夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
80 / 249
第4章 海底原人

#15 アンアンと海底原人②

しおりを挟む
 水族館主催の抜き打ちアトラクション。
 そう勘違いしたのだろうか。
 犠牲者が出ているにも関わらず、客たちの大半が残っていた。
 プールサイドにひしめき合い、誰もがスマホ片手に動画撮影だ。
 この動画が拡散すれば、セクシーコスのアンアンは一気に人気爆発に違いない。
 だが、もしここでアンアンが敗北を喫してしまったら…。
 あの半魚人に蹂躙されるアンアンのあられもない姿が、全世界に広まることになる。
 そう思うと居ても立ってもいられなかった。
 なのに、阿修羅ときたらサングラスまでかけ、あくまで高みの見物を決め込もうとしている。
 この距離では、僕の”時魔法”もアンアンには作用しないし、一ノ瀬なんかが役に立つはずないから、これはまったくもって大問題だった。
 そうこうするうちに、衆人環視の中、巨大美少女VS巨大半魚人のバトルの幕はついに切って落とされたのだ。
「おほほほほ、愛しのアンアン、お待たせしたねえ。さあ、婚約パーティーの始まりだよーん!」
 妙にひょうきんな口調で、ダゴンが言った。
 なんかしゃべり方がオカマっぽいのは、僕の気のせいだろうか。
「誰がおまえみたいな魚臭いやつと婚約なんてするもんか! 鏡を見てからモノを言え!」
 アンアンは相変わらず口が悪い。
「まあまあ、魔界の王女様ってば、ガチでツンデレなんだねえ。本当はあたしのこと、好きで好きでたまらないくせにさ。たっぷり可愛がってあげるから、ほうら、もっと近くにおいでよお」
「うるさい! このタコ!」
 アンアンが飛んだ。
 飛びながら右腕をスイングバック。
 あれはアンアンパンチの構えだろうか。
 それとも必殺ディメンション・クラッシュで、一気にカタをつけるつもりなのか。
 だが、アンアンの鉄拳がダゴンに迫った瞬間、まったく予想外の事態が発生した。
 ダゴンが口をすぼめたかと思うと、ぴゅっと黒い液体をアンアンに吐きかけたのだ。
「うわ」
 目つぶしをくらって、針路を狂わすアンアン。
 渾身のストレートが空しく空を切ったとたん、ダゴンが動いた。
 右腕を一閃させ、二の腕に生えた剃刀のように鋭いヒレでアンアンに襲いかかったのだ。
 赤いものが飛んだ。
 血?
 と思ったら、そうではなかった。
 それはアンアンの紐水着の一部だった。
 その証拠に、一回転して着地したアンアンは、はだけた胸を両腕で隠している。
 だが、その努力も空しく、股間を覆う部分でも水着がずれ始め、大事なところが見えそうになっていた。
 ひも状水着の最大の欠点。
 それは一か所切断されると、簡単に分解してしまうという点にある。
「くそっ」
 焦ったアンアンが、右手で胸を覆ったまま、急いで股間に左手を伸ばす。
 僕は絶望的な気分に陥った。
 アンアンは今や、”貝殻の上のビーナス”状態である。
 これじゃ、とても戦うどころではないだろう。
「阿修羅、頼む、助けてやってくれ」
 僕はデッキチェアに寝そべる阿修羅の足元にひざまずいて、土下座した。
 だが、この可愛い顔した破壊神は、ファッション雑誌で顔を隠してすやすや寝息を立てている。
「おい、お願いだ。起きてくれ」
 阿修羅の足首に手を伸ばしかけた時である。
「うわああああああっ!」
 後ろですさまじい悲鳴が爆発した。
 僕は背筋に氷の塊を当てられたように、ぎくりとなった。
 その悲鳴が、まぎれもなくアンアンのものだったからである。




 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 怪異と共にその物件は関係者を追ってくる。 物件は周囲の人間たちを巻き込み始め 街を揺らし、やがて大きな事件に発展していく・・・ 事態を解決すべく「祭師」の一族が怨霊悪魔と対決することになる。 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・投票・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

処理中です...