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第6章 アンアン魔界行
#77 アンアン、地底軍艦に乗る⑨
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「やべ。やべえよ」
一ノ瀬がそうささやきかけてきたのは、オークの死骸の山を迂回して、やっと100メートルほど進んだ頃のことだった。
「ん? 今度は何だ?」
正直、一ノ瀬の「ヤバい」は聞き飽きている。
どうせくだらないことだろう、と思ったら、案の定、である。
「元気、俺、ションベン漏れそうだ」
本人はひどく深刻な顔つきで、前かがみになり、ズボンの前を両手で押さえている。
「知るかよ。そのへんで、立ちションでもすりゃいいだろ」
「だ、だって、立ちションの最中にゴーレムに襲われたらどうすんだよ」
「玉を見張りに立てといたらてどうだ」
が、もう遅かったようだ。
「あー、出ました出ました! 次の中ボス、ゴーレムですよぉ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、ゆっくり回転しながら、うれしそうにその玉が叫んだのだ。
なるほど。
前方に視線を戻した僕は、見た。
いつのまにか、少し先のところに、回廊をふさぐようにして、無気味で巨大な影がそびえ立っている。
身の丈5メートルはあるだろうか。
上半身裸の、粘土色の巨人である。
あれが、ゴーレムか。
でかすぎて、明らかに交通の邪魔になってるぞ。
ゴーレムというのは、元はと言えば、ユダヤ教だかなんだかに出てくる泥人形のことだ。
術者の命令通りに動く、巨大な自動人形である。
「任せろ」
進み出たのは、アンアンだった。
憶すことなく、大股に歩み寄っていく。
遠ざかっていくアンアンの大きさが変わらないのは、遠近法に狂いが生じているのではなく、アンアンがゴーレムのサイズに合わせて巨大化しているからだろう。
たちまち身長5メートルにまで成長したアンアンが、ゴーレムと向かい合って立つ。
「くらえ!」
雄叫びとともに、殴った。
パンチ。
パンチ。
パンチ。
ナックルの連打を受けて、ゴーレムの胸板にいくつもの穴が開く。
が、それだけだった。
穴だらけにされても、ゴーレムは立っていた。
いや、それどころか…。
みるみるうちに穴がふさがり始めたのだ!
「なにい?」
アンアンが跳びすさる。
大きく後ろにジャンプして、僕らのところに戻ってきた。
「だめだ。あいつ、粘土でできてるから、物理攻撃が効かないんだ」
等身大に戻ると、悔しそうな顔で言う。
どん。
今度は俺の番だと言わんばかりに、ゴーレムが歩き出した。
両腕を頭上に振り上げて、こっちに向かってくる。
「玉のミサイルでぶっ飛ばす?」
一応提案してみると、
「ううん。それはラスボスの時までとっておきたいの。あれを倒しても、まだ後に大物がふたつ控えてるからね」
阿修羅がかぶりを振って、却下した。
「じゃあ、どうすれば…」
「土は何に弱い?」
「なんだっけ? 火、じゃなくて、水かな?」
「そう、水は粘土を溶かす」
「でも、水なんて、どこにもないぜ」
「あるわ」
阿修羅が後ろを振り向いた。
その視線の先に立っているのは…。
そう。
やっぱり、一ノ瀬だった。
「え? 何? 蘭ちゃんのその笑顔、もう嫌な予感しかしないんですけど」
おびえる一ノ瀬に、とっておきの笑顔を見せて、阿修羅が言った。
「おいで。蚊トンボ君。私があなたを今から男にしてあげる」
一ノ瀬がそうささやきかけてきたのは、オークの死骸の山を迂回して、やっと100メートルほど進んだ頃のことだった。
「ん? 今度は何だ?」
正直、一ノ瀬の「ヤバい」は聞き飽きている。
どうせくだらないことだろう、と思ったら、案の定、である。
「元気、俺、ションベン漏れそうだ」
本人はひどく深刻な顔つきで、前かがみになり、ズボンの前を両手で押さえている。
「知るかよ。そのへんで、立ちションでもすりゃいいだろ」
「だ、だって、立ちションの最中にゴーレムに襲われたらどうすんだよ」
「玉を見張りに立てといたらてどうだ」
が、もう遅かったようだ。
「あー、出ました出ました! 次の中ボス、ゴーレムですよぉ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、ゆっくり回転しながら、うれしそうにその玉が叫んだのだ。
なるほど。
前方に視線を戻した僕は、見た。
いつのまにか、少し先のところに、回廊をふさぐようにして、無気味で巨大な影がそびえ立っている。
身の丈5メートルはあるだろうか。
上半身裸の、粘土色の巨人である。
あれが、ゴーレムか。
でかすぎて、明らかに交通の邪魔になってるぞ。
ゴーレムというのは、元はと言えば、ユダヤ教だかなんだかに出てくる泥人形のことだ。
術者の命令通りに動く、巨大な自動人形である。
「任せろ」
進み出たのは、アンアンだった。
憶すことなく、大股に歩み寄っていく。
遠ざかっていくアンアンの大きさが変わらないのは、遠近法に狂いが生じているのではなく、アンアンがゴーレムのサイズに合わせて巨大化しているからだろう。
たちまち身長5メートルにまで成長したアンアンが、ゴーレムと向かい合って立つ。
「くらえ!」
雄叫びとともに、殴った。
パンチ。
パンチ。
パンチ。
ナックルの連打を受けて、ゴーレムの胸板にいくつもの穴が開く。
が、それだけだった。
穴だらけにされても、ゴーレムは立っていた。
いや、それどころか…。
みるみるうちに穴がふさがり始めたのだ!
「なにい?」
アンアンが跳びすさる。
大きく後ろにジャンプして、僕らのところに戻ってきた。
「だめだ。あいつ、粘土でできてるから、物理攻撃が効かないんだ」
等身大に戻ると、悔しそうな顔で言う。
どん。
今度は俺の番だと言わんばかりに、ゴーレムが歩き出した。
両腕を頭上に振り上げて、こっちに向かってくる。
「玉のミサイルでぶっ飛ばす?」
一応提案してみると、
「ううん。それはラスボスの時までとっておきたいの。あれを倒しても、まだ後に大物がふたつ控えてるからね」
阿修羅がかぶりを振って、却下した。
「じゃあ、どうすれば…」
「土は何に弱い?」
「なんだっけ? 火、じゃなくて、水かな?」
「そう、水は粘土を溶かす」
「でも、水なんて、どこにもないぜ」
「あるわ」
阿修羅が後ろを振り向いた。
その視線の先に立っているのは…。
そう。
やっぱり、一ノ瀬だった。
「え? 何? 蘭ちゃんのその笑顔、もう嫌な予感しかしないんですけど」
おびえる一ノ瀬に、とっておきの笑顔を見せて、阿修羅が言った。
「おいで。蚊トンボ君。私があなたを今から男にしてあげる」
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