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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#37 奇策!
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翌11月19日木曜日。
ナミは3日ぶりに登校した。
島からの帰宅が夕べの最終フェリーと電車を乗り継いでのものだっただけに、さすがに疲れていた。
困ったのは髪の毛である。
お気に入りだったふわふわヘアが玉子の電撃のせいでチリチリになってしまい、ツインテールにもポニーテールにもできなくなってしまったのだ。
しかたなく頭頂部で束ねておだんごにすることにした。
ちょっと子どもっぽいが、何もしないよりはましだった。
「あ、ナミ、おはよ! 兄弟そろってインフルエンザだったんだってね。もう出てきて大丈夫なの?」
教室に入ると、となりの席の女生徒が声をかけてきた。
「まあね」
無愛想にナミは答えた。
ナギは一足先に来ていて、教室の隅でクラスメートたちとふざけあっている。
「へーえ、ナミったらイメージチェンジ?」
その声に、前の席の生徒が振り向いた。
「なんかかわいくていいよー。前のより親しみやすいっていうか」
「だよね。うちもそう思う!」
女子同士、ふたりで勝手に盛り上がっている。
別に親しみやすくなんて、ならなくていいのに。
ナミは机に頬杖をつき、窓の外を見た。
インフルエンザで休んでいたことになっていたわけか。
ナギにしては上出来だ。
しかし、問題は昨夜麗奈と話した”あれ”だ。
素材はほぼそろっている。
しかし、どうやって取り出したらいいのか。
心臓である。
ルルイエ復活のためには、生きた若い女の心臓が99個必要なのだ。
「シンなら多少外科手術の心得があるけれど、ひとりで99人の女を解剖するというのはどうかしら」
昨夜計画について話し合ったとき、麗奈はいったのである。
「できないことはないでしょう。でも、厖大な時間がかかりそう」
いわれてみれば、確かにそうだった。
いくら女を99人調達できても、一人一人胸を裂いて心臓を取り出すというのはあまりに効率が悪すぎる。
もっと簡単に心臓を摘出するいい方法はないものか。
"大いなる腕輪"を取り返されてしまった以上、急がないとヒバナたちに先を越されてしまう。
第5の神獣"黄竜"を召喚されて教団施設を襲撃でもされたら、せっかくの計画が水の泡だ。
魔都ルルイエを浮上させ、旧神クトゥルーを蘇らせるという遠大な計画が・・・。
ナミが不機嫌に黙り込んでしまったので、気まずくなったのか、女子2人はすごすごと自分の席に戻っていった。
1時限目の授業の前に担任が期末テストの範囲表を配った。
「むちゃ範囲広いじゃん」
「うー最悪!」
悲鳴が飛び交う中、ナミはぼんやりとプリントに目を落とした。
テストの範囲など、別に気にもならなかった。
所詮人間のコドモの習う内容だ。
どこが出題されようが、ナミに解けない問題などない。
気になったのは、日にちである。
11月30日月曜日から、一週間。
ということは、少なくともその前にはルルイエ浮上の目処をつけておく必要がある。
つまり、来週一杯が期限ということだ。
急がなくては。
ナミは焦りを覚えた。
でも、いったいどうしたら・・・。
妙案が浮かんだのは、その日の昼休みのことだった。
購買部でパンと牛乳を買って渡り廊下を歩いているときである。
突然ナミは首筋に痛みを感じ、振り向いた。
校庭で男子生徒たちがふざけあっている。
「あ、わりい、当たっちゃった?」
中のひとりが、へらへら笑いながらいった。
手に拳銃のようなものを持っている。
モデルガンだ。
それで、ナミを狙って撃ったのだ。
ナミの猫のような目が、すっと細くなる。
「おまえ、何してるんだよ」
周囲の生徒が騒ぎ始めた。
男子生徒がやにわにモデルガンを自分に向け、口にくわえたのだ。
目を白黒させている。
腕が己の意志に関係なく勝手に動き始めたのだから、無理もない。
引き金を引かせようとして、ふとナミは"手綱"を緩めた。
あることに思い当たったのだ。
モデルガン?
何か、ひっかかる。
何だろう?
つかつかと男子生徒に歩み寄ると、モデルガンを取り上げてナミは訊いた。
「これ、どうしたの?」
「つ、つくったんだよ」
少年が、蛇に魅入られた蛙のような怯えた表情をして、答えた。
「つくった?」
ナミの柳眉が吊りあがる。
「どうやって?」
「3Dプリンターさ。うちの兄貴が買ってきたんで、色々試しにつくってみたんだよ・・・」
「3Dプリンター?」
ナミの瞳がきらりと光った。
それだ。
記憶が蘇る。
リセット前のヒューズ1の世界で、ナミもかつてそれを使って神獣の腕輪と御霊を複製したことがある。
緋美子を対ヒバナ用の魔少女に仕立て上げようとしたときのことだ。
あれは、けっこううまくいった。
一時的にだが、あのとき緋美子は、四神獣すべての属性を備えた超人に変身できるようになったのだった。
ならば、事は簡単ではないか。
「ありがと」
ナミは少年にモデルガンを返すと、マインドコントロールから解放してやった。
校庭の裏に回り、スマホを取り出した。
登録したばかりの番号にかけると、すぐに麗奈が出た。
「シンに3Dプリンターを用意させて。それもできるだけ高性能なものを」
「何に使うの?」
麗奈がたずねてきた。
「心臓よ」
ナミはいった。
「心臓は、ひとつ手に入れるだけでいい。後の98個は、3Dプリンターで複製しちゃえばいい」
麗奈が向こうで息を呑む気配が伝わってきた。
「オリジナルの心臓の提供者は、あたしに選ばせて。心当たりがあるんだ。決行は、今度の土曜日あたりでどう? 土曜なら、学校休みだから、あたしそっちにいけるし」
「わかったわ」
麗奈がいった。
「私は他に何をしておけばいいの」
「ルルイエ浮上の儀式の詳細を調べ、場所を確保することかな。心臓がそろったら、すぐに儀式を始められるように」
「OK」
通話を切ると、ナミはパンの袋を片手に歩き出した。
もうすぐだ。
わき上がる闘志に頬が緩むのを感じながら、思った。
こんな世界、滅ぼしてやる。
ヒバナや玉子、もろともに。
ナミは3日ぶりに登校した。
島からの帰宅が夕べの最終フェリーと電車を乗り継いでのものだっただけに、さすがに疲れていた。
困ったのは髪の毛である。
お気に入りだったふわふわヘアが玉子の電撃のせいでチリチリになってしまい、ツインテールにもポニーテールにもできなくなってしまったのだ。
しかたなく頭頂部で束ねておだんごにすることにした。
ちょっと子どもっぽいが、何もしないよりはましだった。
「あ、ナミ、おはよ! 兄弟そろってインフルエンザだったんだってね。もう出てきて大丈夫なの?」
教室に入ると、となりの席の女生徒が声をかけてきた。
「まあね」
無愛想にナミは答えた。
ナギは一足先に来ていて、教室の隅でクラスメートたちとふざけあっている。
「へーえ、ナミったらイメージチェンジ?」
その声に、前の席の生徒が振り向いた。
「なんかかわいくていいよー。前のより親しみやすいっていうか」
「だよね。うちもそう思う!」
女子同士、ふたりで勝手に盛り上がっている。
別に親しみやすくなんて、ならなくていいのに。
ナミは机に頬杖をつき、窓の外を見た。
インフルエンザで休んでいたことになっていたわけか。
ナギにしては上出来だ。
しかし、問題は昨夜麗奈と話した”あれ”だ。
素材はほぼそろっている。
しかし、どうやって取り出したらいいのか。
心臓である。
ルルイエ復活のためには、生きた若い女の心臓が99個必要なのだ。
「シンなら多少外科手術の心得があるけれど、ひとりで99人の女を解剖するというのはどうかしら」
昨夜計画について話し合ったとき、麗奈はいったのである。
「できないことはないでしょう。でも、厖大な時間がかかりそう」
いわれてみれば、確かにそうだった。
いくら女を99人調達できても、一人一人胸を裂いて心臓を取り出すというのはあまりに効率が悪すぎる。
もっと簡単に心臓を摘出するいい方法はないものか。
"大いなる腕輪"を取り返されてしまった以上、急がないとヒバナたちに先を越されてしまう。
第5の神獣"黄竜"を召喚されて教団施設を襲撃でもされたら、せっかくの計画が水の泡だ。
魔都ルルイエを浮上させ、旧神クトゥルーを蘇らせるという遠大な計画が・・・。
ナミが不機嫌に黙り込んでしまったので、気まずくなったのか、女子2人はすごすごと自分の席に戻っていった。
1時限目の授業の前に担任が期末テストの範囲表を配った。
「むちゃ範囲広いじゃん」
「うー最悪!」
悲鳴が飛び交う中、ナミはぼんやりとプリントに目を落とした。
テストの範囲など、別に気にもならなかった。
所詮人間のコドモの習う内容だ。
どこが出題されようが、ナミに解けない問題などない。
気になったのは、日にちである。
11月30日月曜日から、一週間。
ということは、少なくともその前にはルルイエ浮上の目処をつけておく必要がある。
つまり、来週一杯が期限ということだ。
急がなくては。
ナミは焦りを覚えた。
でも、いったいどうしたら・・・。
妙案が浮かんだのは、その日の昼休みのことだった。
購買部でパンと牛乳を買って渡り廊下を歩いているときである。
突然ナミは首筋に痛みを感じ、振り向いた。
校庭で男子生徒たちがふざけあっている。
「あ、わりい、当たっちゃった?」
中のひとりが、へらへら笑いながらいった。
手に拳銃のようなものを持っている。
モデルガンだ。
それで、ナミを狙って撃ったのだ。
ナミの猫のような目が、すっと細くなる。
「おまえ、何してるんだよ」
周囲の生徒が騒ぎ始めた。
男子生徒がやにわにモデルガンを自分に向け、口にくわえたのだ。
目を白黒させている。
腕が己の意志に関係なく勝手に動き始めたのだから、無理もない。
引き金を引かせようとして、ふとナミは"手綱"を緩めた。
あることに思い当たったのだ。
モデルガン?
何か、ひっかかる。
何だろう?
つかつかと男子生徒に歩み寄ると、モデルガンを取り上げてナミは訊いた。
「これ、どうしたの?」
「つ、つくったんだよ」
少年が、蛇に魅入られた蛙のような怯えた表情をして、答えた。
「つくった?」
ナミの柳眉が吊りあがる。
「どうやって?」
「3Dプリンターさ。うちの兄貴が買ってきたんで、色々試しにつくってみたんだよ・・・」
「3Dプリンター?」
ナミの瞳がきらりと光った。
それだ。
記憶が蘇る。
リセット前のヒューズ1の世界で、ナミもかつてそれを使って神獣の腕輪と御霊を複製したことがある。
緋美子を対ヒバナ用の魔少女に仕立て上げようとしたときのことだ。
あれは、けっこううまくいった。
一時的にだが、あのとき緋美子は、四神獣すべての属性を備えた超人に変身できるようになったのだった。
ならば、事は簡単ではないか。
「ありがと」
ナミは少年にモデルガンを返すと、マインドコントロールから解放してやった。
校庭の裏に回り、スマホを取り出した。
登録したばかりの番号にかけると、すぐに麗奈が出た。
「シンに3Dプリンターを用意させて。それもできるだけ高性能なものを」
「何に使うの?」
麗奈がたずねてきた。
「心臓よ」
ナミはいった。
「心臓は、ひとつ手に入れるだけでいい。後の98個は、3Dプリンターで複製しちゃえばいい」
麗奈が向こうで息を呑む気配が伝わってきた。
「オリジナルの心臓の提供者は、あたしに選ばせて。心当たりがあるんだ。決行は、今度の土曜日あたりでどう? 土曜なら、学校休みだから、あたしそっちにいけるし」
「わかったわ」
麗奈がいった。
「私は他に何をしておけばいいの」
「ルルイエ浮上の儀式の詳細を調べ、場所を確保することかな。心臓がそろったら、すぐに儀式を始められるように」
「OK」
通話を切ると、ナミはパンの袋を片手に歩き出した。
もうすぐだ。
わき上がる闘志に頬が緩むのを感じながら、思った。
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