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#1 初任務
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昼下がりのマクドナルド。
窓際の席に、カーキ色の制服を着た女性のふたり組が坐っている。
髪が長く、細面の目つきの鋭い娘と、
ツインテールのあどけない顔立ちの少女である。
長身で、目つきのするどいほうが、大台ケ原リコ。
バスト90は伊達ではなく、テーブルに胸がつっかえている。
ミニスカートから伸びたすらりとした長い脚は、
狭いテーブルの下で完全に行き場をなくしている。
小柄な童顔の少女が、星百合。
これでも、リコのふたつ年上の二十歳。
ふたりは地球防衛組織『CAT』のメンバーで、
現在巡回パトロールの最中なのだ。
リコは200円バーガー3種類を、一個ずつ食べ終えたところだった。
「リコちゃん、よく食べるね」
ミルクシェイクのストローを銜えながら、百合がいう。
「それ、おいしいの?」
百合自身は、シェイクのほかはポテトしか頼んでいないのだ。
「エグチとハムタスはまあまあだけど」
リコが生真面目な表情で答える。
「最後のバベボは微妙。何あれ? ソース味?」
リコは本来、豆腐と納豆が主食なのだが、
外出したときなどにはジャンクフードもよく食べる。
本業のグラビアアイドルは就業時間が不規則な上に、
ろくに食事時間がないので、マックの存在は極めて貴重なのだ。
「でもリコちゃん、すごいよね」
テーブルについた両手に顎を乗せ、リコを見つめて百合がいう。
「4か月分の研修、たった1ケ月でクリアしちゃったんだもの」
12月からこの1月半ばにかけて、リコは瀬戸内海の無人島で
秘密の研修を受けさせられたのだった。
自衛隊やSATと合同というかなりハードな内容の新人研修である。
が、もとよりリコは優秀なヤンキーで、運動能力にも秀でていた。
中学時代、陸上で鍛えただけあり、足も速い。
自動二輪もトラックも無免許だが、乗れた。
それが、戦闘機の操縦訓練に役立った。
また、動体視力が生まれつき優れていたため、射撃訓練の成績も抜群だった。
喧嘩慣れしているので、格闘訓練も楽勝でクリアできた。
唯一の障害が座学だったが、記憶力だけは自信があったから、
テキストを丸暗記してなんとかパスした。
そんなにまでしてリコが研修の日程を短縮させたのは、
本業に支障を来たさないためだった。
グラドルの仕事は、旬のときが命である。
4ヶ月もメディアに露出しないでいたら、世間に忘れられてしまうに違いない。
そう思ったのだ。
「まわり全員男だったから、色々面倒くさかったけど」
ポテトを30本くらい一気につかんで口の中に放り込むと、
ガシガシ噛み砕きながらリコは答えた。
「ま、でも、いい運動になったし、いろんなものに乗れて、
けっこう楽しかったよ」
客観的に見て、リコはかなりの美少女である。
長いストレートヘアと、通った鼻筋、大きな目。
スタイルも9頭身でバスト90、ウェスト58、ヒップ88と
モデルを凌ぐグラマーぶりだ。
だが、立ち居振る舞いとしゃべる言葉に問題があった。
オヤジ臭いのである。
まったく可愛げがないのだ。
いわば、アニメオタクやアイドルオタクが熱狂する萌え系キャラとは。
極北に位置する性格なのである。
だから、気の弱い男はリコの前に出ると、
ヘビに睨まれた蛙のように萎縮してしまうのが常だった。
「そんなリコちゃんにぴったりの任務があるんだけどね」
ミルクシェイクをちびちび飲みながら、百合がいった。
「この商店街に、最近妙なうわさが流れてるの。
なんでも、宇宙人が住んでるんだって」
「宇宙人?」
リコの目つきが鋭くなる。
リコは宇宙人の存在を信じている。
現に今も頭の中に一匹飼っているし、1ケ月ほど前、
実際に別のやつを目撃したことがあるからだ。
「うん。マンションにひとり暮らししてるニートらしいんだけど、
超能力使って悪さするんだって」
「ニートがマンション?」
リコが顔をしかめた。
「贅沢だな」
働かざる者、食うべからず。
それを信条にしているせいで、軟弱者には特に厳しいのだ。
「で、隊長が、リコちゃんに調査してもらえって」
百合の言葉に、リコは北斗隊長の顔を思い出し、少しげんなりした。
『CAT日本支部東海地区出張所』の課長代理である北斗隊長は、
百合と同じ20歳の青年だ。
遺伝子操作で生まれたデザイナーチルドレンのひとりである。
高校のガリ勉生徒会長のような容姿をしている。
常に上から目線を崩さない、リコのもっとも苦手とするタイプの男だった。
「隊長命令なの?」
嫌そうに、訊いた。
「だね」
気の毒そうに、百合が答える。
「百合は?」
「百合には別の任務があるの。京都支部のスーパーコンピュータ
『NATSU』がさ、またヘンテコな予言始めちゃったんだって。
なんでも2年後、太陽系が破滅するとかなんとか。
その発表会に出なきゃなんないの」
百合のつぶらな瞳には、不安の影が宿っていた。
「それって・・・」
いいかけて、リコは言葉を飲み込んだ。
"虚無の天使"?
そう、直感的に悟ったのだ。
「ほんとはリコちゃんと一緒に、宇宙人の調査のほう、
やりたかったんだけどね」
百合が可愛らしく頬を膨らませる。
「とりあえず、ポメラリアンは置いてくから、リコちゃん自由に使って。
百合はこのままリニアで京都行くんで」
ポメラリアンというのは、ふたりがパトロールに使っているCAT専用車両の
愛称である。
北斗隊長としては、本来は『ポインター』にしたかったそうなのだが、
大昔の特撮ドラマと被ってしまうため、やむなく命名係の百合が
そう名づけたらしい。
まあ、サイズは軽自動車だから、ポインターは大げさだろう、
というのが、正直なリコの感想だった。
「リニアか。いいな」
乗り物好きなリコが、うらやましそうにいう。
「南アルプスぶち抜いて時速500キロで空中突っ走るやつでしょ?
あたしはそっちのほうがいいよ」
東京ー名古屋ー大阪間をリニア新幹線が走るようになったのは、
つい半年前のことである。
「京都行きは南アルプス、通らないけどね」
百合が笑う。
「そうなんだ」
リコはつまらなそうにつぶやくと、やおら立ち上がった。
ジャケットの裾が短いので、平らな腹と小さなへそがもろに見えている。
「じゃ、いこっか。そのニートな宇宙人のとこに、案内してよ」
「それ、反対だと思う。ニートな宇宙人じゃなくて、宇宙人のニートだよ」
「どっちもおんなじじゃん」
リコがふんと鼻で笑う。
煙草が吸いたくて、たまらなくなっていたのだ。
窓際の席に、カーキ色の制服を着た女性のふたり組が坐っている。
髪が長く、細面の目つきの鋭い娘と、
ツインテールのあどけない顔立ちの少女である。
長身で、目つきのするどいほうが、大台ケ原リコ。
バスト90は伊達ではなく、テーブルに胸がつっかえている。
ミニスカートから伸びたすらりとした長い脚は、
狭いテーブルの下で完全に行き場をなくしている。
小柄な童顔の少女が、星百合。
これでも、リコのふたつ年上の二十歳。
ふたりは地球防衛組織『CAT』のメンバーで、
現在巡回パトロールの最中なのだ。
リコは200円バーガー3種類を、一個ずつ食べ終えたところだった。
「リコちゃん、よく食べるね」
ミルクシェイクのストローを銜えながら、百合がいう。
「それ、おいしいの?」
百合自身は、シェイクのほかはポテトしか頼んでいないのだ。
「エグチとハムタスはまあまあだけど」
リコが生真面目な表情で答える。
「最後のバベボは微妙。何あれ? ソース味?」
リコは本来、豆腐と納豆が主食なのだが、
外出したときなどにはジャンクフードもよく食べる。
本業のグラビアアイドルは就業時間が不規則な上に、
ろくに食事時間がないので、マックの存在は極めて貴重なのだ。
「でもリコちゃん、すごいよね」
テーブルについた両手に顎を乗せ、リコを見つめて百合がいう。
「4か月分の研修、たった1ケ月でクリアしちゃったんだもの」
12月からこの1月半ばにかけて、リコは瀬戸内海の無人島で
秘密の研修を受けさせられたのだった。
自衛隊やSATと合同というかなりハードな内容の新人研修である。
が、もとよりリコは優秀なヤンキーで、運動能力にも秀でていた。
中学時代、陸上で鍛えただけあり、足も速い。
自動二輪もトラックも無免許だが、乗れた。
それが、戦闘機の操縦訓練に役立った。
また、動体視力が生まれつき優れていたため、射撃訓練の成績も抜群だった。
喧嘩慣れしているので、格闘訓練も楽勝でクリアできた。
唯一の障害が座学だったが、記憶力だけは自信があったから、
テキストを丸暗記してなんとかパスした。
そんなにまでしてリコが研修の日程を短縮させたのは、
本業に支障を来たさないためだった。
グラドルの仕事は、旬のときが命である。
4ヶ月もメディアに露出しないでいたら、世間に忘れられてしまうに違いない。
そう思ったのだ。
「まわり全員男だったから、色々面倒くさかったけど」
ポテトを30本くらい一気につかんで口の中に放り込むと、
ガシガシ噛み砕きながらリコは答えた。
「ま、でも、いい運動になったし、いろんなものに乗れて、
けっこう楽しかったよ」
客観的に見て、リコはかなりの美少女である。
長いストレートヘアと、通った鼻筋、大きな目。
スタイルも9頭身でバスト90、ウェスト58、ヒップ88と
モデルを凌ぐグラマーぶりだ。
だが、立ち居振る舞いとしゃべる言葉に問題があった。
オヤジ臭いのである。
まったく可愛げがないのだ。
いわば、アニメオタクやアイドルオタクが熱狂する萌え系キャラとは。
極北に位置する性格なのである。
だから、気の弱い男はリコの前に出ると、
ヘビに睨まれた蛙のように萎縮してしまうのが常だった。
「そんなリコちゃんにぴったりの任務があるんだけどね」
ミルクシェイクをちびちび飲みながら、百合がいった。
「この商店街に、最近妙なうわさが流れてるの。
なんでも、宇宙人が住んでるんだって」
「宇宙人?」
リコの目つきが鋭くなる。
リコは宇宙人の存在を信じている。
現に今も頭の中に一匹飼っているし、1ケ月ほど前、
実際に別のやつを目撃したことがあるからだ。
「うん。マンションにひとり暮らししてるニートらしいんだけど、
超能力使って悪さするんだって」
「ニートがマンション?」
リコが顔をしかめた。
「贅沢だな」
働かざる者、食うべからず。
それを信条にしているせいで、軟弱者には特に厳しいのだ。
「で、隊長が、リコちゃんに調査してもらえって」
百合の言葉に、リコは北斗隊長の顔を思い出し、少しげんなりした。
『CAT日本支部東海地区出張所』の課長代理である北斗隊長は、
百合と同じ20歳の青年だ。
遺伝子操作で生まれたデザイナーチルドレンのひとりである。
高校のガリ勉生徒会長のような容姿をしている。
常に上から目線を崩さない、リコのもっとも苦手とするタイプの男だった。
「隊長命令なの?」
嫌そうに、訊いた。
「だね」
気の毒そうに、百合が答える。
「百合は?」
「百合には別の任務があるの。京都支部のスーパーコンピュータ
『NATSU』がさ、またヘンテコな予言始めちゃったんだって。
なんでも2年後、太陽系が破滅するとかなんとか。
その発表会に出なきゃなんないの」
百合のつぶらな瞳には、不安の影が宿っていた。
「それって・・・」
いいかけて、リコは言葉を飲み込んだ。
"虚無の天使"?
そう、直感的に悟ったのだ。
「ほんとはリコちゃんと一緒に、宇宙人の調査のほう、
やりたかったんだけどね」
百合が可愛らしく頬を膨らませる。
「とりあえず、ポメラリアンは置いてくから、リコちゃん自由に使って。
百合はこのままリニアで京都行くんで」
ポメラリアンというのは、ふたりがパトロールに使っているCAT専用車両の
愛称である。
北斗隊長としては、本来は『ポインター』にしたかったそうなのだが、
大昔の特撮ドラマと被ってしまうため、やむなく命名係の百合が
そう名づけたらしい。
まあ、サイズは軽自動車だから、ポインターは大げさだろう、
というのが、正直なリコの感想だった。
「リニアか。いいな」
乗り物好きなリコが、うらやましそうにいう。
「南アルプスぶち抜いて時速500キロで空中突っ走るやつでしょ?
あたしはそっちのほうがいいよ」
東京ー名古屋ー大阪間をリニア新幹線が走るようになったのは、
つい半年前のことである。
「京都行きは南アルプス、通らないけどね」
百合が笑う。
「そうなんだ」
リコはつまらなそうにつぶやくと、やおら立ち上がった。
ジャケットの裾が短いので、平らな腹と小さなへそがもろに見えている。
「じゃ、いこっか。そのニートな宇宙人のとこに、案内してよ」
「それ、反対だと思う。ニートな宇宙人じゃなくて、宇宙人のニートだよ」
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