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#109 浮遊都市ポラリスの秘密⑨

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 自動ドアを抜け、壁に貼られたの店内インフォーメーションを見て、私の疑惑は確信へと変わった。

『イオン ポラリス店』

 そう、カタカナではっきり書かれているではないか。

「うーん」

 私はうなった。

 ここはまるっきり、、私の家の近所にある『イオン 玉々橋店』そっくりなのだ。

 そのことに驚くと同時に、イオングループの商魂のたくましさに舌を巻く思いだった。

 まさか、異世界にまで店舗を拡大しているとは…。

 てことは、意外に向こうとこっちって、行き来する人が多いのかも。

 なら、帰り道も、きっとどこかにあるに違いない。

「けっこう、にぎわってるね」

 もの珍しげに周囲を見回しながら、ソフィアが言った。

「だね。なんだか、いろんな種族がいるみたい」

 客層はまさしく人種のるつぼ。

 ゴブリンっぽいのもいれば、エルフっぽいのもいる。

 キリンもいれば、ゾウのガネーシャみたいなのも。

 もちろん、人間が割合的には一番多いけれども、下界と違ってみんなお洒落な格好をしている。

 でも、考えてみれば、人間界のイオンにも、マイルドヤンキーな親子連れとか外人さんたちがたくさん来てるから、こうなるともう、ほとんどあちらとこちらの区別はないに等しいよね。

 まあ、ともあれ、ここがイオンだとすれば、私の庭のようなものである。

 子どもの頃から毎週通ってたから、案内地図を見なくても、だいたいの配置は頭に入っているのだ。

 1階は服飾品の専門店がいくつかと、ケータイの出張ショップと、化粧品店と、外国製のスパイスを売る店。

 それと食品売り場と真ん中がイベント用のステージだ。

 ちょうどミニコンサートの最中らしく、ステージのほうから下手くそな女の子たちの歌声が聞こえてくる。

「なんだろう?」

 一平に手を引かれて見に行くと、死神みたいな衣装の少女たちが3人、鎌を振り回して踊っていた。

 横断幕には、

『黄泉平坂46』

 とある。

 なるほど、言い得て妙のネーミングだ。

「若い子向きの服は2階だよ。確か、ユニクロもGUもあったはず」

 きょろきょろしてばかりでなかなか進まないソフィアに、しびれを切らして私は声をかけた。

「インナーは3階かな。4階はレストラン街だから、あとでバイキングとか、いいかもね」

「すごいよ、ここ。なんでもあるんだね。もう、感激」

 ソフィアは瞳をウルウルさせている。

 なるほど、中世レベルの世界の人間にしてみれば、イオンごときでも天国に見えるということなのだろう。

「おいら、ちょいとゲームコーナーへ」

 走り出そうとした一平をつかまえて、釘を刺す。

「だめ。あんたも服と下着くらい、ちゃんとそろえなさい。いつまでそんな乞食みたいな恰好してるつもりなの?」

「そうだな。黄鶴楼に顔を出す前に、みんなまず身だしなみを調えよう。金ならこのカードに百万ギルあるから」

 ラルクがかざして見せたのは、例のICカードである。

 へーえ。マナカみたいなもんなんだね。

 しかし、百万ギルとは太っ腹な。

 ただし、レートがどうなのか、そこが心配と言えば、心配だ。

 私は大学入学祝いのイタリア旅行で、ジプシー集団に400万リラすられた苦い経験を思い出した。

 400万リラと言えばものすごい大金に聞こえるけど、当時のレートで日本円にしてわずか4万円。

 もちろん、4万円でも貧乏学生の私には痛い出費には違いなかったが、これが400万円だったら間違いなく私は異国の地で自害していたところである。まあ、そもそも、そんな大金は、初めから持ってなかったんだけどね。

 その伝でいけば、百万ギルも1万円の価値しかないことになるが、まあ、ここはラルクを信じるしかない。

「あたしは素敵な下着と新しいレギンスかなあ。ねえ、翔子は何を買うつもり?」

 腕に腕を巻きつけ、猫みたいに身をすりつけながら、上目遣いにソフィアが私を見た。

「やっぱり、服かな。JKでもないのにセーラー服とブルマで戦うの、どうにも恥ずかしいから。多少汚れても平気な、戦闘服代わりになるのがいいね」

 その時の私の脳裏に浮かんでいたのは、アーミールックと防弾チョッキのサバゲー風装備だったのだが、ソフィアはそうは受け取らなかったようだ。

 淫蕩に目を光らせると、彼女はこうのたまったのだ。

「じゃ、一緒にお買い物しようよ! わたしがエロ魔導士にふさわしい、とびっきりセクシーな服、探してあげるからさあ!」












  

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