夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#104 アンアンとアンダーバベルの恐怖⑱

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 プロレス技のスリーパーホールドの形に両腕を固定すると、アンアンが思い切り阿修羅の首をねじった。
 ゴキ。
 いやな音がして、阿修羅の顔が僕の正面に来る。
 そう、首が180度回転したのである。
 つまり、これが阿修羅の言う”あれ”なのだ。
 阿修羅は三面六臂の神である。
 すなわち、3つの異なる人格を備えている。
 それを手っ取り早く引き出すのが、この荒療治であるというわけだ。
 おまえはエクソシストのリーガンかよ!
 僕が突っ込むより先に、阿修羅が泣きわめいた。
「痛っ! アンアンったら、もっと優しくやってよ!」
「無理言うな」
 かまわずゴキゴキと首をひねっていくアンアン。
 2周目に現れたのは、阿修羅第2のペルソナ、あのへたれ男である。
「くう、いてえ! あ、元気じゃないか。おひさ」
「あいさつしてる場合かよ。おまえは引っ込んでろよ」
「つれないやつだな、たまには俺も出せつーのに。あ。アンアン、おまえ、まだやるか、ひい、いて。死ぬ」
 ゴキ、ゴキ、ゴキ。
 そうして3周目が済んだとたんだった。
「痛いって言ってるだろーが!」
 突如として阿修羅の全身が膨れ上がり、アンアンごと僕を吹き飛ばした。
 宙に浮かんでいるのは、紅蓮の炎を光輪のように背中にまとったあの阿修羅第3形態、阿修羅王である。
「お出ましだな」
 宙で体勢を立て直し、アンアンが笑った。
「だが、怒りをぶつける相手はあたしじゃない。あれだ」
 アンアンが指さしてみせたのは、今や名状しがたい怪獣と化したクトゥルフだ。
 直立した巨大ナメクジとでもいうべきか。
 その身体は不気味なイボで覆い尽くされ、そのイボイボの先にはおびただしい眼球。
 胴体の下部からは、第1形態の時より更にたくましくなった触腕が何十本と生え、うねうねと地面をのたうちまわっている。
 鉄塔ほどの高さのところにある頭部はイソギンチャクそっくりで、その口からは白濁したよだれをだらだら垂れ流している始末。
「なんだ、あれは」
 歯ぎしりするような声で、阿修羅王が言った。
「きもい。きもすぎるぞ」
 この阿修羅王、滅多に登場しないが、特徴は完全にマイペースであるという点だ。
 ほかのふたつの人格と独立しているのか、記憶の連続性すらもないらしい。
 だから、事情を一から説明しなければならぬ点が厄介といえば厄介なのである。
「あれは邪神だ。太古、この地球にやってきて、ここ魔界第3層に住み着いた旧支配者さ。阿修羅王、おまえは醜いものが嫌いだろう? ならばひとつ、おまえの力であれを焼き尽くして、このアンダーバベルをきれいに浄化してくれないか」
「うむ。言われなくともそのつもりだ」
 阿修羅王が身体中から炎を吹き出しながら、クトゥルフのほうへと向かっていく。
 すぐに乗せられてしまうとは、思った通り、直情径行型の性格らしい、
 それを確認するなり、地上に向かってアンアンが叫んだ。
「玉、蚊トンボ、どこか安全なところに避難するんだ! できれば核シェルター代わりになるような地下がいい!」

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