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第6章 アンアン魔界行
#94 アンアンとアンダーバベルの恐怖⑧
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ーふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるう、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐんー
荒涼とした異形の構造物の間に、ナイアルラトホテップの呪文が響き渡る。
教会で信者たちが唱えていたのと、同じ文句らしい。
「またあのお経だ」
一ノ瀬が閉口したように言った。
「なんか、気味が悪いよな。今にも何か出てきそうで」
僕は呆れた。
何言ってるんだよ!
だからやつはその何かを呼び出してるところなんだって!
ナイアルラトホテップが呪文を繰り返すうちに、すり鉢状の穴に変化が現れた。
大地から目に見えぬ瘴気が吹き上がったかと思うと、何か黒い大きな丸いものが、ゆっくりとせり出してきた。
それはさながら、宇宙の子宮から産まれてくる巨大な胎児だった。
直径10メートルはありそうな、蛸そっくりの頭部。
その脇に開く、分厚いまぶたに覆われた、マンホールみたいに丸い大きな眼。
後ろ半分からは脳がはみ出していて、その周囲にひげの代わりに無数の触手が生えている。
両サイドにひと際太く長い一対の触腕が垂れ下がっていて、どうやらそれが人間でいう腕の代わりらしい。
下半身は植物の蔦が絡まったようにぐちゃぐちゃしていて、何がどうなっているのかよくわからない。
ただ、背中にはなぜかコウモリの翼みたいなものが生えていて、胴体部分を半ば包み込んでいるようだ。
「あれが、クトゥルフか…」
アンアンが、心底嫌そうな声で、つぶやいた。
「思ったより、でかいな。できれば、あれを起こさず、クリスタルだけいただきたいものだ」
アンアンの言う通りだった。
宙に浮かんだ旧支配者は、小さなビルほどもある巨体である。
巨大化できるアンアンなら互角に戦えるかもしれないが、何しろ相手は邪神なのだ。
どんな邪悪な力を秘めているか、わかったものではない。
そのクトゥルフは、尖ったくちばしと胸の間に、漆黒の宝石を抱え込んでいる。
たぶん、あれが、ナイアルラトホテップの言う、もうひとつのエネルギー源、ダーククリスタルに違いない。
「問題は、どうやってあれを盗み出すかだね」
珍しく硬い声で阿修羅が言った。
「なんだか、大切なぬいぐるみを抱きしめる幼児みたいに、しっかり抱え込んじゃってるんですけど」
「腋の下をくすぐってやったら、どうですかあ?」
無邪気な提案は、もちろん玉のものである。
「無理でしょ。どこが腋の下かわかんないし、第一誰がそれやるの?」
「お、俺に振らないでよね」
さすがに学習したらしく、一ノ瀬が先回りして辞退する。
その時、ナイアルラトホテップの声がした。
「準備完了です。どうします? このまま、彼を起こしてもいいですか?」
荒涼とした異形の構造物の間に、ナイアルラトホテップの呪文が響き渡る。
教会で信者たちが唱えていたのと、同じ文句らしい。
「またあのお経だ」
一ノ瀬が閉口したように言った。
「なんか、気味が悪いよな。今にも何か出てきそうで」
僕は呆れた。
何言ってるんだよ!
だからやつはその何かを呼び出してるところなんだって!
ナイアルラトホテップが呪文を繰り返すうちに、すり鉢状の穴に変化が現れた。
大地から目に見えぬ瘴気が吹き上がったかと思うと、何か黒い大きな丸いものが、ゆっくりとせり出してきた。
それはさながら、宇宙の子宮から産まれてくる巨大な胎児だった。
直径10メートルはありそうな、蛸そっくりの頭部。
その脇に開く、分厚いまぶたに覆われた、マンホールみたいに丸い大きな眼。
後ろ半分からは脳がはみ出していて、その周囲にひげの代わりに無数の触手が生えている。
両サイドにひと際太く長い一対の触腕が垂れ下がっていて、どうやらそれが人間でいう腕の代わりらしい。
下半身は植物の蔦が絡まったようにぐちゃぐちゃしていて、何がどうなっているのかよくわからない。
ただ、背中にはなぜかコウモリの翼みたいなものが生えていて、胴体部分を半ば包み込んでいるようだ。
「あれが、クトゥルフか…」
アンアンが、心底嫌そうな声で、つぶやいた。
「思ったより、でかいな。できれば、あれを起こさず、クリスタルだけいただきたいものだ」
アンアンの言う通りだった。
宙に浮かんだ旧支配者は、小さなビルほどもある巨体である。
巨大化できるアンアンなら互角に戦えるかもしれないが、何しろ相手は邪神なのだ。
どんな邪悪な力を秘めているか、わかったものではない。
そのクトゥルフは、尖ったくちばしと胸の間に、漆黒の宝石を抱え込んでいる。
たぶん、あれが、ナイアルラトホテップの言う、もうひとつのエネルギー源、ダーククリスタルに違いない。
「問題は、どうやってあれを盗み出すかだね」
珍しく硬い声で阿修羅が言った。
「なんだか、大切なぬいぐるみを抱きしめる幼児みたいに、しっかり抱え込んじゃってるんですけど」
「腋の下をくすぐってやったら、どうですかあ?」
無邪気な提案は、もちろん玉のものである。
「無理でしょ。どこが腋の下かわかんないし、第一誰がそれやるの?」
「お、俺に振らないでよね」
さすがに学習したらしく、一ノ瀬が先回りして辞退する。
その時、ナイアルラトホテップの声がした。
「準備完了です。どうします? このまま、彼を起こしてもいいですか?」
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