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#75 安全地帯へ

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 乗り心地を別にすれば、私たちの乗る便所コオロギは、密林を行くには格好の乗り物であるといえた。

 脚が速い上に、小回りが利き、多少の段差なら飛び越えて進むため、いっときたりとも止まることがないのである。

 ただ問題は、同乗者の一平だった。

 自転車の二人乗りのように、私の後ろに跨ったのはいいが、安定を求めて色々な所をつかんでくるのだ。

「こら、そこはだめ。おっぱいは触らない」

「あ、ちょっと、どこに指入れてるのよ! そこは臍の穴だってば!」

「お、おい、いきなり乳首つまむなって!」

「だって、色々出っ張ってるんだからしょうがねーだろ! どっかにつかまってないと、落っこちちゃうよ」

 などと言いながら、一平はすごくうれしそうだ。

 そんな小競り合いを続けているうちにも、便所コオロギは密林の中を疾走し、太陽が中天高く上がる頃には広々とした草原地帯に出ていた。

 道中、猛獣やヒルに襲われることもなく、私たちはジャングルを見事抜け出したのである。

「あそこで休もうぜ」

 見はるかす草原を、額に小手をかざして眺めながら、一平が言った。

 一平が見ているのは、なだらかな丘の上にある石でできた遺跡のようなものだ。

 日本で言えば、奈良の石舞台古墳に形が似ている。

「いいね。中は空洞になってるみたいだし、頑丈な屋根もある」

 さっそくソフィアがうなずいた。

「そうだな。この炎天下、徹夜で走り続けるのはさすがにこたえる。あそこで一服するのもいいだろう」

 ラルクも賛同し、私たちは密林の出口当たりの樹木に乗り物をつないで、丘を登り始めた。

 なんせ、ゾンビ騒動のおかげで、4人とも昨夜は一睡もしていないのだ。

 そろそろ体力の限界に来ていた。

「あのさ、ポラリスに行けば、下着や服、売ってるよね」

 ふうふう言いながら草原を歩きつつ、私は先を行くソフィアの背中に話しかけた。

「いい加減、お風呂にも入りたいし、着替えないと臭くてたまんないよ」

「同感。でも大丈夫。ポラリスはこの世界で最も進んだ都市だから、ちゃんとギルドもあるし、もちろんお洋服やランジェリーだって売ってるはず」

「じゃ、装備も買い換えられるかな」

 曲がりなりにもレベル34になっているのだ。

 いつまでも、防御力ゼロのセーラー服とミニひだスカートでは、先が心もとない。

「そうだな。ポラリスなら全ジョブの装備がそろってるだろうから、それは可能だろう」

 ラルクがうなずいた。

「なんならおいらが選んでやろうか? スク水みたいなのもいいし、あるいはボンテージ風も似合うかもな」

 私の身体をじろじろ眺めながら、一平が言う。

「ばーか、何ませたこと言ってんのよ。このエロガキが。小学生は勉強してればいいのよ」

「けっ、学校もないのになんで勉強しなきゃなんないんだよ」

 言い合っているうちに、遺跡についた。

 入り口を入ると、中は程よく冷えていて気持ちいい。

 しかも、地面には枯れ草が敷き詰められていて、ベッドみたいにふかふかしている。

 ごろんと横になると、たちまち眠気が襲ってきた。

 それは一平も同じだったらしく、隅のほうに寝転がって、私より先に寝息を立て始めている。

 これなら寝込みを襲われる心配もなさそうだ。

 安心して、眠ることにした。

 そうして、どのくらい眠ったのだろう。

 内容はよくわからないけど、快適な夢を見ていたようだ。

 だが、私の夢は奇妙な声で破られた。

 外が妙に騒がしい。

 何かいる。

 しかも、たくさん。

 がばっと身を起こすと、すでにラルクが目覚めていた。

「まずいな。囲まれてるぞ」

 私を見るなり、青ざめた顔でラルクが言った。
 

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