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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#33 晩飯!

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 その日、島から家に戻ったのは、深夜0時近くのことだった。
 玉子の家に泊めてもらってもよかったのだが、レオンと話がしたかったし、まず何より先に帰したお通夜のことが気になってならなかったのだ。
「ただいまあ」
 ふらふらの状態で居間のガラス戸を開けると、母の薫とエリマキトカゲのレオンが、仲良く炬燵に入ってテレビのバラエティ番組を見ていた。
 炬燵の上の皿には、おいしそうな蜜柑が山盛りになっている。
「ママ、晩ご飯は?」
 訊くと、
「真夜中に帰ってきて晩ご飯も何もないわよ。みんなこの子が食べちまったよ」
 そんなつれない返事が返ってきた。
「悪いな」
 器用に前足で蜜柑の皮を剝きながら、エリマキトカゲがいう。
「んもう! 人がせっかく世界平和のために戦ってきたっていうのに!」
 ヒバナはその場にヘナヘナとへたりこんだ。
「何寝ぼけたこといってんの、いい年した娘が。またそんなコスプレで外ふらふらして! ヒバナ、あんたももうすぐ成人式なんだから、少しは落ちつきなさい!」
 薫がいきなり母親面をしていった。
 ひどい扱いだった。
 普通アニメなんかでは、魔法少女たちの母親というのは、もう少し理解があるものではないか。
 娘の真の姿に気づけとまではいわないが、少なくとも夕飯くらいは作ってくれてもいいはずだ。
「だって・・・おなかすいたんだもん」
 泣きそうになるヒバナ。
 こんなことなら、無理をいってでも、玉子の家に泊めてもらうんだったな、と思う。
「しょうがないな」
 いったのはレオンだった。
「俺がつきあってやるよ。商店街のデニーズなら、まだ開いてるだろ?」
「そりゃ、あそこは24時間営業だからね。でもまあ、ちょうどいいかあ。レオンに聞いてもらいたい話もあるしさ」
 ヒバナがぼやくと、
「はい、3000円あげるから、ふたりで行っておいで。あたしはもう寝るから。あしたは仕事、朝からなんでね」
 薫がでっかい財布からお札を3枚取り出して、炬燵の上に置く。
「さんきゅー。さすがママ、ふっとぱら!」
 急に元気が出てきて、ヒバナはレオンの首を後ろからひっつかむと、玄関から飛び出した。
 ヒバナの家はマンションの5階だが、エレベーターを待つつもりはなかった。
 手すりをひらりとまたぎ越え、飛び降りた。
 自転車置き場に着地する。
 愛車を引っ張り出して、ペダルを漕いだ。
 レオンは前籠に入っている。
「うわ、ちょ、ちょっとは安全運転してくれよ」
 籠の中で叫ぶエリマキトカゲには目もくれず、時速80キロで走った。
 別に自転車に仕掛けがあるわけではない。
 変身していなくても、ヒバナの筋力は常人のレベルをはるかに超えているのだ。
 さすがに深夜過ぎともなると、店は空いていた。
 ミートスパの大盛とミックスグリル定食を注文した。
 レオンは野菜サンドのセットである。
 「おまえ、そんなに食べるのかよ」
 運ばれてきた料理を見るなり、レオンが目を丸くした。
「だって、食べ盛りなんだもん」
 ヒバナはどちらかというとスマートな体型をしている。
 が、体重は90キロ近くある。
 骨と筋肉の密度が異様に高いためだ。
 その分、エネルギーが余分に必要だった。
 したがって、ヒバナの家庭のエンゲル係数は驚くほど高い。
「そんなことより、ちょっと聞いてくれない?」
 ちょこんと椅子に腰かけているエリマキトカゲを気味悪そうに横目で見ながらウェイトレスが去っていくと、テーブルの上に身を乗り出して、ヒバナは口を切った。
「腕輪はなんとか取り返すことができたんだけどね。ほら」
 大いなる腕輪をポシェットから取り出し、レオンの前に置いた。
「おお、これだ。よくやった」
 腕輪に前足を伸ばし、目を細めるレオン。
「でもさ、予想通り怪獣が出ちゃって、しかもつやちゃんのお父さんが・・・」
 きょうの出来事を、かいつまんで話して聞かせた。
「まずいな」
 聞き終えると、レオンがつぶやいた。
「そんな状態だと、お通夜がうんといってくれるかどうか・・・」
「黄竜の依り代のこと?」
「そうだ。メンバーの中では、条件に合うのは彼女しかいないんだが」
「だよね。腕輪があっても肝心の依り代がいないんじゃ、竜の召喚、できないもんね」
 コーヒーカップを口に運ぶ手を止めて、ヒバナがため息をつく。
「おまえの知り合いで、他に誰かいないか? 十代から二十代で、処女の娘」
「鬼童神社の青沼美月ちゃんとか、ひずみちゃんの同級生の伊丹幸ちゃんとか、そりゃいないこともないけどさ、でも、処女かどうかなんて訊けないもんなあ」
 これまでの事件で関わった少女たちを思い出し、ヒバナはいった。
「やっぱり、お通夜に頼むしかないか」
 サンドイッチをかじりながら、レオンがつぶやく。
「オーディション、やってみたら? インターネットで宣伝してさ。竜に変身したい人、集まれって」
「おまえが変身するとこを動画で流せば、けっこう集まるかもな」
「でしょ? 名案だと思わない?」
「アホ」
 レオンが鼻の頭に皺を寄せてヒバナを睨んだ。
「目立ってどうする? 世界中の諜報機関やらテロ組織やらが神獣の秘密を手に入れるために、俺たちに襲いかかってくるぞ。そんな面倒はごめんだね」
「なんかわくわくする展開っぽいけどなあ」
「だ・め・だ。緋美子やひずみが受験失敗してもいいのか?」
「ああ、それはだめ」
 ヒバナは落ち込んだ。
 ただでさえふたりには迷惑をかけっぱなしなのだ。
 そんなことが許されていいはずがない。
「明日、わたし、つやちゃんに会いにいってくるよ」
 やがて、ヒバナはいった。
「レオンは糸魚川さんと古墳探しでしょ?」
「ああ。まず北から攻めようと思ってる。守山から小幡にかけて、古墳群が密集してるからな」
「わたし、夜は仕事だから、お互いの報告は『アイララ』でってことにしようか。糸魚川さんにそういっといてくれる?」
「了解。急がないとな。ナミが戦闘不能状態の今こそ、事を進めるチャンスだからな」
「だよね」
 うなずくヒバナ。
 あのイザナミの化身が本領を発揮したら、とんでもなく面倒なことになる。
 そう思ったのだ。


 

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