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第6章 アンアン魔界行
#59 風雲、阿修羅城⑪
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僕の叫びも空しく、だしぬけに宙づりになった身体ががくんと下がったかと思うと、アンアンがせり上がってきた山にまたがった。
ちょうど、両手首を縛っていた見えないロープが、急に緩んだかのような印象だった。
山の稜線は、斧の刃みたいに鋭くなっていた。
その上に、全体重をかけて落下したのだからたまらない。
「うっ」
世界の隅々にまで、アンアンのうめき声が響き渡った。
つけ根のあたりまでむき出しになった両方の太腿を、つーっと赤い筋が伝い降りるのが見えた。
出血しているのだ。
「まずい。このままじゃ、アンアンの股が裂けちまう」
僕はわめいた。
「そうだ、玉。ミサイルはどうした? 補充は完了してるのか?」
「はい、一応。この重さからすると、そのようです」
玉は安全バーと楽器ケースにはさまれて、ほとんど潰れそうになっている。
「今度のミサイルは、どんな性能なんだ? 色々種類があるんだろう?」
「いつものローテから予測するに、今回は冷凍弾ですね。命中した相手をマイナス273度にまで冷やす、スグレモノです」
「よし、いいぞ。それなら周囲への被害も最小限で済む」
「でも、どこを狙うんですかあ? まさかアンアンを撃って、ひと思いに楽にしてやれ、だなんて思ってないでしょうね?」
「違う違う。あの山をぶっ壊すんだよ。そうすればアンアンも、それ以上痛い思いをしなくて済むだろう?」
「でも、それだけでは何の解決にもなりませんよ。阿修羅様が、次の手を打ってきたらどうするんです?」
珍しく、まともなことを言う玉。
なるほどそうだ。
拷問道具をひとつぶっ壊したところで、それだけではアンアンを助けたことにはならないのだ。
現に阿修羅のやつ、さっき第1弾とか第2弾とか、言ってたような気もするし。
「まず、蘭ちゃんがどこにいるのか、見つけなきゃ。見つけたら、説得してやめさせるんだ」
一ノ瀬はそう言うけれど、仮に見つけたとしても、阿修羅が僕らの説得などに耳を貸すとはとても思えない。
だいたい、何のためにこんなことをしているのか、皆目見当がつかないのだ。
「そうですね。一ノ瀬君、ナイスです。説得はムリでも、ミサイル撃っちゃうぞーって、脅してやめさせる手はありますね」
「だろー? 俺っち、今回ちょっと冴えてるでしょ?」
「うんうん。とっても頼もしいですよー!」
「って玉」
僕は盛り上がる玉の小さな頭をこぶしでこつんと叩いた。
「おまえさ、阿修羅の召喚獣なんだろ? ってことは、あいつの手下じゃないか。なんで俺らの味方するんだよ」
「そ、それは…」
なぜだか玉の頬が桜色に染まった。
「召喚獣である前に、玉にも、ふつうの女の子としての、感情ってものがあるからです」
ちょうど、両手首を縛っていた見えないロープが、急に緩んだかのような印象だった。
山の稜線は、斧の刃みたいに鋭くなっていた。
その上に、全体重をかけて落下したのだからたまらない。
「うっ」
世界の隅々にまで、アンアンのうめき声が響き渡った。
つけ根のあたりまでむき出しになった両方の太腿を、つーっと赤い筋が伝い降りるのが見えた。
出血しているのだ。
「まずい。このままじゃ、アンアンの股が裂けちまう」
僕はわめいた。
「そうだ、玉。ミサイルはどうした? 補充は完了してるのか?」
「はい、一応。この重さからすると、そのようです」
玉は安全バーと楽器ケースにはさまれて、ほとんど潰れそうになっている。
「今度のミサイルは、どんな性能なんだ? 色々種類があるんだろう?」
「いつものローテから予測するに、今回は冷凍弾ですね。命中した相手をマイナス273度にまで冷やす、スグレモノです」
「よし、いいぞ。それなら周囲への被害も最小限で済む」
「でも、どこを狙うんですかあ? まさかアンアンを撃って、ひと思いに楽にしてやれ、だなんて思ってないでしょうね?」
「違う違う。あの山をぶっ壊すんだよ。そうすればアンアンも、それ以上痛い思いをしなくて済むだろう?」
「でも、それだけでは何の解決にもなりませんよ。阿修羅様が、次の手を打ってきたらどうするんです?」
珍しく、まともなことを言う玉。
なるほどそうだ。
拷問道具をひとつぶっ壊したところで、それだけではアンアンを助けたことにはならないのだ。
現に阿修羅のやつ、さっき第1弾とか第2弾とか、言ってたような気もするし。
「まず、蘭ちゃんがどこにいるのか、見つけなきゃ。見つけたら、説得してやめさせるんだ」
一ノ瀬はそう言うけれど、仮に見つけたとしても、阿修羅が僕らの説得などに耳を貸すとはとても思えない。
だいたい、何のためにこんなことをしているのか、皆目見当がつかないのだ。
「そうですね。一ノ瀬君、ナイスです。説得はムリでも、ミサイル撃っちゃうぞーって、脅してやめさせる手はありますね」
「だろー? 俺っち、今回ちょっと冴えてるでしょ?」
「うんうん。とっても頼もしいですよー!」
「って玉」
僕は盛り上がる玉の小さな頭をこぶしでこつんと叩いた。
「おまえさ、阿修羅の召喚獣なんだろ? ってことは、あいつの手下じゃないか。なんで俺らの味方するんだよ」
「そ、それは…」
なぜだか玉の頬が桜色に染まった。
「召喚獣である前に、玉にも、ふつうの女の子としての、感情ってものがあるからです」
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