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第2章 蠅の王
#6 アンアンと二人目の貴公子②
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目に焼きついた一ノ瀬の顔。
恐怖にひきつったその顔に向けて、念を送る。
と、胃を引き絞られるような痛みとともに、世界が反転した。
目を開ける。
へっぴり腰で逃げようとしている一ノ瀬が見えた。
やった!
心の中で思わずガッツポーズ。
成功だ。
僕は5秒前の時間軸に戻ったのだ。
逃げ遅れて立ちすくむ一ノ瀬の前で、赤い色彩が動いた。
アンアンだ。
真っ赤なビキニのアンアンが、一ノ瀬と怪物の間に立ちはだかっている。
「くらええっ!」
アンアンが右腕を大きくバックスウィング。
巨乳が揺れ、なめらかな腹が反り返る。
「必殺、ディメンション・クラッシュ!」
アンアンの右腕が伸びた。
炎を噴き出し、怪物の顔面に向かって突進していく。
ずぼっ。
鈍い音。
こぶしが怪物の醜い頭にめりこんだのだ。
ぎゅわあああん!
奇妙な悲鳴を上げて、蛆の怪物がのけぞった。
そのまま後ろに倒れたかと思うと、その廃語で空間が割れた。
ちょうど、鏡にぶつかったようなものだった。
キラキラした破片が飛び散り、風が起こった。
空中にできた割れ目に向かって、すごい勢いで周囲の空気が吸い込まれていく。
ずぼぼぼぼっ。
怪物のチューブ状の身体が、穴にはまり込んだ。
風がやんだ代わりに、今度はそのぶよぶよした体が、虚空に消えていく。
「ざまーみろ」
尻尾だけを空中から出してあがいている化け物蛆を見上げて、アンアンが笑った。
「ウジの分際でこのあたしにプロポーズなど、1000年早いわ!」
ぷしゅ。
間の抜けた音を残し、空間がふさがった。
これが表面張力というやつか。
プールサイドに、静寂が戻ってきた。
「な、なんだったんだ?」
へたりこんだ一ノ瀬が、茫然とした口調でうめくのが聞こえてきた。
「きゃあーっ!」
ひと呼吸遅れて、女子たちの悲鳴。
無理もない。
プールサイドには、唯一の犠牲者、あのゴリラ、もとい、体育教師の無残な首なし死体がひとつ、転がっているのである。
「誰か、救急車を!」
たちまち周囲が騒然となった。
「元気、よくやった」
腰をかがめ、巨乳を揺らしてアンアンが手を差し伸べてきた。
「よくやった、じゃないよ」
僕は憮然として言い返した。
「犠牲者が出た。アンアン、おまえのせいだ」
アンアンが困ったような表情になる。
「ああ」
死体のほうを振り返って、小声でつぶやいた。
「すまん。あたしとしたことが」
「いいか? 俺たち人間は虫けらじゃないんだ。そこのところを、よく考えろ」
「うむ」
珍しく、アンアンが黙り込んだ。
「おまえの色恋沙汰に巻き込まれて無関係の人間が死ぬなんて、いくらなんでもひどすぎる」
「怒ったのか?」
アンアンの顔に悲しげな表情が浮かんだ。
「ああ」
僕は吐き捨てるように言った。
「今度やったら、絶交だ」
恐怖にひきつったその顔に向けて、念を送る。
と、胃を引き絞られるような痛みとともに、世界が反転した。
目を開ける。
へっぴり腰で逃げようとしている一ノ瀬が見えた。
やった!
心の中で思わずガッツポーズ。
成功だ。
僕は5秒前の時間軸に戻ったのだ。
逃げ遅れて立ちすくむ一ノ瀬の前で、赤い色彩が動いた。
アンアンだ。
真っ赤なビキニのアンアンが、一ノ瀬と怪物の間に立ちはだかっている。
「くらええっ!」
アンアンが右腕を大きくバックスウィング。
巨乳が揺れ、なめらかな腹が反り返る。
「必殺、ディメンション・クラッシュ!」
アンアンの右腕が伸びた。
炎を噴き出し、怪物の顔面に向かって突進していく。
ずぼっ。
鈍い音。
こぶしが怪物の醜い頭にめりこんだのだ。
ぎゅわあああん!
奇妙な悲鳴を上げて、蛆の怪物がのけぞった。
そのまま後ろに倒れたかと思うと、その廃語で空間が割れた。
ちょうど、鏡にぶつかったようなものだった。
キラキラした破片が飛び散り、風が起こった。
空中にできた割れ目に向かって、すごい勢いで周囲の空気が吸い込まれていく。
ずぼぼぼぼっ。
怪物のチューブ状の身体が、穴にはまり込んだ。
風がやんだ代わりに、今度はそのぶよぶよした体が、虚空に消えていく。
「ざまーみろ」
尻尾だけを空中から出してあがいている化け物蛆を見上げて、アンアンが笑った。
「ウジの分際でこのあたしにプロポーズなど、1000年早いわ!」
ぷしゅ。
間の抜けた音を残し、空間がふさがった。
これが表面張力というやつか。
プールサイドに、静寂が戻ってきた。
「な、なんだったんだ?」
へたりこんだ一ノ瀬が、茫然とした口調でうめくのが聞こえてきた。
「きゃあーっ!」
ひと呼吸遅れて、女子たちの悲鳴。
無理もない。
プールサイドには、唯一の犠牲者、あのゴリラ、もとい、体育教師の無残な首なし死体がひとつ、転がっているのである。
「誰か、救急車を!」
たちまち周囲が騒然となった。
「元気、よくやった」
腰をかがめ、巨乳を揺らしてアンアンが手を差し伸べてきた。
「よくやった、じゃないよ」
僕は憮然として言い返した。
「犠牲者が出た。アンアン、おまえのせいだ」
アンアンが困ったような表情になる。
「ああ」
死体のほうを振り返って、小声でつぶやいた。
「すまん。あたしとしたことが」
「いいか? 俺たち人間は虫けらじゃないんだ。そこのところを、よく考えろ」
「うむ」
珍しく、アンアンが黙り込んだ。
「おまえの色恋沙汰に巻き込まれて無関係の人間が死ぬなんて、いくらなんでもひどすぎる」
「怒ったのか?」
アンアンの顔に悲しげな表情が浮かんだ。
「ああ」
僕は吐き捨てるように言った。
「今度やったら、絶交だ」
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