128 / 249
第6章 アンアン魔界行
#32 あへあへアンアン④
しおりを挟む
「なんだ? 何する気だ?」
ぬりかべの中に塗り込められたアンアンに近づくと、その抗議をガン無視して、怪老人が傷口に手を伸ばす。
「こうするんじゃよ」
言うなり、引きちぎったぬっぺっぽうのほっぺの肉を、アンアンの鳩尾に開いた穴にぐりぐり詰め込んだ。
「ううっ」
とたんにアンアンの身体が小刻みに震え出す。
「そ、そんな、ダメ」
たちまち目玉が裏返り、白目を剥くとがっくり肩を落としたまま、電池が切れたように動かなくなった。
「おい、なんなんだよ、それ? 毒なんじゃないのか?」
飛び起きてアンアンの許へ駆け寄ろうとした僕を、
「待って」
阿修羅が襟首をつかんで引き留めた。
「民間療法なんてこんなものよ。ぬっぺっぽうの肉っていうのはね、聖なるパンというより、アン〇ンマンの顔みたいなものなの。細胞の90%がどんな臓器にも変化できる幹細胞だから、傷の修復にはいちばんなのよ」
「でも、アンアン、気絶しちゃったみたいだぞ」
「きっと、気持ちよかったんだと思う。あの子、ああ見えて経験浅いから、ひょっとしてイッちゃったのかも」
おいおい、いったい何の話してるんだよ。
「よしよし、どうやらうまく適合したようじゃ。では、ぬりかべ、あとは頼んだぞよ」
ぬらりひょんの言葉に、四角い壁がかすかにうなずいたようだった。
その両サイドにコテを持った短い手が現れると、気を失ったアンアンの上に漆喰のようなものを塗り始めた。
みるみるうちに壁に塗り込められ、見えなくなるアンアン。
「さあ、ここまでくれば、もう大丈夫じゃ。明日の午後には姫の身体はすっかり元通りになっているはず。というより、ぬりかべのメンテナンスで、更にパワーアップするじゃろうて」
あれより強くなるのも少し困りものだと一瞬思ったけど、ようやく僕もほっとした。
「ここは王女が目覚めるまで立ち入り禁止とする。さ、皆の衆、外へ出ていてくれ」
ぬらりひょんに道場を追い出された僕たちは、お互い顔を見合わせた。
「どうする?」
途方に暮れる僕に、あっけらかんとした口調で阿修羅が言った。
「明日また来ることにして、まずは宿を探さなきゃね。そろそろ暗くなってきたし、餓鬼の大群にでも襲われると厄介だわ」
そうだった。
僕は身震いした。
タクシーの運転手の言葉が耳の奥によみがえったのだ。
夜になるとおびただしい数の餓鬼どもがどこからともなく現れ、魔界の住人を襲って殺すこともあるという。
「おなかもすいちゃいましたしね。腹が減っては、いくさになりません」
アンドロイドらしからぬセリフを、玉が吐く。
そんな僕らの周りには夜のとばりが忍び寄り、町のあちこちではけばけばしいネオンサインが瞬き始めていた。
ぬりかべの中に塗り込められたアンアンに近づくと、その抗議をガン無視して、怪老人が傷口に手を伸ばす。
「こうするんじゃよ」
言うなり、引きちぎったぬっぺっぽうのほっぺの肉を、アンアンの鳩尾に開いた穴にぐりぐり詰め込んだ。
「ううっ」
とたんにアンアンの身体が小刻みに震え出す。
「そ、そんな、ダメ」
たちまち目玉が裏返り、白目を剥くとがっくり肩を落としたまま、電池が切れたように動かなくなった。
「おい、なんなんだよ、それ? 毒なんじゃないのか?」
飛び起きてアンアンの許へ駆け寄ろうとした僕を、
「待って」
阿修羅が襟首をつかんで引き留めた。
「民間療法なんてこんなものよ。ぬっぺっぽうの肉っていうのはね、聖なるパンというより、アン〇ンマンの顔みたいなものなの。細胞の90%がどんな臓器にも変化できる幹細胞だから、傷の修復にはいちばんなのよ」
「でも、アンアン、気絶しちゃったみたいだぞ」
「きっと、気持ちよかったんだと思う。あの子、ああ見えて経験浅いから、ひょっとしてイッちゃったのかも」
おいおい、いったい何の話してるんだよ。
「よしよし、どうやらうまく適合したようじゃ。では、ぬりかべ、あとは頼んだぞよ」
ぬらりひょんの言葉に、四角い壁がかすかにうなずいたようだった。
その両サイドにコテを持った短い手が現れると、気を失ったアンアンの上に漆喰のようなものを塗り始めた。
みるみるうちに壁に塗り込められ、見えなくなるアンアン。
「さあ、ここまでくれば、もう大丈夫じゃ。明日の午後には姫の身体はすっかり元通りになっているはず。というより、ぬりかべのメンテナンスで、更にパワーアップするじゃろうて」
あれより強くなるのも少し困りものだと一瞬思ったけど、ようやく僕もほっとした。
「ここは王女が目覚めるまで立ち入り禁止とする。さ、皆の衆、外へ出ていてくれ」
ぬらりひょんに道場を追い出された僕たちは、お互い顔を見合わせた。
「どうする?」
途方に暮れる僕に、あっけらかんとした口調で阿修羅が言った。
「明日また来ることにして、まずは宿を探さなきゃね。そろそろ暗くなってきたし、餓鬼の大群にでも襲われると厄介だわ」
そうだった。
僕は身震いした。
タクシーの運転手の言葉が耳の奥によみがえったのだ。
夜になるとおびただしい数の餓鬼どもがどこからともなく現れ、魔界の住人を襲って殺すこともあるという。
「おなかもすいちゃいましたしね。腹が減っては、いくさになりません」
アンドロイドらしからぬセリフを、玉が吐く。
そんな僕らの周りには夜のとばりが忍び寄り、町のあちこちではけばけばしいネオンサインが瞬き始めていた。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
怪異と共にその物件は関係者を追ってくる。
物件は周囲の人間たちを巻き込み始め
街を揺らし、やがて大きな事件に発展していく・・・
事態を解決すべく「祭師」の一族が怨霊悪魔と対決することになる。
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・投票・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる