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#208 暗黒の塔②
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この世界の一部のものがクリスタルの力で動いていることは、以前ソフィアから聞いていた。
現にあの浮遊都市ソラリスは、私の元居た世界とさして変わらない文明化ぶりだったのである。
だけどテレビというのはこれが初めてだった。
異世界のテレビ局って、いったいどんな番組を流しているのだろう。
食堂の奥に横長の頑丈そうな木の台があり、その上に古めかしいブラウン管テレビが乗っている。
動力源はクリスタルであるにせよ、これはどう見ても、この世界の発明品というより、私の住んでいた地球からの横流し品に違いない。
しかも、今時珍しい白黒テレビときている。
昭和30年代の日本からこの世界にやってきた冒険者が、手土産に持ち込んだのかもしれない。
好奇心に駆られて、私たちはテレビの前に群がる客たちの中に割り込んだ。
ミラクルバディの美女と可憐な美少女戦士の組み合わせに、おっさんたちが親切にも場所を空けてくれた。
ブラウン管に映っているのは、ずいぶんとぼやけた画像である。
石造りの建物に囲まれた小ぎれいな広場に、実況中継のアナウンサーらしき人物がマイクを片手に立っている。
「ここは、ロンバルディア王宮にほど近い、コンドル広場です。ごらんください、あれを」
アナウンサーの声に、画面が切り替わる。
広場の地面を突き破って、漆黒の塔がそびえ立っている。
傾いた3本の塔が途中で絡み合い、1本になったような形のそれは、背後の街並みを覆い隠すほど巨大だった。
「数日前にここロンバルディア大陸の北岸に上陸した魔王軍は、地下を移動して、いきなり市街の中心部に出現した模様です。あの黒い塔からは、夜になると魔物の大群が出現し、市民を襲っているという情報もあります。ですが、不思議なことに、この件に関して、王宮からは今のところ、何のメッセージもありません」
「マジかよ。これ、ガチでやばくね?」
信じられないといったふうに、一平がつぶやいた。
「確かに。いきなり本土上陸なんて、奇襲攻撃にもほどがある」
珍しく、一平の言葉にラルクが同意した。
「おいらたちが島で怪獣ごっこしている間に、事態はここまで悪化していたというわけだ」
「怪獣ごっこなんて言わないでよ。私はあれでも必死だったんだから。だいたい、あんたなんか、ただ見てただけじゃない」
一平の心ない言葉が癇に障ってそう突っ込むと、
「もちろん、怪獣島での冒険には意味がある。ビッチファッカー初号機と翔子のレベル上げ、それがそもそもの目的だったのだからな」
これも珍しく、ラルクがしっかりフォローに入ってくれた。
「うかつに街に近づけなくなっちまったなあ。これじゃ、商売、あがったりだ」
行商人風の男が苦り切った顔で、あごひげをしごいている。
「なんでも、市へと至る街道すべてに、人間をひっ捕まえては拷問する、強制収容所がつくられてるらしい。最近では昼間も魔物が出るらしいから、とにかく城下町には近づかないこった」
「どうする、ラルク?」
話に聞き入っていたソフィアがラルクを見た。
「王族の連中、絶対魔王とグルになってるよ。だから何もしようとしないんだ」
婚約破棄の屈辱を思い出したのか、きれいな顔が怒りに燃えている。
「強制収容所か。そのうわさが本当だとすると、正面突破は危険かもしれないな」
ラルクは何か考えでもあるのか、尖った顎の先を指でしきりに撫でている。
「だとしたら、また”あれ”でいくか」
そのラルクが私を見た。
「しばらくはメンテで初子を使えないんだろう? その間は、できるだけ戦いを避けるのが望ましい。そうじゃないか?」
「そりゃそうだけど、で、どうするの? あれって、なあに?」
「いつかおまえが話してくれた”新幹線”だ」
強い口調で、ラルクが言った。
「今回の移動は、新幹線で行うことにする」
現にあの浮遊都市ソラリスは、私の元居た世界とさして変わらない文明化ぶりだったのである。
だけどテレビというのはこれが初めてだった。
異世界のテレビ局って、いったいどんな番組を流しているのだろう。
食堂の奥に横長の頑丈そうな木の台があり、その上に古めかしいブラウン管テレビが乗っている。
動力源はクリスタルであるにせよ、これはどう見ても、この世界の発明品というより、私の住んでいた地球からの横流し品に違いない。
しかも、今時珍しい白黒テレビときている。
昭和30年代の日本からこの世界にやってきた冒険者が、手土産に持ち込んだのかもしれない。
好奇心に駆られて、私たちはテレビの前に群がる客たちの中に割り込んだ。
ミラクルバディの美女と可憐な美少女戦士の組み合わせに、おっさんたちが親切にも場所を空けてくれた。
ブラウン管に映っているのは、ずいぶんとぼやけた画像である。
石造りの建物に囲まれた小ぎれいな広場に、実況中継のアナウンサーらしき人物がマイクを片手に立っている。
「ここは、ロンバルディア王宮にほど近い、コンドル広場です。ごらんください、あれを」
アナウンサーの声に、画面が切り替わる。
広場の地面を突き破って、漆黒の塔がそびえ立っている。
傾いた3本の塔が途中で絡み合い、1本になったような形のそれは、背後の街並みを覆い隠すほど巨大だった。
「数日前にここロンバルディア大陸の北岸に上陸した魔王軍は、地下を移動して、いきなり市街の中心部に出現した模様です。あの黒い塔からは、夜になると魔物の大群が出現し、市民を襲っているという情報もあります。ですが、不思議なことに、この件に関して、王宮からは今のところ、何のメッセージもありません」
「マジかよ。これ、ガチでやばくね?」
信じられないといったふうに、一平がつぶやいた。
「確かに。いきなり本土上陸なんて、奇襲攻撃にもほどがある」
珍しく、一平の言葉にラルクが同意した。
「おいらたちが島で怪獣ごっこしている間に、事態はここまで悪化していたというわけだ」
「怪獣ごっこなんて言わないでよ。私はあれでも必死だったんだから。だいたい、あんたなんか、ただ見てただけじゃない」
一平の心ない言葉が癇に障ってそう突っ込むと、
「もちろん、怪獣島での冒険には意味がある。ビッチファッカー初号機と翔子のレベル上げ、それがそもそもの目的だったのだからな」
これも珍しく、ラルクがしっかりフォローに入ってくれた。
「うかつに街に近づけなくなっちまったなあ。これじゃ、商売、あがったりだ」
行商人風の男が苦り切った顔で、あごひげをしごいている。
「なんでも、市へと至る街道すべてに、人間をひっ捕まえては拷問する、強制収容所がつくられてるらしい。最近では昼間も魔物が出るらしいから、とにかく城下町には近づかないこった」
「どうする、ラルク?」
話に聞き入っていたソフィアがラルクを見た。
「王族の連中、絶対魔王とグルになってるよ。だから何もしようとしないんだ」
婚約破棄の屈辱を思い出したのか、きれいな顔が怒りに燃えている。
「強制収容所か。そのうわさが本当だとすると、正面突破は危険かもしれないな」
ラルクは何か考えでもあるのか、尖った顎の先を指でしきりに撫でている。
「だとしたら、また”あれ”でいくか」
そのラルクが私を見た。
「しばらくはメンテで初子を使えないんだろう? その間は、できるだけ戦いを避けるのが望ましい。そうじゃないか?」
「そりゃそうだけど、で、どうするの? あれって、なあに?」
「いつかおまえが話してくれた”新幹線”だ」
強い口調で、ラルクが言った。
「今回の移動は、新幹線で行うことにする」
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