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第6章 アンアン魔界行
#119 アンアン、地獄をめくる⑮
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アンアンが、壁に押し潰された?
顔から血の気が引いた。
手足をばたつかせてみたけど、すでに自由落下状態に入っていて、身体の向きすら変えられない。
ここはタイムリープしかないか!
そう決心して、奥歯を噛みしめた時である。
上から何かが落ちてきて、僕の肩にちょこんと座った。
頸を捻じ曲げて見てみると、なんと、妖精サイズに小型化したアンアンだった。
「あ、アンアン…」
僕はほっと胸を撫で下ろした。
なるほど。
巨大化できるということは、身体を小さくもできるというわけか。
「危ないところだった」
憮然とした表情で、アンアンがつぶやいた。
「もう少しで、スルメにされるとこだったぞ」
そうして僕らが着地したのは、火星の地表のように赤茶けた大地である。
周りの様子は第2層の黒縄地獄に似ていて、あちこちに湯気を上げる大釜が据えつけられており、泣き叫ぶ亡者たちを獄卒が中に放り込み、長い竿のようなものでかき回している。
「玉、説明を」
阿修羅の指示で、玉がウィキの検索結果を発表した。
「ここは、叫喚(きょうかん)地獄と言って、殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪を犯した者が落ちる地獄です。衆合地獄の下に位置していて、ここに落ちた者は、その10倍の苦を受けると言われています。亡者たちは、一様に熱湯の大釜や猛火の鉄の檻にに入れられて、号泣し、叫喚することからこの名がついたわけですが、その泣き喚き、許しを請い哀願する声を聞いた獄卒は、更に怒り狂い、罪人をますます責めさいなむということです。えーと、私たちにとっての問題点は、次の記述ですね。『頭が金色、目から火を噴き、赤い服を着た巨大な獄卒が罪人を追い回して弓矢で射る。焼けた鉄の地面を走らされ、鉄の棒で打ち砕かれる』。つまり、この巨大な獄卒というのが、おそらくですね…」
「そう、ご明察。地獄四天王ナンバー2、金毘羅牛頭魔王だよ」
玉の解説を、阿修羅が補足する。
「頭が金色、赤い服? なんだか、田舎のヤンキーみたいなやつだな」
アンアンが馬鹿にしたように言った。
「ていうか、それ、サンタクロースじゃねえの?」
わけのわからぬ突っ込みは、当然、一ノ瀬の仕業である。
「なんでもいいですが、ちょいとこの穴掘り、疲れてきましたね」
地面に胡坐をかいて、ナイアルラトホテップがぼやいた。
「ここはまだ4層だ、あと、5、6、7、8と、更に4階層もあるんですよね? どうせ我々の侵入はもうバレてるでしょうから、ここは轟天号を呼んで、一気に最下層まで行っちゃいませんか?」
「うーん、それもいいかもね」
腕組みして、うなずく阿修羅。
「なんか、地獄を見て回るのって、疲れるよ。自分がやられてるわけじゃないんだけど、精神的によくないよね」
「同感だな。まあ、全面戦争も辞さないつもりで、一か八か賭けに出るって方法はある」
轟天号による突入にはあれほど反対したアンアンだが、どうも阿修羅同様、いい加減、地獄巡りに嫌気がさしてきているらしい。
「玉も賛成です」
ツインテールの髪をぴょんぴょん跳ねさせながら、玉がぜんまい仕掛けの玩具みたいにひと回りした。
「ただですね。お船を呼ぶのは、あの赤い服を着た頭が金色の人を倒してからになりそうですよ」
「はあ?」
一斉に玉の指さすほうを見る僕たち。
「やば。金毘羅牛魔王」
阿修羅が息を呑む。
僕は、のっしのっしと近づいてくるそのキングコング並みの巨体を見上げて、茫然とつぶやいた。
「おい、あれのどこがサンタクロースなんだよ。それに、あいつ、田舎のヤンキーより、ずっと強そうだぞ」
顔から血の気が引いた。
手足をばたつかせてみたけど、すでに自由落下状態に入っていて、身体の向きすら変えられない。
ここはタイムリープしかないか!
そう決心して、奥歯を噛みしめた時である。
上から何かが落ちてきて、僕の肩にちょこんと座った。
頸を捻じ曲げて見てみると、なんと、妖精サイズに小型化したアンアンだった。
「あ、アンアン…」
僕はほっと胸を撫で下ろした。
なるほど。
巨大化できるということは、身体を小さくもできるというわけか。
「危ないところだった」
憮然とした表情で、アンアンがつぶやいた。
「もう少しで、スルメにされるとこだったぞ」
そうして僕らが着地したのは、火星の地表のように赤茶けた大地である。
周りの様子は第2層の黒縄地獄に似ていて、あちこちに湯気を上げる大釜が据えつけられており、泣き叫ぶ亡者たちを獄卒が中に放り込み、長い竿のようなものでかき回している。
「玉、説明を」
阿修羅の指示で、玉がウィキの検索結果を発表した。
「ここは、叫喚(きょうかん)地獄と言って、殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪を犯した者が落ちる地獄です。衆合地獄の下に位置していて、ここに落ちた者は、その10倍の苦を受けると言われています。亡者たちは、一様に熱湯の大釜や猛火の鉄の檻にに入れられて、号泣し、叫喚することからこの名がついたわけですが、その泣き喚き、許しを請い哀願する声を聞いた獄卒は、更に怒り狂い、罪人をますます責めさいなむということです。えーと、私たちにとっての問題点は、次の記述ですね。『頭が金色、目から火を噴き、赤い服を着た巨大な獄卒が罪人を追い回して弓矢で射る。焼けた鉄の地面を走らされ、鉄の棒で打ち砕かれる』。つまり、この巨大な獄卒というのが、おそらくですね…」
「そう、ご明察。地獄四天王ナンバー2、金毘羅牛頭魔王だよ」
玉の解説を、阿修羅が補足する。
「頭が金色、赤い服? なんだか、田舎のヤンキーみたいなやつだな」
アンアンが馬鹿にしたように言った。
「ていうか、それ、サンタクロースじゃねえの?」
わけのわからぬ突っ込みは、当然、一ノ瀬の仕業である。
「なんでもいいですが、ちょいとこの穴掘り、疲れてきましたね」
地面に胡坐をかいて、ナイアルラトホテップがぼやいた。
「ここはまだ4層だ、あと、5、6、7、8と、更に4階層もあるんですよね? どうせ我々の侵入はもうバレてるでしょうから、ここは轟天号を呼んで、一気に最下層まで行っちゃいませんか?」
「うーん、それもいいかもね」
腕組みして、うなずく阿修羅。
「なんか、地獄を見て回るのって、疲れるよ。自分がやられてるわけじゃないんだけど、精神的によくないよね」
「同感だな。まあ、全面戦争も辞さないつもりで、一か八か賭けに出るって方法はある」
轟天号による突入にはあれほど反対したアンアンだが、どうも阿修羅同様、いい加減、地獄巡りに嫌気がさしてきているらしい。
「玉も賛成です」
ツインテールの髪をぴょんぴょん跳ねさせながら、玉がぜんまい仕掛けの玩具みたいにひと回りした。
「ただですね。お船を呼ぶのは、あの赤い服を着た頭が金色の人を倒してからになりそうですよ」
「はあ?」
一斉に玉の指さすほうを見る僕たち。
「やば。金毘羅牛魔王」
阿修羅が息を呑む。
僕は、のっしのっしと近づいてくるそのキングコング並みの巨体を見上げて、茫然とつぶやいた。
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