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第3章 阿修羅王
#4 アンアン、警戒する
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「俺さ、きのう、変なもん見ちゃったんだよね」
そう一ノ瀬が話しかけてきたのは、翌週の月曜日の昼休み、食堂でのことである。
そばには当然のようにアンアンが座っていて、二人前のスタミナ定食に舌つづみを打っているところだった。
「なんだよ? 変なもんって」
トレイをテーブルの上に置き、一ノ瀬はさりげなくアンアンの隣に腰かける。
アンアンはそんなクラスメートをガン無視して、ただ黙々と定食を平らげている。
どうせ大した話じゃないんだろ。
そう思いながら、一ノ瀬のバッタに似た縦に長い顔を、僕はぼんやりと眺めた。
「うちの近くにスーパーがあるんだけどさあ。母ちゃんに頼まれて、食材の買い出しに行ったわけよ」
素うどんをすすりながら、一ノ瀬が話し始めた。
時折ちらちら横を見るのは、テーブルの上にせり出したアンアンの巨乳が気になってしかたないからだろう。
「それがどうしたんだ? 買い物中の若妻のパンチラでも見えたってか?」
適当に突っ込みを入れてやると、
「なんだよその若妻って。人を盗撮魔みたいに言うなよ」
一ノ瀬がうどんを口から垂らしたまま、むっとした表情で抗議してきた。
だっておまえの紹介してくれた動画サイト、人妻専用だったじゃないか。
と、一瞬思ったけど、アンアンの手前、動画サイトの話題は禁句である。
「冗談だよ。で、なんなんだ?」
「俺が目撃したのは、もっとずっとヤバイやつ。スーパーに精肉コーナーってあるじゃん。そこですき焼き用の牛肉買おうとしたらさあ、なんか知らないおばさんが、すごい勢いで生肉食ってやがるの」
「はあ?」
訳が分からない。
なんでスーパーの店頭で、生の肉を食う?
「そんなバカな」
僕が、思わず鼻で笑った時である。
「気になるな」
ふいにアンアンが定食から顔を上げ、一ノ瀬のバッタ顔を見た。
「もっと詳しく聞かせてくれないか。その話」
「え? い。いいけど」
アンアンに興味を示されたのがよほどうれしいらしく、一ノ瀬の鼻の下が5センチほど伸びた。
そのアンアンだが、いつになく真剣な表情をしているようだ。
少なくとも、クラスの男連中を虫けらくらいにしか思っていないアンアンには珍しい反応である。
そのアンアンの横顔を見ているうちに、いやあな予感がしてきた。
ついに来たのか。
3人目が。
天啓のように、僕は突然、そう悟ったのである。
そう一ノ瀬が話しかけてきたのは、翌週の月曜日の昼休み、食堂でのことである。
そばには当然のようにアンアンが座っていて、二人前のスタミナ定食に舌つづみを打っているところだった。
「なんだよ? 変なもんって」
トレイをテーブルの上に置き、一ノ瀬はさりげなくアンアンの隣に腰かける。
アンアンはそんなクラスメートをガン無視して、ただ黙々と定食を平らげている。
どうせ大した話じゃないんだろ。
そう思いながら、一ノ瀬のバッタに似た縦に長い顔を、僕はぼんやりと眺めた。
「うちの近くにスーパーがあるんだけどさあ。母ちゃんに頼まれて、食材の買い出しに行ったわけよ」
素うどんをすすりながら、一ノ瀬が話し始めた。
時折ちらちら横を見るのは、テーブルの上にせり出したアンアンの巨乳が気になってしかたないからだろう。
「それがどうしたんだ? 買い物中の若妻のパンチラでも見えたってか?」
適当に突っ込みを入れてやると、
「なんだよその若妻って。人を盗撮魔みたいに言うなよ」
一ノ瀬がうどんを口から垂らしたまま、むっとした表情で抗議してきた。
だっておまえの紹介してくれた動画サイト、人妻専用だったじゃないか。
と、一瞬思ったけど、アンアンの手前、動画サイトの話題は禁句である。
「冗談だよ。で、なんなんだ?」
「俺が目撃したのは、もっとずっとヤバイやつ。スーパーに精肉コーナーってあるじゃん。そこですき焼き用の牛肉買おうとしたらさあ、なんか知らないおばさんが、すごい勢いで生肉食ってやがるの」
「はあ?」
訳が分からない。
なんでスーパーの店頭で、生の肉を食う?
「そんなバカな」
僕が、思わず鼻で笑った時である。
「気になるな」
ふいにアンアンが定食から顔を上げ、一ノ瀬のバッタ顔を見た。
「もっと詳しく聞かせてくれないか。その話」
「え? い。いいけど」
アンアンに興味を示されたのがよほどうれしいらしく、一ノ瀬の鼻の下が5センチほど伸びた。
そのアンアンだが、いつになく真剣な表情をしているようだ。
少なくとも、クラスの男連中を虫けらくらいにしか思っていないアンアンには珍しい反応である。
そのアンアンの横顔を見ているうちに、いやあな予感がしてきた。
ついに来たのか。
3人目が。
天啓のように、僕は突然、そう悟ったのである。
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