夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
230 / 249
第6章 アンアン魔界行

#131 アンアン、無間地獄に堕ちる⑦

しおりを挟む
 それは、ずいぶんとまたシュールな眺めだった。
 スタイル抜群のふたりの美少女が犬みたいに四つん這いなり、形のいい尻を高々と突き出している。
 アンアンはちぎれかけたTバックのハイレグアーマー。
 阿修羅は小麦色の肌に純白の下着姿である。
 ふたりとも巨大化しているから、そのミラクルなボディの迫力ときたら、相当なものだ。
 その証拠に僕の隣で一ノ瀬はすでに鼻血で顔を真っ赤に染めているのだが、問題はぺちぺちという尻を平手でたたく音である。
 巨大な幼女、酒呑童女がふたりの背後に仁王立ちになり、素手でせっかんを加えているところなのだ。
 魔界を代表するふたりの王女も、さすがに年端も行かぬ子供には力をふるえず、ただされるがままになっているというわけだ。
「どうします? これじゃ、らちがあきませんよ?」
 困ったように、玉が言った。
「かといって、さすがの玉も、いくら大きいとはいっても、あんな幼女に火器を使用する気にはなれません」
「同感だな。まあ、酒呑童女がお仕置きに飽きるのを待つしかないか」
 僕がうなずくと、
「甘いですよ」
 ナイアルラトホテップが、話にならないといった顔で首を振った。
「子どもという生き物は、いったん興味を引くことを見つけると、何時間でもそれを繰り返して飽きないものです。なにしろ、大人とは、時間の流れ方が違うわけですから。まごまごしていると、もっとやっかいなことになりかねません。ここは早く城門を抜けて、敵地に乗り込まないと」
「でも、どうしたらいいんだい? アンアンたち、まったく抵抗する気、ないみたいだぜ?」
「仕方ないですね。ここは私が」
 わざとらしくため息をつくと、ナイアルラトホテップが杖を支えにすっくと立ち上がった。
 そのまま、するすると背が伸びていく。
 僕は目を剥いた。
 なんと! 
 こいつも巨大化できるんじゃないか!
 まあ、考えてみれば、当たり前のことである。
 彼はあのクトゥルフの眷属なのである。
 変身も巨大化も、朝飯前であるのに違いない。
 これまでその能力を発揮しなかったのは、おそらく誰も頼まなかったからなのだ。
「名付けて、ハーメルンの笛吹き男作戦です」
 酒呑童女をしのぐサイズにまで巨大化すると、ナイアルラトホテップが僕らを見降ろして、真顔でそう言った。
 そのままツカツカと幼女に近づいて行くと、気取った声で話しかける。
「お嬢さん、ちょっといいですか?」
 せっかんの手を止めて何気なく見上げた養女の顔に、驚きの色が浮かぶのが遠目にも見て取れた。
「ひょええ、しゅごいイケメンぢゃないでちゅか」
 目をきらきら輝かせ、うっとりした声で言う。
「道に迷ってしまってね。できれば、あなたのパパ、暗黒大皇帝さまのところに、案内してほしいんだが」
 すました声で、邪神が言った。
 なるほど。
 幼女はイケメンに弱い。
 その弱みにつけ込んで、こっちの味方にしてしまおうという腹なのだろう。
 でも、そんなにうまくいくだろうか。
 曲がりなりにも、相手は地獄の四天王なんだぞ。
 が、僕は間違っていた。
 案ずるより産むが易し、とはこのことだ。
「パパのとこでちゅかあ? いいでちゅよお! じゃあ、お手々、つなぎましょうね!」
 巨大幼女は、いともあっさりと、イケメン邪神の門下に下ってしまったのである。

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

骸行進

メカ
ホラー
筆者であるメカやその周囲が経験した(あるいは見聞きした)心霊体験について 綴ろうと思います。 段落ごと、誰の経験なのかなど、分かりやすい様に纏めます。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

あるバイク乗りの話~実体験かフィクションかは、ご自由に~

百門一新
ホラー
「私」は仕事が休みの日になると、一人でバイクに乗って沖縄をドライブするのが日課だった。これは「私」という主人公の、とあるホラーなお話。 /1万字ほどの短編です。さくっと読めるホラー小説となっております。お楽しみいただけましたら幸いです! ※他のサイト様にも掲載。

怖い風景

ントゥンギ
ホラー
こんな風景怖くない? 22年8月24日 完結

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

処理中です...