夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#133 アンアン、無間地獄に堕ちる⑨

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 リングに近づくにつれ、周囲の風景が変わり始めた。
 盛大な歓声とともに、蜃気楼のように別の景色が立ち上がってくる。
「わわ、どうなってんだ、これ?」
 まわりに視線をさまよわせ、一ノ瀬がうめいた。
 皿のように眼を見開き、口元をぴくぴくひくつかせている。
 むりもない。
 気がつくと、僕らは広大な円形競技場の端に立っていた。
 すり鉢状の観客席の中央にあのリングがあり、僕らの足元からそのリングに向かって、長い道が伸びている。
 観客席を埋めつくしているのは、種々雑多の魔物たちである。
 鬼もいれば、妖怪、魔族の類いもいる。
 まるで魔界と地獄界の住人どもが、全部集まってきたような、そんな壮大な眺めだった。
 リングの向こう、僕らの正面の一段高くなったところに、豪奢な玉座のようなものがある。
 そこに、黒光りする肌の、異形の巨人が座っていた。
 頭に湾曲した2本の角を生やした、見るからに悪魔の王様といった感じの人物?だ。
「あれが、暗黒大皇帝?」
 僕が訊くと、
「そうでちゅ。あたちのパパでちゅ。どう? かっこいいでちょ?」
 自慢げに、酒呑童女が鼻をふくらませた。
「仮面をかぶってるからはっきりとは言えないが…あれは、もしや」
 遠くのその威容を見つめながら、アンアンがつぶやいた。
「だね。私もそう思う」
 阿修羅もうなずいてるけど、何のことだか、僕にはさっぱりわからない。
 長い花道を渡り切ってリングの端にたどりつくと、歓声がよりいっそう大きくなった。
「選手以外は、ここに座るでちゅ」
 童女が指し示したのは、リングのコーナーに設けられた1列のシートだ。
「セコンドはリング内に入らないこと。ルールは、無制限一本勝負。どんな手を使ってもかまいましぇん。とにかく、相手を皆殺しにしたほうが勝ちでちゅ」
 アンアンと阿修羅以外の4人が席に着くと、童女が言った。
 対角線上のコーナーでは、2匹の鬼が準備運動の最中である。
 体格からして、赤いほうがオスで、青いほうがメスらしい。
 2匹が身体に装着しているのは、棘のついた鋼鉄のプロテクターだ。
 赤鬼は、右手にこん棒、左手に四角い盾。
 青鬼は、右手に鎖のついた鉄球、左手に円形の盾を持っている。
「仕方がない。やるか」
 阿修羅にうなずいてみせ、まずアンアンがリングにあがった。
 そのアンアンを、2匹の鬼が、シャーッと牙を剥いて威嚇する。
「阿修羅さま、安心してください。いざとなったら、玉が掩護しますから」
 リングに向かう阿修羅に向かって、生真面目な口調で玉が声をかけた。
「だあめ」
 振り向いて、阿修羅が苦笑した。
「機関銃も、核ミサイルも禁止。だって玉、これは試合なんだよ。正々堂々と戦わなきゃ」



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