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第6章 アンアン魔界行
#116 アンアン、地獄をめくる⑫
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永遠に続くかと思われる落下の後、僕らがたどり着いたのは、奇妙な場所だった。
高い石の壁に挟まれた、幅10メートルくらいの狭い通路みたいなところである。
「ここも地獄なんですかあ? それにしても、ずいぶん妙ですねえ」
ガメラ形態から女子高生モードに戻った玉が、きょろきょろ周囲を見回して、不思議そうな顔をする。
かなりの高所から落っこちたはずなのに、尾てい骨をちょっと打ったくらいで大して痛くない。
これは図らずも阿修羅が指摘したように、「高い所から落っこちたくらいでは死なせない」という、地獄界特有の法則が働いているからだろう。
しかし、それにしても、ここはいったい何なのだ?
両側の壁と通路は、先が見えないほど遠くまで、ただえんえんと続いている。
「なんか人がいっぱいいるな。何してるんだろ? ん? いい匂い! ま、まさか、これは」
一ノ瀬が急に生き生きとした表情になる。
ついさっきまで、小便をちびった罰として、阿修羅に市中引き回しの刑に処されていたくせに。
「炊き出しみたいだな。確かにこれは、カレーの匂いだ」
アンアンが鼻をひくつかせて、同意した。
乳ポロ状態だったアンアンは、ハイレグアーマーの紐をちぎって胸に水平に巻き、乳首だけを隠す仕様に変えている。
一応大事な部分は隠れてるけど、ほぼ裸と変わりないという現実は、どうしても否めない。
「俺、冒険に次ぐ冒険で、おなかぺこぺこなんだよね。ねね、ちょっと行ってみない?」
「玉もですぅ。それに、地獄にカレーライスって、このことじゃないですかあ。こんなチャンス、逃がす手はありませんよぉ!」
子供のようにはしゃぎながら、駆けていくふたり。
地獄でカレーライス?
そんなことわざ、あるのかよ?
「みなさんもどうぞ。私はここで、次の穴を掘ってますから」
杖で地面に魔法陣を描き始めながら、ナイアルラトホテップのやつが、親切に勧めてくれた。
「そうか。悪いな。あたしも実は空腹だ。行ってみるか」
「だね。女戦士にも休息は必要だもんね」
アンアンと阿修羅が並んで歩き出す。
「あんたはいいのか?」
念のためにイケメン青年に声をかけると、
「邪神はコスパがいいんでね。食事は半年に一度で十分なんですよ」
なる驚きの返事が返ってきた。
人が集まっているあたりに行ってみると、なるほどそれは、被災地の炊き出しとそっくりな光景だった。
2列に並んだ亡者たちに、ふたりの獄卒が、プラ容器に入ったカレーライスをふるまっているのだ。
「昔懐かし、ライスカレーの匂いだぜ。くうー。こりゃたまらん!」
最後尾に並んだ一ノ瀬は、早くも感涙にむせんでいる。
「カレーライスとライスカレーって、どこが違うんだ?」
変なところで生真面目なアンアンが、いきなりそんな難問を持ち出した。
「カレーのルウの割合じゃないですかあ。ライスカレーは、ルウが少なめとか」
「いや。味自体の違いだと思うけどな。ライスカレーのルウのほうが、ほら、なんていうか、小麦粉の量が多い気がする」
「小麦粉? カレーのルウには、そんなものまで入ってるのか?」
「日本製はそうだと思うよ。本場インドのはどうか知らないけどさ」
などと、およそ地獄に似合わぬのどかな会話を交わしていた時だ。
そんな僕らの会話を遮るように、獄卒のひとりが叫んだ。
「さあ、きょうの配給はこれで終わりだ。貴様ら、そろそろ位置につけ。お仕置きの時間だぞ!」
お仕置き?
僕らは、誰からともなく、顔を見合わせた。
おい、俺たち、まだカレーもらってないんだけど。
じゃなくて、今からいったい、何が始まるってんだ?
高い石の壁に挟まれた、幅10メートルくらいの狭い通路みたいなところである。
「ここも地獄なんですかあ? それにしても、ずいぶん妙ですねえ」
ガメラ形態から女子高生モードに戻った玉が、きょろきょろ周囲を見回して、不思議そうな顔をする。
かなりの高所から落っこちたはずなのに、尾てい骨をちょっと打ったくらいで大して痛くない。
これは図らずも阿修羅が指摘したように、「高い所から落っこちたくらいでは死なせない」という、地獄界特有の法則が働いているからだろう。
しかし、それにしても、ここはいったい何なのだ?
両側の壁と通路は、先が見えないほど遠くまで、ただえんえんと続いている。
「なんか人がいっぱいいるな。何してるんだろ? ん? いい匂い! ま、まさか、これは」
一ノ瀬が急に生き生きとした表情になる。
ついさっきまで、小便をちびった罰として、阿修羅に市中引き回しの刑に処されていたくせに。
「炊き出しみたいだな。確かにこれは、カレーの匂いだ」
アンアンが鼻をひくつかせて、同意した。
乳ポロ状態だったアンアンは、ハイレグアーマーの紐をちぎって胸に水平に巻き、乳首だけを隠す仕様に変えている。
一応大事な部分は隠れてるけど、ほぼ裸と変わりないという現実は、どうしても否めない。
「俺、冒険に次ぐ冒険で、おなかぺこぺこなんだよね。ねね、ちょっと行ってみない?」
「玉もですぅ。それに、地獄にカレーライスって、このことじゃないですかあ。こんなチャンス、逃がす手はありませんよぉ!」
子供のようにはしゃぎながら、駆けていくふたり。
地獄でカレーライス?
そんなことわざ、あるのかよ?
「みなさんもどうぞ。私はここで、次の穴を掘ってますから」
杖で地面に魔法陣を描き始めながら、ナイアルラトホテップのやつが、親切に勧めてくれた。
「そうか。悪いな。あたしも実は空腹だ。行ってみるか」
「だね。女戦士にも休息は必要だもんね」
アンアンと阿修羅が並んで歩き出す。
「あんたはいいのか?」
念のためにイケメン青年に声をかけると、
「邪神はコスパがいいんでね。食事は半年に一度で十分なんですよ」
なる驚きの返事が返ってきた。
人が集まっているあたりに行ってみると、なるほどそれは、被災地の炊き出しとそっくりな光景だった。
2列に並んだ亡者たちに、ふたりの獄卒が、プラ容器に入ったカレーライスをふるまっているのだ。
「昔懐かし、ライスカレーの匂いだぜ。くうー。こりゃたまらん!」
最後尾に並んだ一ノ瀬は、早くも感涙にむせんでいる。
「カレーライスとライスカレーって、どこが違うんだ?」
変なところで生真面目なアンアンが、いきなりそんな難問を持ち出した。
「カレーのルウの割合じゃないですかあ。ライスカレーは、ルウが少なめとか」
「いや。味自体の違いだと思うけどな。ライスカレーのルウのほうが、ほら、なんていうか、小麦粉の量が多い気がする」
「小麦粉? カレーのルウには、そんなものまで入ってるのか?」
「日本製はそうだと思うよ。本場インドのはどうか知らないけどさ」
などと、およそ地獄に似合わぬのどかな会話を交わしていた時だ。
そんな僕らの会話を遮るように、獄卒のひとりが叫んだ。
「さあ、きょうの配給はこれで終わりだ。貴様ら、そろそろ位置につけ。お仕置きの時間だぞ!」
お仕置き?
僕らは、誰からともなく、顔を見合わせた。
おい、俺たち、まだカレーもらってないんだけど。
じゃなくて、今からいったい、何が始まるってんだ?
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