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#32 あずみ、自慢の美尻でヘタレ兄を尻に敷く④

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「ねえ、お兄ちゃん。今晩のことだけど」

 形のいい美尻を僕に向けて突き出し、窓から外を眺めながら、あずみが言った。

「もう一晩中、オセロは嫌だよ」

 さりげない口ぶりに、微妙に怒りのニュアンスが含まれている。

 なんとなくあずみの言いたいことはわかったけど、ここはとぼけ通すしかない。

 僕はまるで気のないふうを装って、鈍感な兄を演じてみせることにした。

「ん? じゃあ、将棋か?」

 あずみが振り向いて、鬼のような眼で僕をにらんできた。

「んもう、そういうのじゃなくって! いやなお兄ちゃん! ほんとはわかってるくせに!」

「わかってるって、何が?」

「いじわる! 女の私にそれを言わせるの?」

「いや、言わなくていいから」

 僕はひらひらと片手を振って拒絶した。

「俺、今忙しいし」

 忙しさをアピールするために、コインロッカーに入っていた佐々木の遺品を床に並べてみる。

 あのファイルに入っていた、古い新聞や雑誌の記事である。

「ひとつ、お兄ちゃんとあずみは相思相愛です」

 放っておくと、あずみが勝手にしゃべり始めた。

「ひとつ、あずみとお兄ちゃんに、血のつながりはありません」

 僕はあえて目の前に並べた資料に集中する。

 この中に、何か手掛かりがあるはずなのだ。

 究極少女隊に近づく手がかりが。

「ひとつ、その相思相愛で血のつながりのない男女が、ひとつ屋根の下で暮らしています」

 気のせいか、あずみの声が大きくなってきた。

「ひとつ、このお部屋には、ベッドが一台しかありません」

 記事そのものに価値はなさそうだ。

 こんなの、ネットで調べれば、わかりそうなことばかりだからだ。

 ならば、記事以外の何かが重要なのではないか?

 明日もう一度大猫観音商店街へ行ったとしても、また狸か狐に化かされるのがオチだろう。

 何か、何か突破口を見つけないと…。

「なのにお兄ちゃんは、まるであずみを避けるみたいに、夜なかになると決まってオセロゲームや将棋を出してきて、あずみが眠くなるまで相手をさせます。本当はそんなことしてる場合じゃないのに。青春は一回きりしかないし、恋の寿命は短いかもしれないのに。これはいったいどういうことなのでしょう?」

 あずみが高らかにそう言い切った時だった。

 僕はある重大な事実に気づいて、思わず声を上げていた。

「あ」

「『あ』じゃない!」

 とたんにあずみが飛びかかってきた。

「ちゃんと人の話を聞いてるのかあ! このポンコツめがあっ!」

 そして、車のエアクッションみたいな大質量のマシュマロ状の物体が顔に押しつけられ、僕はあっけなく呼吸を塞がれた。
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