鼻の穴をふくらませる。

「なんにも起こってないじゃねーか」

「あんたの目は節穴でちゅか」

 馬鹿にしたように鼻が地面を指さした。

「ちゃんと5センチ空間移動したでちゅ。よく見てから言うでちゅね」

 場がシーンとなった。

 たったの、5センチ…?

 おいおい、である。

 そんな能力、なくてもいいんじゃね?

 きっとみんなも、私同様、そう思ったに違いない。






 




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