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#21 あずみ、得意のパンチラで怪異を圧倒する③
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5分後、ぼくとあずみは衝立の向こうのソファに座っていた。
テーブルを挟んで対面には早川社長、あのミラーグラスのアロハ男が腰かけている。
「佐々木美緒ねえ、そういえば、そんな名前だったかなあ」
男はだらしなくソファにもたれ、そのくせあずみのスカートのほうばかり注視しているようだ。
それもそのはず。
脚の長いあずみがソファに深く腰かけると、膝頭が上がってミニスカートの中がばっちり見えてしまうのだ。
「じゃあ、先月、この会社主催のオーディションがあったことは確かなんですね。究極少女隊の新メンバーを選考するために」
社長の視線に気づいたのか、太腿をぴったり閉じて、あずみが訊いた。
「ああ、それは間違いない。でも、うちはオーディション会場を設定しただけで、その後のことには一切かかわっていないんだ。選ばれた女の子は、彼女らが連れて帰ったはずだよ」
「関わってないって、究極少女隊は、ここの従業員じゃないんですか?」
「うーん、地下アイドルと芸能事務所の関係ってのはね、一般の会社の雇用契約とは違うんだよ。正社員でもパートでもアルバイトでもない。芸人なんてのもみんなそうなんだけど、彼女らはいわば個人事業主みたいなもんでさ、こっちは仕事を紹介してやってるだけ」
「じゃあ、美緒ちゃんの行方はここではわからないと?」
「だねえ。直接彼女らに訊いたほうがいいんじゃないかなあ。究極少女隊ってのはね、ちょっと変わっててさ、地下アイドルのくせに、自分たちの専用劇場持ってるんだよ。外で活動してない時は、たいていそこにいるんじゃないかな。とにかくすべてにおいて謎めいたグループだから、一部のドルオタには大人気でさ、スピリチュアル系女子からの人気も高い」
「その専用劇場ってのは、どこに?」
「駅裏に大猫通商店街って、老舗の商店街あるの、知らない? ほら、中央広場にでっかい招き猫まつった神社があってさ、バッタもんとか中古パソコンとか売ってる店が色々あって、毎年夏になるとコスプレサミットやってるとこ。まあ、ローカルな秋葉原みたいなもんなんだけど」
「知ってます。大猫商店街なら、何度か行ったことがあります。でも、そんな劇場は、記憶にありません」
あずみが小首をかしげ、同意を求めるように僕を見た。
「昔の演芸場のことじゃないかな。それを買い取って、アイドルの活動拠点にしたのかもしれない」
僕が助け舟を出すと、男がうんうんとうなずいた。
「そうそれ。最近は、落語も漫才も流行んなくてね。去年ぐらいからじゃないかな。究極少女隊の劇場に変わったのは」
「わかりました。じゃ、そっちを当たってみます」
あずみが立ち上がろうとした時だった。
男があずみの右手を取って、ぐっと自分のほうへと引き寄せた。
「ねえ、あずみちゃんだったっけ? 話戻すようだけど、本気でうちと専属契約しない? 君なら社運を賭けて売り出すよ。キミは、ご当地どころか、グラドルとして全国区も十分に狙える逸材だ。お願い、真剣に考えてくれないかな」
「けっこうです」
あずみは、軽く手を振り払っただけだった。
なのに男は軽々と宙を飛び、後ろの壁に背中から音を立ててぶつかった。
「私、地球防衛で忙しいんで。それに、私の裸は、お兄ちゃんだけに見てもらえばいいんです」
ずるずると壁から床に崩れ落ちる男を眺めながら、冷ややかな口調であずみが言った。
テーブルを挟んで対面には早川社長、あのミラーグラスのアロハ男が腰かけている。
「佐々木美緒ねえ、そういえば、そんな名前だったかなあ」
男はだらしなくソファにもたれ、そのくせあずみのスカートのほうばかり注視しているようだ。
それもそのはず。
脚の長いあずみがソファに深く腰かけると、膝頭が上がってミニスカートの中がばっちり見えてしまうのだ。
「じゃあ、先月、この会社主催のオーディションがあったことは確かなんですね。究極少女隊の新メンバーを選考するために」
社長の視線に気づいたのか、太腿をぴったり閉じて、あずみが訊いた。
「ああ、それは間違いない。でも、うちはオーディション会場を設定しただけで、その後のことには一切かかわっていないんだ。選ばれた女の子は、彼女らが連れて帰ったはずだよ」
「関わってないって、究極少女隊は、ここの従業員じゃないんですか?」
「うーん、地下アイドルと芸能事務所の関係ってのはね、一般の会社の雇用契約とは違うんだよ。正社員でもパートでもアルバイトでもない。芸人なんてのもみんなそうなんだけど、彼女らはいわば個人事業主みたいなもんでさ、こっちは仕事を紹介してやってるだけ」
「じゃあ、美緒ちゃんの行方はここではわからないと?」
「だねえ。直接彼女らに訊いたほうがいいんじゃないかなあ。究極少女隊ってのはね、ちょっと変わっててさ、地下アイドルのくせに、自分たちの専用劇場持ってるんだよ。外で活動してない時は、たいていそこにいるんじゃないかな。とにかくすべてにおいて謎めいたグループだから、一部のドルオタには大人気でさ、スピリチュアル系女子からの人気も高い」
「その専用劇場ってのは、どこに?」
「駅裏に大猫通商店街って、老舗の商店街あるの、知らない? ほら、中央広場にでっかい招き猫まつった神社があってさ、バッタもんとか中古パソコンとか売ってる店が色々あって、毎年夏になるとコスプレサミットやってるとこ。まあ、ローカルな秋葉原みたいなもんなんだけど」
「知ってます。大猫商店街なら、何度か行ったことがあります。でも、そんな劇場は、記憶にありません」
あずみが小首をかしげ、同意を求めるように僕を見た。
「昔の演芸場のことじゃないかな。それを買い取って、アイドルの活動拠点にしたのかもしれない」
僕が助け舟を出すと、男がうんうんとうなずいた。
「そうそれ。最近は、落語も漫才も流行んなくてね。去年ぐらいからじゃないかな。究極少女隊の劇場に変わったのは」
「わかりました。じゃ、そっちを当たってみます」
あずみが立ち上がろうとした時だった。
男があずみの右手を取って、ぐっと自分のほうへと引き寄せた。
「ねえ、あずみちゃんだったっけ? 話戻すようだけど、本気でうちと専属契約しない? 君なら社運を賭けて売り出すよ。キミは、ご当地どころか、グラドルとして全国区も十分に狙える逸材だ。お願い、真剣に考えてくれないかな」
「けっこうです」
あずみは、軽く手を振り払っただけだった。
なのに男は軽々と宙を飛び、後ろの壁に背中から音を立ててぶつかった。
「私、地球防衛で忙しいんで。それに、私の裸は、お兄ちゃんだけに見てもらえばいいんです」
ずるずると壁から床に崩れ落ちる男を眺めながら、冷ややかな口調であずみが言った。
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