上 下
212 / 246

#210 暗黒の塔④

しおりを挟む
 元の世界に戻って距離を稼ぎ、それからこっち側にもう一回転移していきなり敵陣のど真ん中に突撃するー。
 なんか、ズルしてるみたいであんまり冒険者らしくない。
 そろそろボス戦が近いのだから、これがゲームであれば、勇者なら勇者らしく、正々堂々と正面突破を図るべきなのかもしれない。
 でも、初子がメンテで使えない以上、その手で行くのがベストだろうと私も思う。
 敵陣までの距離によっては新幹線じゃなくて飛行機に乗ることになるかもしれないけれど、なんなら途中で我が家に寄って旅費を調達することだってできるのだ。

 ともあれ、まずはギルドで装備を整え、それから時空魔導士とやらを探さねば。
 ギルドは目抜き通りの真ん中あたりにある、しゃれたつくりの店だった。
 外見は気のせいかマクドナルドに似ている。
 店の横に自転車がいっぱい止まっている様子からしても、もろマックだろう。
 自動ドア(!)をくぐると、
「いらっしゃいませー」
 さわやかな女店員の声が飛んできた。
 目の前にカウンターがあり、客が列を作って順番を待っている。
 ただ、ハンバーガーを買っているのではなく、カウンターの受付にある掌紋認証装置みたいなのに手のひらを乗せて、なにか検査でもしているような感じである。
 待つほどもなく、先頭のソフィアの番が回ってきた。
「冒険者様ご一行ですね。記録の更新をお願いいたします」
 笑顔を振りまいて、店員が言った。
「はいな」
 ソフィアがうなずき、左手のブレスレットをはずした。
 それを手に持ち、受付のカードリーダーみたいな機械の上にかざした。
 ピーヒャララ。
 気の抜けた笛みたいな音が鳴った。
「あら、お見事」
 店員の眼が丸くなる。
「戦士65、竜騎士34です。レベル60超えですから、ボーナス特典ゲットですね」
 続くラルクは、学者70、読書家35.
 一平ですら、料理人60、シーフ30になっていた。
 不思議といえば不思議である。
 専ら敵と戦ったのはこの私なのに、ほとんど何もしていないこの3人のレベルまで上がっているとは。
 おそらくパーティというのは、そういうものなのだろう。
 で、私はといえば、泣く子も黙るエロ魔導士80、踊り子40の大台だ。
「す、すごいです。私、初めてです。レベル80のエロ魔導士様なんて」
 店員の女の子は、感動でつぶらな瞳をうるうるさせている。
 褒められて悪い気はしないけど、その”エロ”の部分を大声で言わないでほしかった。
「では、ご一行様、奥でギルドマスターのお目通りを」
 カウンターの横板を開き、女の子が私たちを中に招き入れた。
 ドアの奥は厨房かと思ったら、体育館みたいな広い空間だった。
 すごいのは、左右と正面の壁におびただしい防具や武器の類いがずらりと飾られていることだ。
「これはこれは、勇者の皆様。レベルアップ、おめでとうございます」
 椅子から立ち上がり、キラキラの衣装を身に着けたちょび髭の男が歓迎するように両手を広げた。
 中国人のマジシャンみたいな、いささかいかがわしい雰囲気のやさ男である。
「私がこのラスカルのギルドマスター、陳墨彩でございます」
 男の自己紹介に、
「チンボクサイ? なんだそれ」
 ぼそりと一平がつぶやいた。
 気持ちはわかるけど、その名前、いちいち口に出して反復するなっての!

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

絶対絶命女子!

戸影絵麻
ホラー
 それは、ほんのささいな出来事から始まった。  建設現場から発掘された謎の遺跡。増え始めた光る眼の蛞蝓。  そして、のどかな田園都市を、生ける屍たちが侵食する…。  これは、ゾンビたちに立ち向かった、4人の勇気ある乙女たちの物語である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...