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#70 ジャングル・オブ・ザ・デッド

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 ガサガサガサッ。

 密林をかき分けて現れたのは、何を隠そう、大量のゾンビである。

 白濁して眼窩からこぼれ落ちそうになった眼球。
 
 ボロボロの皮膚。

 半開きの口からだらだらとよだれを垂らし、両腕を前に伸ばして歩いてくる。

 まさに絵にかいたようなという表現がぴったりの、お約束感満載のゾンビの大群だ。

 納得した。

 死んだあと、奴隷にするって、こういうことだったのか。

 それにしても、何? この数。

 私たち、360度取り囲まれてるじゃない!

「ほほう、生ける屍ときたか」

 ラルクが長い顎を撫でながら、感心したようにつぶやいた。

「こりゃ、腸詰帝国には、妖術師がいると見た。うーむ、こいつはひょっとして…」

「感心してる場合じゃないでしょ! みんな、小屋に避難して!」

 私は両手を広げて迫りくるゾンビの群れの前に立ちふさがった。

 ソフィアは酔っぱらってるし、一平は子供だし、ラルクときたら無能だし。

 ここは私がふんばるしかない。

 そう思ったのだ。

「おまえひとりで、大丈夫なのかよ」

 梯子にとりついた一平が振り返った。

「任せて。私には魔法があるから。巻き添えを食わないように、みんな隠れててほしいの」

「ほう、エロ魔法の出番だな。お手並み拝見と行くか」

「あんまり無理するなよ」

 一平と、ソフィアを担いだラルクが頭上の小屋の入口に消えるのを見届けると、私はゾンビの群れに向き直った。

 360度の包囲網を崩すには、範囲魔法しかない。

 しかも、なるべく強烈なやつだ。

 両手を広げ、高らかに叫んだ。

「行くよ! エクスタシー・ハリケーン!」

 とたんに、風が起こった。

 アリ人間ですら悶絶させた、魔の淫風である。

 最初使った時より、強くなっている。

 エロ魔法は、使えば使うほど、強力になるに違いない。

 が、確かに風を正面から浴びたはずなのに、ゾンビたちには何も起こらなかった。

 扇風機の風か、そよ風が当たった程度で、どいつもこいつもしれっとしている。

 相変わらず、「あー」だの「うー」だのわめきながら、のろのろと進んでくるだけだ。

 その時、ラルクが小屋の窓から首を出した。

「ああ、ひとつ言い忘れてたが、生ける屍にエロ魔法は効かないぞ。そいつら、身体中腐ってるから、神経も当然腐敗して機能してないはずだ。エクスタシーなんて、夢のまた夢。感じたくても、肝心の神経が腐ってるから、感じられないのさ」

「ええー」

 私はフリーズした。

「ちょ、ちょっと、そういう大事なことは、もっと早く言ってよね!」

 ゾンビの輪が狭まってきた。

 四方八方から手が伸びてくる。

 腕を、肩を、脚をつかまれた。

 口を開けて噛みつこうとしてるやつもいる。

 その息の臭いことと言ったら!

 あんたたち、ちゃんと毎朝、歯みがきしてるの?

 もしかして、胃袋の中、腐ってるんじゃない?

 足がもつれ、地面に押し倒された。

 なだれを打ってゾンビたちがのしかかってくる。

 最悪の集団レイプだった。

 ゴブリンにいたずらされ、トロルに犯され、スライムになぶりものにされ、今度はゾンビときた。

 私ってば、つくづくツイてない女だと思う。

 ゾンビのガサガサした手が、胸元から、セーラー服の裾から、ミニスカートの下から、がしがし入ってくる。

 それも一本や二本ではない。

 何十本という気味の悪い手が、私の素肌を撫で回しているのだ。

 そのうち、両手両足を引っ張るやつまで出てきた。

 痛い!

 肩がはずれるって!

 股関節、脱臼しちゃうって!

 あまりの痛みに気が遠くなってきた。

 ああ、こうして私、ゾンビにバラバラにされて、そのうちどっかに運ばれて、腸詰にされちゃうんだ。

 恐怖で意識が飛びそうになる。

 と、その時だった。

「てめーら! あたしの翔子になにしやがるんだあ!」

 威勢のいい雄叫びとともに、剣を振りかざしたソフィアが空から降ってきた。

 










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