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#9 あずみ、えっちな下着を購入する⑥
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「なに?」
あずみが今出てきたばかりの自動ドアのほうを振り向いた。
ガラス越しに人影が見えた。
1階駐車場の通路のあたりである。
嫌な予感がした。
思わず、ポケットの中の封筒を握りしめていた。
「行ってみよう」
僕が言うより先に、あずみが走り出していた。
コンパスの長いあずみに負けまいと、僕も後を追った。
駐車場に固まっているのは、大きなワゴン車から降りて来たばかりの家族連れだった。
母親らしき女性が、小学校低学年くらいの少女の眼を両手で覆い、車と車の間を凝視している。
「け、警察を」
女性の脇で、夫と思われる長身の男性がスマホをズボンのポケットから取り出した。
「どうしたんですか?」
駆け寄ったあずみが、棒を呑んだように立ちすくむのがわかった。
「ひどい・・・」
ひと言つぶやいて、握ったこぶしを口に当てた。
「お兄ちゃん、この人、さっきの・・・」
遅れてあずみの横から顔を出した僕は、その瞬間、うっと息を呑んだ。
「な、なんだ、これは?」
止まったワゴン車の車止めの後ろ、次の列との隙間に人が倒れている。
ひと目で事切れているとわかった。
なぜって、身体が半分に引き裂かれているからだ。
股から首にかけて衣服ごと真っ二つに裂けた人体が、血と内臓を噴出させて転がっている。
血にまみれた顔は、間違いなく佐々木のものだった。
「こんな・・・ありえない」
茫然と、あずみがつぶやいた。
「どうやったら、こんなひどい殺し方ができるっていうの?」
「やっぱり、これ、殺人ですよね?」
あずみに向かって、顔面蒼白の若い母親が話しかけた。
「うちの車が轢いたんじゃないですよね?」
「当り前だ」
怒ったように言ったのは、旦那のほうだった。
「車を止める時には、なんの衝撃もなかったんだ。降りてみたら、もうここにこの死体が・・・」
膝ががくがく震えるのを懸命に抑えながら、僕は佐々木の死体の上に身を乗り出した。
切り裂かれた服の下からのぞく傷口は、鋭利な刃物で断ち割ったかのように綺麗だった。
凶器はなんだろう?
日本刀?
まさか、日本刀で股から逆さに斬り上げたとでもいうのだろうか?
「佐々木、しっかりしろ!」
呼びかけてみても、無駄だった。
割れた眼鏡の下の佐々木の眼は、死んだ魚のそれのように生気がない。
半ば開いた唇から、だらりと舌をたらしている。
ほんの数分前まで生きていたのに・・・。
正直、ショックだった。
あそこで、去っていく佐々木を無理にでも止めるべきだったのだ。
まさかこんなことになるなんて・・・。
僕は奥歯を噛みしめた。
いくら死亡フラグを立てたからって、おまえ、ちょっと死ぬの、早過ぎだろ?
「あのう、この人とお知り合いなんですか・・・?」
おそるおそるといった感じで、女性のほうが訊いてきた。
「なら、話は早い。もうすぐ警察が来るから、一緒に・・・」
旦那が後を引き取った。
「あ、いえ」
あずみが首を振る。
「警察のお相手はお任せします。私たち、ちょっと犯人を探さなきゃならないので」
あずみが今出てきたばかりの自動ドアのほうを振り向いた。
ガラス越しに人影が見えた。
1階駐車場の通路のあたりである。
嫌な予感がした。
思わず、ポケットの中の封筒を握りしめていた。
「行ってみよう」
僕が言うより先に、あずみが走り出していた。
コンパスの長いあずみに負けまいと、僕も後を追った。
駐車場に固まっているのは、大きなワゴン車から降りて来たばかりの家族連れだった。
母親らしき女性が、小学校低学年くらいの少女の眼を両手で覆い、車と車の間を凝視している。
「け、警察を」
女性の脇で、夫と思われる長身の男性がスマホをズボンのポケットから取り出した。
「どうしたんですか?」
駆け寄ったあずみが、棒を呑んだように立ちすくむのがわかった。
「ひどい・・・」
ひと言つぶやいて、握ったこぶしを口に当てた。
「お兄ちゃん、この人、さっきの・・・」
遅れてあずみの横から顔を出した僕は、その瞬間、うっと息を呑んだ。
「な、なんだ、これは?」
止まったワゴン車の車止めの後ろ、次の列との隙間に人が倒れている。
ひと目で事切れているとわかった。
なぜって、身体が半分に引き裂かれているからだ。
股から首にかけて衣服ごと真っ二つに裂けた人体が、血と内臓を噴出させて転がっている。
血にまみれた顔は、間違いなく佐々木のものだった。
「こんな・・・ありえない」
茫然と、あずみがつぶやいた。
「どうやったら、こんなひどい殺し方ができるっていうの?」
「やっぱり、これ、殺人ですよね?」
あずみに向かって、顔面蒼白の若い母親が話しかけた。
「うちの車が轢いたんじゃないですよね?」
「当り前だ」
怒ったように言ったのは、旦那のほうだった。
「車を止める時には、なんの衝撃もなかったんだ。降りてみたら、もうここにこの死体が・・・」
膝ががくがく震えるのを懸命に抑えながら、僕は佐々木の死体の上に身を乗り出した。
切り裂かれた服の下からのぞく傷口は、鋭利な刃物で断ち割ったかのように綺麗だった。
凶器はなんだろう?
日本刀?
まさか、日本刀で股から逆さに斬り上げたとでもいうのだろうか?
「佐々木、しっかりしろ!」
呼びかけてみても、無駄だった。
割れた眼鏡の下の佐々木の眼は、死んだ魚のそれのように生気がない。
半ば開いた唇から、だらりと舌をたらしている。
ほんの数分前まで生きていたのに・・・。
正直、ショックだった。
あそこで、去っていく佐々木を無理にでも止めるべきだったのだ。
まさかこんなことになるなんて・・・。
僕は奥歯を噛みしめた。
いくら死亡フラグを立てたからって、おまえ、ちょっと死ぬの、早過ぎだろ?
「あのう、この人とお知り合いなんですか・・・?」
おそるおそるといった感じで、女性のほうが訊いてきた。
「なら、話は早い。もうすぐ警察が来るから、一緒に・・・」
旦那が後を引き取った。
「あ、いえ」
あずみが首を振る。
「警察のお相手はお任せします。私たち、ちょっと犯人を探さなきゃならないので」
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