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#22 あずみ、得意のパンチラで怪異を圧倒する④

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 大猫観音までは地下鉄で4区間ほど。

 こんな時、ここ那古野市は地下鉄網が整備されているので便利である。

 無駄に広い道路のせいで全国的に馬鹿にされることが多いけど、住んでみればそこそこ都な街なのだ。

 平日の日中だというのに地下鉄はかなり混んでいて、中は空調もろくに効かないサウナ並みの蒸し暑さだった。

 あえて死語を使わせてもらえば、ぱつんぱつんのボインちゃんであるあずみは、こういう時痴漢たちの恰好の標的となる。

 が、こうした場合、僕の心配はあずみではなく、痴漢のほうに向かざるを得なかった。

 大方予想がつくと思うけど、危険にさらされるのは間違いなく彼らの命なのだ。

 予想は当たり、目的地に着くまでに、あずみに触ろうとしたサラリーマンが5本の指をすべて反対側にへし折られて甲高い悲鳴を上げた。

「誰か、救急車! 救急車を呼んでくれえ!」

 地下鉄が停まると、真っ青な顔をしてドアからまろび出たサラリーマンの絶叫で、当然のことながらホームは一時騒然となった。

「おまえ…」

 あっけにとられる僕の肘を取り、

「天誅だよ」

 エスカレーターに向かって、さっさと歩き出すあずみ。

 地上に出ると、すぐ前が神社だった。

 駅名にもなっている大猫観音である。

 このあたりは織田信長や豊臣秀吉ゆかりの地が多い。

 ここもそうで、信長が若かりし頃、このあたりで猫又を退治したことが、この大猫観音の由来であるという。

 そんなの歴史の教科書にもウィキペディアにも載ってないからかなりの眉唾だと思うのだが、地元では人気のパワースポットのひとつだった。

 赤い鳥居を抜け、広い石段を境内に上がる。

 白砂を敷き詰めた境内には、炎天下のさなかだというのに、多くの人でにぎわっていた。

 理由のひとつは、境内を囲むようにしてひしめく露店の数々である。

 焼きとうもろこし、焼きイカ、焼きそば、チョコバナナ、かき氷、そしてタピオカと、お祭り定番の屋台がずらりと軒を連ねているのだ。

「暑いね。ちょっとタピるか」

 ふたり分タピオカを買うと、テントの下のベンチに空きを見つけて、ふたり身体をくっつけて座った。

 あずみはよせばいいのにTシャツの裾をミニスカートから引っ張り出し、団扇代わりにパタパタあおいでいる。

「あのさ。佐々木のことだけど」

 ひと息ついたところで、僕はあたりをはばかるささやき声で切り出した。

「あれ、誰にやられたんだと思う? 人間を縦に真っ二つにするなんてそれこそ人間技じゃないと思わないか?」

「だよね」

 タピオカドリンク一気に半分ほど飲み干して、あずみが言った。

「それとさ、イオンの倉庫で襲ってきたあのマネキンの群れ、あれはいったい?」

「よくわかんないけど、究極少女隊がらみだっていうのは確かだと思うよ。でも、佐々木君を殺ったのは、あの人形たちじゃない。あれはただのこけおどし。彼女たちには、そんな力はなさそうだったから」

「さっきの社長も言ってたけど、究極少女隊って、どのへんが謎なんだ? まあ、確かに見た目も変わってたが」

 ゴスロリと忍び装束を融合したような黒一色の衣裳。

 顏半分を隠す仮面。

 そして、ヒーリングミュージックから突如としてヘビメタ調に変わる曲。

 ゆらゆらから突然始まるキレのよすぎるダンス。

「ネットの受け売りだけど、メンバーは四人。四人とも、出身地、年齢、素顔ともに不明。SNSはすべて厳重な登録制になっていて、どれもファンクラブの会員しか閲覧不能。ファンクラブのサイトも同じで、一般には非公開。これでどうしてファンが集まるのか、ある意味不思議だよね」

 あずみがそこまで言った時だった。

 ふいに、境内のほうで、複数の悲鳴が上がるのが聞こえてきた。

 また?

 と言いたげに、あずみが眉を吊り上げた。

 そして、声のしたほうに目を向けた僕は、見た。

「は?」

 あまりのことに、絶句する。

 な、なんだ、あれ?

 ま、マジかよ、そんな…。

 いくらなんでも、あんなの、あり得ないって!
 
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