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第6章 アンアン魔界行
#124 アンアン、地獄をめくる⑳
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そうとうな高空を何時間もかけて飛行した末、見えてきたのは富士山くらいある高い山だった。
僕がアンアンの首っ玉にしがみつき、阿修羅が玉を背負っている。
ナイアルラホテップはさすが邪神だけあって、平泳ぎで空を遊泳し、まさに悠々自適といった感じである。
牛頭魔王は鷲の翼が生えた真っ赤な巨豚に、背後に一ノ瀬を従えてまたがっていた。
ちなみに玉は自力で飛べることは飛べるのだが、例のガメラ式飛行法は目が回るので長距離は無理なのだそうだ。
「あれが涅槃エレベーターだな」
須弥山のカルデラから天を突いて立ち上がる透明なチューブを目に止めて、アンアンが言った。
「シャフトに似てるが、お釈迦さま御用達だけあって、こっちのほうがなんとなくセレブっぽい」
チューブの中には大きな座布団みたいな蓮の花が浮かんでいて、どうやらあれに乗るらしい。
「いい感じだね。やっと楽できそう」
阿修羅も、満更でもなさそうな様子である。
が、世の中、そうそううまくはいかないものだ。
「あーん、まずいわよォ」
着陸態勢に入る直前、ふいに牛頭魔王が言った。
「誰かたれこんだのかしら? あれ、牛頭馬頭竜王だわ」
見ると、なるほど、チューブの根元のところに人影が見える。
旧日本軍の軍服に身を包み、腰に軍刀を下げた見るからに剣呑そうな男である。
顔は軍帽に隠れて見えないが、特別、馬や牛の頭をしているわけではないようだ。
「ごずめずりゅうおう? 何だ、それは」
空中で制動をかけて、アンアンが訊く。
「牛頭馬頭と言えば、四天王のひとりって決まってるでしょ。本当は、次の大叫喚地獄とその次の焦熱地獄を仕切ってるやつなんだけど、あんたたちのこと嗅ぎつけて、ここまで出張してきたのかもね」
「ていうか、見つかって一番困るの、あんたなんじゃないの? だいたいこんなとこまでついてきて、あんたいったいどっちの味方なのさ?」
阿修羅が半ば呆れたように、牛頭魔王に詰め寄った。
「どっちの味方って…あたしはただ、この恋を貫きたいだけよ」
オカマの牛男が、ボロ雑巾で作った人形みたいな一ノ瀬を、ぎゅっと抱きしめた。
一ノ瀬がさっきからひと言も口をきかないのは、気を失っているからである。
「だったら、あのキ印みたいなのを、まず排除しないとな」
アンアンが右のこぶしを握ると、シャキーンとナックルから鋼鉄の棘が飛び出した。
差別用語ながら、キ印とはこの際、言い得て妙だった。
カーキ色の軍服を身にまとったそいつは、牛頭魔王たちとは明らかに異質なオーラを周囲に発散させている。
背中には、金糸で昇竜の刺繍を施した赤マント。
軍帽の下からのぞく隻眼に、剃刀のように鋭い狂気を宿しているようなのだ。
「どうしますか? ここは、空中から一斉攻撃と行きますか?」
アンアンと阿修羅を交互に見て、ナイアルラトホテップが、クールな口調で言った。
「及ばずながら、この私めも加勢させていただきますが」
僕がアンアンの首っ玉にしがみつき、阿修羅が玉を背負っている。
ナイアルラホテップはさすが邪神だけあって、平泳ぎで空を遊泳し、まさに悠々自適といった感じである。
牛頭魔王は鷲の翼が生えた真っ赤な巨豚に、背後に一ノ瀬を従えてまたがっていた。
ちなみに玉は自力で飛べることは飛べるのだが、例のガメラ式飛行法は目が回るので長距離は無理なのだそうだ。
「あれが涅槃エレベーターだな」
須弥山のカルデラから天を突いて立ち上がる透明なチューブを目に止めて、アンアンが言った。
「シャフトに似てるが、お釈迦さま御用達だけあって、こっちのほうがなんとなくセレブっぽい」
チューブの中には大きな座布団みたいな蓮の花が浮かんでいて、どうやらあれに乗るらしい。
「いい感じだね。やっと楽できそう」
阿修羅も、満更でもなさそうな様子である。
が、世の中、そうそううまくはいかないものだ。
「あーん、まずいわよォ」
着陸態勢に入る直前、ふいに牛頭魔王が言った。
「誰かたれこんだのかしら? あれ、牛頭馬頭竜王だわ」
見ると、なるほど、チューブの根元のところに人影が見える。
旧日本軍の軍服に身を包み、腰に軍刀を下げた見るからに剣呑そうな男である。
顔は軍帽に隠れて見えないが、特別、馬や牛の頭をしているわけではないようだ。
「ごずめずりゅうおう? 何だ、それは」
空中で制動をかけて、アンアンが訊く。
「牛頭馬頭と言えば、四天王のひとりって決まってるでしょ。本当は、次の大叫喚地獄とその次の焦熱地獄を仕切ってるやつなんだけど、あんたたちのこと嗅ぎつけて、ここまで出張してきたのかもね」
「ていうか、見つかって一番困るの、あんたなんじゃないの? だいたいこんなとこまでついてきて、あんたいったいどっちの味方なのさ?」
阿修羅が半ば呆れたように、牛頭魔王に詰め寄った。
「どっちの味方って…あたしはただ、この恋を貫きたいだけよ」
オカマの牛男が、ボロ雑巾で作った人形みたいな一ノ瀬を、ぎゅっと抱きしめた。
一ノ瀬がさっきからひと言も口をきかないのは、気を失っているからである。
「だったら、あのキ印みたいなのを、まず排除しないとな」
アンアンが右のこぶしを握ると、シャキーンとナックルから鋼鉄の棘が飛び出した。
差別用語ながら、キ印とはこの際、言い得て妙だった。
カーキ色の軍服を身にまとったそいつは、牛頭魔王たちとは明らかに異質なオーラを周囲に発散させている。
背中には、金糸で昇竜の刺繍を施した赤マント。
軍帽の下からのぞく隻眼に、剃刀のように鋭い狂気を宿しているようなのだ。
「どうしますか? ここは、空中から一斉攻撃と行きますか?」
アンアンと阿修羅を交互に見て、ナイアルラトホテップが、クールな口調で言った。
「及ばずながら、この私めも加勢させていただきますが」
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