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第6章 アンアン魔界行
#128 アンアン、無間地獄に堕ちる④
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「あそこだ」
アンアンが腕を伸ばし、指さしたのは、はるか彼方にそびえる銀色の塔だった。
「ラスはあそこに囚われてるに違いない」
「あんなに遠いのに、よくわかるな」
僕は地平線に目を凝らした。
塔は城壁で囲まれており、今まさにその城門が開かれようとしているところだ。
そのあたりから盛大に砂埃が舞い上がっているけど、ありゃなんだ?
いやあな予感がした。
うなじの毛が逆立つような、胃が痛くなるほど不吉な予感だった。
ドドドドド…。
地響きのような音に混じって、ときの声みたいなのも聞こえてくるんですけど…。
「出てきますね。鬼の軍勢が」
いち早くその正体に気づいた玉が、場違いに淡々とした口調でつぶやいた。
「すごい数です。何百匹、いえ、何千匹ってとこですか」
「私たちがここに来るの、とっくの昔にバレてたってことだよね。まあ、そんなことだろうとは思ったけど」
「この生臭い匂いは、鬼の匂い…? いや、違う気がするな。もっと別の何かが、この地には潜んでいる。もしやこれは、私の予想通り、”あれ”の本体がここにあると、そういうことなのか…? だとすれば、こんな辺鄙なところまでついてきた甲斐があったというものだぞ」
ナイアルラトホテップのやつ、なんだか自分の世界に浸ってしまっているようだ。
生臭い匂い?
”あれ”の本体?
だいたい、その”あれ”って、何なんだよ?
「これは総力戦になりそうだな」
両手のナックルから棘を飛び出させて、アンアンがつぶやいた。
ハイレグアーマーの残骸をまといつかせただけのその8頭身の肢体は、いくさの女神みたいに美しい。
「みんな、それぞれ武器を用意して、固まれ。丸腰の蚊トンボを真ん中にして、外に向かって円陣を組むんだ」
「了解」
阿修羅が右手に独鈷、左手に鞭を構えた。
胸元の大きく開いた黒のライダースーツが、抜群のスタイルをくっきり浮き立たせている。
「まずはサブマシンガンで行きますか」
阿修羅の横に並んだ玉が、制服の両袖から黒光りする銃口をのぞかせた。
こうなったら、あの背中の楽器ケースの中身を使わせずに済むことを祈るしかない。
「元気、おまえもだ」
アンアンに言われて、僕は背中から傘を抜き取った。
阿修羅城の武器庫から失敬してきた、スパイグッズのあの傘だ。
みんなを守るように傘を開くと、杖を抱えたナイアルラトホテップが隣に並んだ。
「久しぶりに運動としゃれこみますかね。いにしえの神の力、あの雑魚どもに見せてやりますか」
自信満々といった感じで、口元に不敵な笑みを浮かべている。
「大半は雑魚だろうけど、油断は禁物よ」
そんなふうに余裕しゃくしゃくのイケメンに向かって、珍しく突き詰めた口調で、阿修羅が警告した。
「地獄の四天王はまだひとり残ってるし、あの中にはたぶん前鬼と後鬼もいる。飼い主の役小角もどこかで見てるでしょう」
「大ボスの暗黒大皇帝とやらも忘れるな」
と、これはアンアンだ。
いやはや、である。
僕はげんなりした。
これじゃ、ノーセーブで最終ダンジョンに突入したようなもんじゃないか。
全滅したら、即ゲームオーバーだぞ。
だいたい、このパーティ、RPGで一番重要なヒーラーがいないのだ。
アタッカー×2、遠隔攻撃×2、邪神×1って、なんだよこのバランスの悪さ。
しかもである。
回復アイテムすら、誰ももっていないのだ。
アンアンが腕を伸ばし、指さしたのは、はるか彼方にそびえる銀色の塔だった。
「ラスはあそこに囚われてるに違いない」
「あんなに遠いのに、よくわかるな」
僕は地平線に目を凝らした。
塔は城壁で囲まれており、今まさにその城門が開かれようとしているところだ。
そのあたりから盛大に砂埃が舞い上がっているけど、ありゃなんだ?
いやあな予感がした。
うなじの毛が逆立つような、胃が痛くなるほど不吉な予感だった。
ドドドドド…。
地響きのような音に混じって、ときの声みたいなのも聞こえてくるんですけど…。
「出てきますね。鬼の軍勢が」
いち早くその正体に気づいた玉が、場違いに淡々とした口調でつぶやいた。
「すごい数です。何百匹、いえ、何千匹ってとこですか」
「私たちがここに来るの、とっくの昔にバレてたってことだよね。まあ、そんなことだろうとは思ったけど」
「この生臭い匂いは、鬼の匂い…? いや、違う気がするな。もっと別の何かが、この地には潜んでいる。もしやこれは、私の予想通り、”あれ”の本体がここにあると、そういうことなのか…? だとすれば、こんな辺鄙なところまでついてきた甲斐があったというものだぞ」
ナイアルラトホテップのやつ、なんだか自分の世界に浸ってしまっているようだ。
生臭い匂い?
”あれ”の本体?
だいたい、その”あれ”って、何なんだよ?
「これは総力戦になりそうだな」
両手のナックルから棘を飛び出させて、アンアンがつぶやいた。
ハイレグアーマーの残骸をまといつかせただけのその8頭身の肢体は、いくさの女神みたいに美しい。
「みんな、それぞれ武器を用意して、固まれ。丸腰の蚊トンボを真ん中にして、外に向かって円陣を組むんだ」
「了解」
阿修羅が右手に独鈷、左手に鞭を構えた。
胸元の大きく開いた黒のライダースーツが、抜群のスタイルをくっきり浮き立たせている。
「まずはサブマシンガンで行きますか」
阿修羅の横に並んだ玉が、制服の両袖から黒光りする銃口をのぞかせた。
こうなったら、あの背中の楽器ケースの中身を使わせずに済むことを祈るしかない。
「元気、おまえもだ」
アンアンに言われて、僕は背中から傘を抜き取った。
阿修羅城の武器庫から失敬してきた、スパイグッズのあの傘だ。
みんなを守るように傘を開くと、杖を抱えたナイアルラトホテップが隣に並んだ。
「久しぶりに運動としゃれこみますかね。いにしえの神の力、あの雑魚どもに見せてやりますか」
自信満々といった感じで、口元に不敵な笑みを浮かべている。
「大半は雑魚だろうけど、油断は禁物よ」
そんなふうに余裕しゃくしゃくのイケメンに向かって、珍しく突き詰めた口調で、阿修羅が警告した。
「地獄の四天王はまだひとり残ってるし、あの中にはたぶん前鬼と後鬼もいる。飼い主の役小角もどこかで見てるでしょう」
「大ボスの暗黒大皇帝とやらも忘れるな」
と、これはアンアンだ。
いやはや、である。
僕はげんなりした。
これじゃ、ノーセーブで最終ダンジョンに突入したようなもんじゃないか。
全滅したら、即ゲームオーバーだぞ。
だいたい、このパーティ、RPGで一番重要なヒーラーがいないのだ。
アタッカー×2、遠隔攻撃×2、邪神×1って、なんだよこのバランスの悪さ。
しかもである。
回復アイテムすら、誰ももっていないのだ。
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