絶対絶命女子!

戸影絵麻

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#17

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 裏門を出ると、道路を挟んですぐ前は森である。
 その小道を10分ほど歩くと、丈の高い葦に覆われた湿地帯につく。
 それがきのう私の学習したルートだが、幸い、きょうは仲間が増えている。
 しかも、全員全身に虫よけスプレーを散布しているし、流伽の発明した武器まである。
「これを食らって死なない地球上の生物はいないと思います」
 そんなぶっそうなことを言いながら流伽が私たちの前に披露してみせたのは、焦茶色の液体の入った注射器だ。
「何なんだよ、そいつは」
 鼻の頭にしわを寄せて露骨に嫌そうな顔をする由羅に、流伽は得意げに言ったものである。
「ニコチンです。先生たちの喫煙所から煙草の吸殻もらってきて、成分を抽出してつくってみました」
 私たちはその注射器を一本ずつ、ボールペンみたいに胸ポケットにさしていて、しかも翔ちゃんは片手に野球のバットを提げている。
 なぜか理科準備室の隅で眠っていた古い金属バットである。
 由羅は採集用のプラ容器を肩ひもで右肩から提げていて、私はスマホで撮影係。
 と、われらパーティの役割分担は、ざっとこんな塩梅だ。
 幅1メートルほどしかない狭い小道を、翔ちゃん、流伽、由羅、私の順で、一列になって歩く。
 湿地帯が近いせいか、空気は湿度が異様に高くてとにかくじめじめと蒸し暑い。
 蝉の声は相変わらずで、暑苦しさ倍増って感じだ。
 小道が終わりかけたところで、
「居ました。いましたよ」
 うれしそうに言って、流伽が足を止めた。
 かがみ込んだ彼女の手元を見ると、うひゃ、なるほど、葉っぱの上にナメクジが一匹。
 目玉を支える柄の部分がぷっくりふくらんで、オレンジ色に光っている。
 きのう私が踏んだのほど大きくはないけれど、それでも体長5センチはありそうだ。
「はい、ケース、出して」
「おいおい、それ入れるのかよ」
 ピンセットの先でうごめく軟体動物に、由羅が吐きそうな顔をした。
 小道が終わると、そこからは一面、水を張った田んぼみたいな湿地帯である。
 沼ほど水量は多くないものの、ところどころ見え隠れする陸地以外は、おおむね濁った水に覆われている。
 水中には葦の仲間らしき植物が威勢よく繁茂していて、それがずっと向こうの山肌まで続いているのだった。
「ここは”蛭が野”って言ってね。昔っから貴重な水辺の植物や水生昆虫の繁殖地として有名なんです」
 楽しそうに周囲を見渡し、流伽が言った。
「モウセンゴケも生えてますし、ゲンゴロウやタガメも住んでいるんですよ」
「なんでもいいけど、あっちこっちでオレンジ色に光ってるあれはなんなんだ?」
 不機嫌そうに由羅が言う。
「おそらくこれと同じ、ロイコに寄生されたナメクジやカタツムリではないかと思われます。もう5,6匹、採取しておきましょうか」
「マジかよ。一匹で十分だろ」
「ちなみに、みなさんは触らないように注意してくださいね。皮膚に傷などがある場合、ロイコがそこから体内に侵入しかねません。侵入されたら最後、『おまえはもう死んでいる』状態になりかねませんから」
「つまんないこと言ってないで、早くしようぜ」
 由羅の気持ちはわかりすぎるほどわかる。
 誰だって、ナメクジだらけの場所に長居なんてしたくないからだ。
「さ、次は遺跡に行ってみましょうか」
 採集を終えた流伽が、ようやく腰を上げた。
 由羅の提げたプラ容器の中は、ぬめぬめした戦利品でいっぱいだ。
 うわ、マジ気持ち悪いんですけど、それ。
 陸地を見つけて、葦の間をまた一列になって進んでいった。
 生い茂る植物のせいで視界が効かないのがまた無気味だった。
 葦の間からゾンビの手でも出てきたら、と思うと気が気じゃない。
 やがて対岸が近づくと、土がむき出しの里山のふもとが見えてきた。
 防空壕の跡なのか、山肌にところどころ、洞穴が口を開いている。
 やったあ。陸だ。
 と、喜んだのも、つかの間だった。
 ぴたりと足を止めるなり、振り返りもせず、翔ちゃんが言ったのだ。
「気をつけて。洞穴の中に、何かいる」



 
 
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