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#15 最悪の事態

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 ーリコ、寝てる場合ではありません!
 大脳がイオの"声”で振動した。
 その"声"でリコは意識を取り戻した。
「くそ」
 腹這いのまま、腕立て伏せの要領で上体を持ち上げ、ぱっと飛び起きた。
 振り返ると、空き地の奥で商店街の住人たちが茂男に群がっていた。
 ふとっちょに羽交い絞めされた茂男に、バットが、ゴルフクラブが振り下ろされる。
 その度に鈍い音があたりに響き、リコは首をすくめた。
「裸に?いちまえ」
 誰かが笑いながら叫んだ。
 抵抗もむなしく、茂男の服が、ズボンがむしりとられていく。
 シャツが引き裂かれ、パンツを剥ぎ取られた。
 生白いたるんだ腹、陰毛に埋もれたしぼんだ陰茎が朝陽の下に曝け出される。
「は、こいつ包茎だぜ」
「さすがニート、一回も使ったことないんだろ」
「やめろ!」
 茂男は泣き叫んでいた。
 眼鏡が割れ、顔に斜めにぶら下がっている。
 涙がその丸い頬をぐしゃぐしゃにしていた。
 バットが茂男の股間を突いた。
 前のめりになる茂男をふとっちょが引きずり上げ、のけぞらせる。
 開いた太腿の間を一雄が先の尖った革靴で蹴った。
 睾丸を直撃され、茂男が白目を?いた。
 トサカがボクシングの真似をしてそのぶよぶよした下腹にパンチを叩き込む。
 茂男の半開きの口から、血反吐が飛んだ。
 オヤジがゴルフクラブで首筋を殴る。
 茂男が悲鳴を上げた。
 その顔面の真ん中に、誰かの拳がめり込んだ。
 鼻血が飛び散った。
「死ねよ、宇宙人」
 一雄がナイフを取り出すのが見えた。
「あいつら」
 リコは怒りで全身が震えるのを感じた。
 なんで。
 同じ人間相手に、どうしてそこまで残酷になれる?
 怒りに任せて走り出した。
 そのとき、意外なほど近くで爆発音が起こった。
 群衆の間にどよめきが走る。
 キーン。
 耳をつんざく金属音が響き渡った。
「な、なんだ、あれ?」
 誰かがいった。
 みんな、空き地に面したマンションのほうを見上げている。
 茂男の住んでいる、あの中古マンションである。
 つられてそちらに目をやったリコは、あっと叫んだ。
 マンションの上半分が吹き飛んでいた。
 白い煙の中に、なにやら巨大な影が見える。
 円盤型の頭部。
 部品や導線をむき出しにした機械の身体。
「ヘラ星人・・・」
 例の鳥のさえずりのような声が聞こえてきた。
 ヘラ星人が何かしゃべっているのだ。
 いつもと違い、ひどく切迫した速い旋律だった。
 -まずいです。
 リコの頭の中心で、イオがいった。
 -ヘラは怒っています。地球人にも、そして、リコ、あなたにも。
「あたし?」
 ーどうして茂男を守ってくれなかったんだ、そういっています。
「うう・・・ごめん」
 リコはうめいた。
 そうなのだ。
 私は彼を守ってやれなかった。
 何一つしてあげられなかった。
 ヘラが怒るのも無理はない。
 -リコが約束を破った以上、戦うといっています。
「か、怪獣だあ!」
 群集の中から声があがる。
「とうとう出やがった。警察だ、警察を呼べ!」
「怪獣は自衛隊だろ?」
「いや、違う」
 稲葉精肉店のオヤジが、リコを振り返った。
「こういうときこそ、地球防衛軍だ。CATの隊員の女が、そこにいる」
 男たちがリコの許に駆け戻ってきた。
「おい、あんた、早く本部に連絡して、怪獣をやっつけに来るようにいってくれ。そのためのCATだろ」
 リコは腰の脇で両の拳を握り締めた。
 なんという自分勝手な・・・。
 元はといえば。おまえらが怪獣を呼んだようなものなのに・・・!
 反吐が出そうだった。
 男たちの顔には一様に怯えの色が浮かんでいる。
 睨みつけていると、そのうちのひとりが怒鳴った。
「なにシカトしてんだよ! おまえら、俺たちの税金でめし食ってるんだろ! さっさと・・・」
 リコの右手が閃いた。
 男の頬が派手な音を立てる。
「とっとと消えな」
 もうひとりをブーツのつま先で蹴飛ばすと、リコは群集を尻目に倒壊したマンションへとひとりで近づいていった。
 初めて見るヘラ星人の全体像は、機械仕掛けのクラゲのようだった。
 円盤型の頭部の下から無数の触手が生え、空中でゆらゆら揺れている。
 リコが近づくと、そのうちでも特に長い二本がぐぐっと上に持ち上がった。
 光線が走った。
 リコの周りでたて続けに爆発が起こった。
 もんどり打って転がり、瓦礫の陰に隠れた。
 -リコ、変身を。
 イオがいった。
 -VOL4、格闘モードで。
「できないよ」
 リコはかぶりを振った。
「ヘラ星人は何も悪くない。その彼女と戦うなんてこと、あたしにはできないよ」
 -そのために、たくさんの人が死んでも、ですか?
「たくさんの人って、あいつらのことか」
 リコは逃げ惑う商店街の住人たちを、忌々しげに眺めた。
「そんなの、自業自得じゃないか。茂男が何したっていうんだよ。ヘラ星人でなくても普通怒るだろ」
 -人間は、弱いものだから。
 イオが噛んで含めるようにいう。
 -許して。そして戦って。
「許すも何も、あたしもそのくだらない人間のひとりなんだよ。それが腹立たしいんだ」
 リコの頬を涙が伝った。
 悔し涙だった。
 立ち上がる。 
 空き地から見えないことを確かめると、ぐいと制服の前を開いた。
 スポーツブラに包まれたEカップが飛び出した。
 ブラを押し下げ、乳房を露出した。
 ほぼ理想の形と大きさをしたロケットおっぱいである。
 右の金色の乳首をつまむ。
「ヘラ、茂男、ごめんよ」
 泣きながら、回した。
 変身が、始まった。
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