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#12 リコだからできること

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「まだ白を切るか。しかたない、こうしてやる!」
 ルシフェルの両手が光るのと、リコの頭にその妙案が浮かぶのとが、ほとんど同時だった。
 亀甲縛りで、乳房が絞りだされるように突き出ているのが幸いした。
「ええい!」 
 リコは思いっきり唯一自由になる首を曲げると、前歯で右の乳首を噛んだ。
 口が乳に、見事届いたのだ。
 ふつうの女子ではおそらく無理だろう。
 爆乳で、かつ体の柔らかいリコだからこそ、為せるワザだった。
 そのまま首を傾けて、乳首を回す。
 2メモリがせいいっぱいだった。
 が、それで十分だ、
 電撃が到達する寸前に、亜空間が開いた。
 めくるめく速さで、変身が始まった。
 縄が一気にはじけ飛ぶ。
「等身大格闘モード、MILKY!」
 叫んで、怪人に踊りかかる。
 こんなの、武器を使うまでもない。
 研修で習ったボクシングの要領で、殴った。
 一発、二発、三発。
「ぐわああ」
 怪人が揺らいだところに、左足の回し蹴り、右足の踵落としを連続でぶちかました。
 とどめのアッパーカットで倉庫の反対側の壁まで吹っ飛ばしてやった。
 床に落ちていたユニフォームと下着を拾い上げると、壁に体当たりして穴を開けた。
 外に出る。
 商店街からさほど離れていない工場の一角だった。
 門を出ると、コインパーキングに着地しているキャットファイターが見えた。
 嵐大作が巨体を持て余すようにしてその傍に突っ立ち、きょろきょろあたりを見回している。
 一応挨拶して、アリバイを作っておくことにした。
 乳首を戻して変身を解く。
 案の定、素っ裸になった。
 さすがに寒く、リコは派手なくしゃみをした。
 嵐がこちらを見る前に、すばやく下着と制服を身につける。
「リコ隊員、どこ行ってたでごわすか?」
 すたすたと近づいていくと、嵐がびっくりしたようにいった。
「キャットファイターって、トイレなかったんだね」
 リコはすまし顔で答えた。
「だからしょうがないから、飛び下りて商店街のトイレに行ってたんだよ」
「なるほどでごわす」
 嵐はこんな荒唐無稽な説明でも、素直に納得したようだった。
「ちびらなくて、よかったでごわす」
「じゃ、ごわす。あたし、ちょっと用があるから、これで」
 あっけにとられる嵐をその場に残して、駆け出した。

 マスコミや野次馬でごった返す商店街とは逆方向に向かう。
 楠木茂男のマンションである。
 階段を一足飛びで駆け上がり、インターホンのボタンを押す。
 覗き穴から茂男が覗く気配がして、チェーンロックのはずれる音がした。
「どうしたんだ?」
 ドアの隙間から体をねじこむようにして入ってきたリコを見上げて、茂男がたずねた。
「ひとつ訊くけど、あんた怪獣出してないよね? さっきのあの、キングザウルス4世」
「俺じゃないよ。窓から見てたけど、あれは本物だった」
「ヘラ星人に会わせて」
 大きいほうの冷蔵庫を開けると、例の緑色のカイメンが、ぴょろぴょろり~と小鳥のように囀った。
 -私じゃない、と主張しています。
 頭の中でイオが翻訳する。
「そうか。やっぱりあのデス星人の仕業だったんだ」
 リコはほっとした。
 茂男とヘラ星人を疑う心を捨てきれないでいたのだ。
「おまえこそ、さっきまた変身してただろ?」
 背後に立って、茂男がいった。
「隠してもだめだぞ。巨大化してサイズは違ってたけど、あれはおまえのボディそのままだった」
「このスケベ。だってしょうがないだろ? あの場合、あたしがやらなくて誰がやるってのさ」
 俺がやらずに誰がやる。
 おお、かっこいいじゃん、この決め台詞。
 って昔どっかのヒーローが使ってたっけ?
 水戸黄門だったか。
 いや、違う。
 そもそも水戸黄門って、ヒーローか?
 単なる徳川家の回し者じゃないのか。
 江戸時代、徳川家が正義というのはあまりに安易過ぎやしないだろうか。
 リコの思考がどんどんよそに逸れていくのを見かねたのか、頭の中でイオがいった。
 ーデス星人が姿を見せた以上、もうのんびりしてはいられません。リコ、ヘラを逃してあげなければ。
「そうだよな。あたしも、そう思ってたとこなんだ」
「おまえ、誰としゃべってるんだよ? もうひとり言なんていわせないぞ」
 茂男が気色悪そうにリコを睨む。
「目に見えないお友だちだよ。夢見がちな乙女には、目に見えないお友だちがつきものなのさ」
「だれが夢見がちな乙女だって?」
「そんなことより」
 リコは上から、茂男の早くも少し薄くなりかけたつむじのあたりを見下ろした。
「今晩は徹夜で探すよ。ヘラ星人の最後の部品。もう、3日だなんていっていられない」
「どうしてだよ」
「わからないの? 商店街の住民たちは、キングザウルス4世を暴れさせたのは、あんただと思うに決まってる。これまでの状況からして、それはまず間違いない。見ててごらん、絶対仕返しに来るから」
「そんな・・・」
 茂男はひるんだようだった。
「俺たち、何もやってないのに」
「そう、冤罪さ。でも、無実を証明する手立てもない。だったら、さっさと部品探して、逃げるしかないじゃないか」
「手伝って・・・くれるのか?」
 おずおずと茂男がいう。
「そう約束したろ?」
 リコはくびれた腰に両の拳を当てて、茂男を睨んだ。
「少しは人を信用しろよな」
「あ、ありがとう・・・」
 どんな心境の変化か、茂男が赤くなった。
 どぎまぎしたように、リコから目をそらす。
「もう少し商店街のほうが落ち着いたら、外に何か食べに行こう。サイゼリアかガストがいい」
「安いから?」
「そう。グラドルって、ごく一部のスターを覗けば基本貧乏なの」
「おまえ。グラドルなの?」
「え? 知らなかったの?」
 リコは少し傷ついた。
 やっぱりまだ知名度低いんだ、とがっくりした。
「だってキャットの隊員の制服着てるじゃないか」
「兼業なんだよ。グラドルと地球防衛軍の」
「なんて名前のグラドル?」
「本名そのままだよ。大台ケ原リコ」
「リコねえ」
 茂男が机の上のパソコンを操作した。
「うは、ほんとだ。むちゃエロいな」
 リコの画像を見つけたのだろう。
 半ば呆れ、半ば感心したようにつぶやいた。
「今度初DVD出るから、買ってよね」
 すかさず営業活動にかかるリコ。
「あ、ああ。ってその頃、俺たぶん宇宙だよ」
 茂男が頭をかいた。
「あ、そっか」
 リコは思わず吹き出した。
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