絶対絶命女子!

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
28 / 32

#27

しおりを挟む
 翔ちゃんが振り切った金属バットが、襲いかかるゾンビの側頭部にヒットした。
 その神スイングの威力に、ゾンビの頭蓋がぐしゃりとひしゃげ、気味の悪い黒い汁がどろりとあふれ出す。
 だが、ゾンビはまだ動いている。
 両手を伸ばし、翔ちゃんの首をつかもうと迫ってくる。
 まっすぐに振り上げたバットを、翔ちゃんが気合とともに振り下ろした。
 脳天が割れ、ゾンビが地面にへたりこむ。
 その顔に、流伽が噴霧器でニコチン液を吹きつけた。
 そこへ、2体めが現れた。
「させるか!」
 由羅が飛び出し、高々と右足を蹴り上げた。
 顎を砕かれ、ゾンビが歩を止める。
 その顔面に、鋼鉄のナックルを装着した渾身のストレートが決まる。 
 腐っているので、ゾンビの皮膚や筋肉はやわくなっているのだろう。
 ぐしゅっと果実のつぶれるような音がして、ゾンビの鼻っ柱が折れ、顔面の中央が陥没する。
 膝をついて倒れ伏すゾンビを飛び越えて、果敢にも由羅は次の獲物へと向かっていく。
 が、残った6体のゾンビは、私たちを取り囲むようにして、包囲の輪を狭めてくる。
「由羅! 早まらないで! ひとりで飛び出さない!」
 翔ちゃんが叫んだ時である。
「まずいっす!」
 背後から天草君の悲鳴が聞こえてきた。
 線香花火の束に火をつけた天草君がガン見しているのは、古墳の穴のほうである。
「中からいっぱい出てくるっす!」
「わ」
 私は息を呑んだ。
 古墳の一枚岩の屋根の下に開いた黒い穴から、何本もの腕が突き出ている。
 まるで、テレビ画面から出てくる貞子みたいに。
「きりがないな」
 玩具同然の花火を穴に向け、吐き捨てるように、虎一郎氏がつぶやいた。
「これじゃ、警察の応援がくるまでもたないぞ」
「私に考えがある」
 大声で叫び返してきたのは、翔ちゃんだ。
 折からつかみかかってきた3人目のゾンビを、下斜めからのアッパースイングで吹っ飛ばすと、私に向かってこう言った。
「今よ! 絵麻! 来て!」
「え」
 硬直する私。
 来てって、なぜ私?
 この私に、出番があるっていうの?
 翔ちゃんは囲みを突破し、警察車両のドアに貼りついている。
 中からゾンビが出てきたので、車のドアは開いたままだ。
 ああ、車か。
 なるほど、いい考えかも。
 でも、どうして私?
 普通免許なんて、持ってないんだけど…?
「由羅、絵麻を掩護して」
 翔ちゃんの声に、
「ほいきた!」
 珍しく素直に応えた由羅が、すかさず私の手を取った。
 寄ってくるゾンビをパンチで牽制し、たくましい脚で蹴り飛ばしながら、私をひきずって由羅が走る。
 車の所までたどり着くと、翔ちゃんはなぜか座席の下にもぐりこんでいた。
「動かすのか?」
「それは無理。キーが刺さってない」
「マジか。映画なら必ずキーがついてるもんだろ?」
「これ、映画じゃなくて、リアルだから」
「じゃ、どうすんだよ」
「あった。このレバーね」
 翔ちゃんが、床の隅のレバーを引いた。
 どこかで蓋の開く音。
「OK。絵麻、出番だよ」
「え、なに?」
 きょとんとする私。
「こっちに」
 袖を引かれた。
 車体の後部に開いてるこの穴は…?



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

ブアメードの血

ハイポクリエーターキャーリー
ホラー
異色のゾンビ小説  狂気の科学者の手により、とらわれの身となった小説家志望の男、佐藤一志。 と、ありきたりの冒頭のようで、なんとその様子がなぜか大学の文化祭で上映される。  その上映会を観て兄と直感した妹、静は探偵を雇い、物語は思いもよらぬ方向へ進んでいく… ゾンビ作品ではあまり描かれることのない ゾンビウィルスの作成方法(かなり奇抜)、 世界中が同時にゾンビ化し蔓延させる手段、 ゾンビ同士が襲い合わない理由、 そして、神を出現させる禁断の方法※とは…… ※現実の世界でも実際にやろうとすれば、本当に神が出現するかも…  絶対にやってはいけません!

鹿翅島‐しかばねじま‐

寝る犬
ホラー
【アルファポリス第3回ホラー・ミステリー大賞奨励賞】 ――金曜の朝、その島は日本ではなくなった。  いつもと変わらないはずの金曜日。  穏やかな夜明けを迎えたかに見えた彼らの街は、いたる所からあがる悲鳴に満たされた。  一瞬で、音も無く半径数キロメートルの小さな島『鹿翅島‐しかばねじま‐』へ広がった「何か」は、平和に暮らしていた街の人々を生ける屍に変えて行く。  隔離された環境で、あるものは戦い、あるものは逃げ惑う。  ゾンビアンソロジー。   ※章ごとに独立した物語なので、どこからでも読めます。   ※ホラーだけでなく、コメディやアクション、ヒューマンドラマなど様々なタイプの話が混在しています。   ※各章の小見出しに、その章のタイプが表記されていますので、参考にしてください。   ※由緒正しいジョージ・A・ロメロのゾンビです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...