絶対絶命女子!

戸影絵麻

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#7

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 前にも書いたように、私の家はコンビニだ。
 炎天下の中、汗だくになって自転車のペダルをこぎ、へとへとで家に帰りつくと、店に客の姿はなく、カウンターの向こうでバイトの天草君が何やらごそごそやっているだけだった。
 天草君は、地元Fランク私大の2年生で、鳥の巣みたいな頭をした好青年である。
「何してんの?」
 冷房の効いた店内の空気を胸いっぱいに吸い込むと、私はたずねた。
「あ、絵麻ちゃん。あのう、暇なら手伝ってもらえないっすか?」
「別に暇じゃないけど」
 嘘である。
 夕食までの時間、私には特にやることがない。
 図書室で借りてきた本を読むくらいしか。
 もちろん、夏休みの課題とかは出てるけど、それは初日にすべきものではないだろう。
「でも、いいよ。ほかならぬ五郎君の頼みだし。で、何なの?」
 天草君、フルネームは、天草五郎という。
 歴史に疎い私にもわかるやヴぁい名前なんだけど、ご両親が彼にその名をつけた背景には、きっと深い理由があるのだろうと思って、あえて突っ込まないことにしている。
 私だって、苗字でからかわれるのは好きじゃないからだ。
「見ての通り、ゴキブリホイホイ組み立ててるんっすよ」
 なるほど、カウンターの上には、紙でできたゴキたちの家が、すでに10個近く並んでいる。
「どうすんの? こんなにたくさんつくって? ゴキブリの1個師団でも出現したの?」
「いやあ、うちの店はまだなんすがね、ダチがバイトしてる店がヤバいことなってて…。なんでも、光るゴキちゃんが大量に湧いてきて、店の商品を食い荒らしてるっていうんすよ」
「光るゴキブリ? そんなの聞いたことない。ホタルの間違いじゃないの?」
「ホタルが野菜や肉、喰いますかね」
「うーん、どうだろう」
「とにかく、転ばぬ先のステッキというやつで」
 五郎君のたとえはいつも変だ。
「いざという時のために、準備だけしとこうと思って」
 まあ、ひまそうだし、手伝ってやるか。
 私は新しいパッケージを手に取った。
 正直、五郎君は手先が不器用である。
 その証拠に、できあがったほいほいは、どれも形が歪んでいる。
 これよりは、私のほうがましなものを作れそうである。
「でも、これ、みんな売り物じゃないの? 父さんに見つかって、叱られてもしらないよ」
「マスターなら、今外出中すから、大丈夫っす」
「奥さんはお昼寝の最中すから」
「そういう問題かな」
 ため息をついた時、五郎君がふと思い出したように言った。
「そういえば、絵麻ちゃん、聞いてます? あの話」

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