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#85 潜入

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 死体のなかに紛れ込むなんて…嫌すぎる。

 それはソフィアも同様らしく、ふたりげんなりして顔を見合わせていると、

「案外、いいかもな。まさかそんなところに侵入者が潜んでいようとは、よもや敵も思うまい」

 よせばいいのに、ラルクがわが意を得たりとばかりにうなずいた。

「だな。男の死体はいやだけどさ、女の死体ならまだ我慢できるかも」

 相好を崩した一平の顔面に、

「このヘンタイっ!」

 ソフィアのこぶしがめり込んだ。


  崖に刻まれた石段を降り、密林のへりの下草に身を潜めていると、馬車がまた一台、道の向こうに現れた。

「方角からいって、襲われたのはアボガドの村だな。この辺はおいらのテリトリーなんで、よく知ってるんだ」

 得意げに鼻の下を指でこする一平。

「テリトリーって、そういえば、あんた、どうやって暮らしてるのよ?」

「蜂蜜の行商のかたわら、裏稼業で人の恨みを晴らしたりとかさ」

「ジャングルで裏稼業?」

「ああ。都会も未開の地も、人間の業なんて同じだからな。不倫もあれば、嫉妬もそねみもある」

 一平が、妙に大人びた口調で言った。

 なるほど。

 そんな生活を送っていれば、歳不相応にマセてしまうはずである。

「翔子、出番だ」

 ラルクが私の肩を叩いた。

「軽いやつでいい。エロ魔法で馬車を足止めするんだ」

 近づいてくる馬車を操るのは、男の御者ひとり。

 馬はくたびれたロバみたいなのが2頭だけだった。

 MPの残量はそんなに多くない。

 が、エア・フェラチオ(範囲)くらいなら十分いける。

「まかせて」

 うなずき、アイスキャンディを3本、脳裏にイメージした。

 舌をひらめかせ、先っちょを代わるがわる舐めてやる。

 棒の側面を舐め回し、一本ずつ順番に喉の奥まで突っ込んだところで、

 ヒヒィーン!

 馬たちがそろっていななき、後足で立ち上がった。

 反動で御者台から男が転げ落ちる。

 だが、地面に転がったまま、男は己の股間を押さえるのに手いっぱいだ。

「よし。行くぞ」

 草むらの中を、ラルクが動いた。

 私、一平、ソフィアの順で、後に続く。

 馬車の荷台の後ろに回り込むと、

「開けてみろ」

 ラルクが一平に先頭を譲った。

「なんでえ、兄ちゃん、びびってんのかよ」

 へらへら笑いながら垂れ幕をめくった一平が、

「うげ」

 ふんづけられた蛙みたいな声を上げた。

 横から中を覗き込んで、私も絶句した。

 中はまるでマネキン人形の墓場だった。

 肌色の山の中から、女の手足が奇妙な角度で何本もつき出している。

 まだ殺されて間がないのか、濃厚な血の匂いが立ち込めていた。

「この中にもぐるの?」

 ソフィアが泣き声を上げた。

 自分が言い出した作戦なのに、それも忘れて心底嫌そうな顔をしている。

 私も同感だった。

 これじゃ、乱歩のパノラマ島じゃない。

「急げ」
 
 ラルクが押し殺した声で言った。

「御者が起きた。魔法が切れたらしい」




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